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黄金の烏 [読書・ファンタジー]

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」に続く、
大河ファンタジー「八咫烏シリーズ」の第3巻。

人形(じんけい)から鳥形(ちょうけい)へと
変身できる能力を持つ人々が住まう世界、「山内(やまうち)」。
彼らは「八咫烏」と呼ばれ、
その世界を支配する者は「金烏代(きんうだい)」と称される。

第一作「単」では、
やがて金烏代を嗣ぐことになる日嗣の御子(若宮)の后選びが、
そして第二作「主」では、
后選びの裏で並行して起こっていた、
若宮の腹違いの兄宮・長束(なつか)を奉じる一派との暗闘が描かれた。

そしてどうやら、前2作は舞台説明と登場人物紹介を兼ねた
プロローグだったらしい。おお、なんて壮大な(笑)。
もっとも、独立した長編としても十分面白かったし、
そうでなければ続巻の刊行もなかっただろう。

前作「主」では、郷士の次男坊で
若宮の側仕えとして山内に上がった少年・雪哉(ゆきや)を中心に
物語が綴られていったが、
第3作の本書でも引き続き雪哉がメインキャラを務めている。


故郷である垂氷郷へ帰っていた雪哉の前に一羽の八咫烏が現れるが、
正気を失っている彼は仲間を、そして子供を襲い始める。
そこへ現れた若宮から、「仙人蓋」という薬物が密かに広まりつつあり、
狂った八咫烏もそれに犯されていたことが判明する。

雪哉は若宮とともに「仙人蓋」の流れを追い始める。
そして辺境の村・栖合(すごう)へやってきた二人は、
住民たちを食らい尽くす "大猿" を目撃する。

村のただ一人の生存者は小梅という少女。
父親に眠り薬を盛られ、長櫃の中でぐっすり寝込んでいて
難を免れたという。
しかし彼女の父親は行方をくらませており、
"大猿" について何か鍵を握っているものと思われた。
そして彼女自身も、何かの事情を隠し持っている様子が・・・

雪哉と若宮は、「仙人蓋」と "大猿"、二つの謎を追って
"地下街"(宮廷権力の及ばない裏社会)の支配者、
"鵄"(とび)に接触しようとするが・・・


シリーズも進んできて、根幹に関わる設定もいくつか明らかになってくる。

八咫烏の頂点を占める「金烏」とはどのような存在なのか、とか。

「山内」という世界は、全くの別世界ではなく、
実は我々の暮らしている世界の "隣" というか
思ったより "近い" 場所に存在しているらしい、とか。

本書に登場する "大猿" は、今後のシリーズを通して
八咫烏の敵となる存在らしいが、本書ではまだ
どこから来たのかも、どれくらいの勢力なのかも、
そして彼らの目的も、すべてが謎である。
こちらも、おいおい明かされていくのだろう。


そして何と言っても、本シリーズは登場するキャラが魅力的。
挙げたいキャラは多いのだけど、
今回何と言っても嬉しかったのは浜木綿の再登場。
人生の浮沈を経験し、酸いも甘いもかみ分けていて、
しかも姉御肌で "漢前" なんだけど、
若宮のことを一番理解し、愛し、支えている。
つくづくいい女だなあ、と思う。

小梅ちゃんも、本作のみで終わらせるにはもったいない。
ぜひ今後も登場してもらって、
雪哉と派手に喧嘩していただきたい(笑)。


第1作では后の座を巡る女の戦い&本格ミステリ、
第2作では宮廷内の陰謀劇、
そして本作では謎の侵略者との戦いと、
見事にカラーの違う作品を読ませてくれる。

そして第4作『空棺の烏』ではなんと
「ハリー・ポッター」ばりの "学園もの" になるらしい。

 実は既に文庫版が手元にあるので、近いうちに読もうと思ってる。

作者の引き出しの多さには感心するばかりだ。
本作を書いてる時点でまだ23歳とか、もう凄すぎる。
今後、どこまで伸びるのか楽しみな作家さんだ。

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