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卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

卒業のカノン 穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-10)

  • 作者: 機本伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

主人公は、人工授精によって誕生した
天才少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

幼少時より天才ぶりを遺憾なく発揮してきたが
思うところあって、現在は "普通の女子高生" として生活している。

もう一人の主役は、沙羅華嬢が設計した量子コンピュータを使って
業務を展開しているネオ・ピグマリオン社の社員、綿貫くん。
彼の仕事は沙羅華嬢の "お守り役"。

天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズも、本作で6作め。
そして、本作を持って堂々の完結を迎える。


2030年2月、沙羅華は受験勉強のさなかにあった。
過去に飛び級で大学生になったものの、
あることがきっかけで大学を中退、
普通の女子高生に戻って生活してきた。
そして再び、受験を経て大学生になろうとしていたのだ。

推薦入試は受けず、なんと一般入試を受けるのだという。
目標は国立のT大学。ずっと彼女が追い求めてきたTOE
(Theory of Everything:超大統一理論)
を極めるため、物理学科ではなく数学科を目指すという。

 沙羅華さんならどんな難関大でも受かりそうなもんだが
 本人に言わせると国語が苦手だとか。
 たしかに「登場人物の心情」とかは彼女にとって超難問だろう(笑)。

そんなある日、綿貫くんへ大学時代の友人・佐倉から連絡が。
彼は太陽光発電事業の大手、アルテミSS社に勤務していた。

静止衛星軌道上に浮かぶ太陽光発電衛星から、
マイクロ波で地上に電力を供給する。

日本での発電施設の竣工前に、システムのチェックを
沙羅華にお願いしたい、というのが彼の申し出。
竣工式にはアルテミSS社への出資者である
ゼウレト社のシーバス・ラモン会長も立ち会うという。

ゼウレト社によるバイオ事業で産み出された天才児である沙羅華は
過去の経緯もあり、ゼウレト社とラモン会長に好感情を持っていない。

受験勉強に専念するためにいったんは申し出を断った沙羅華だが、
ラモン会長が殺害予告の脅迫メールを受け取っており、
そしてその差出人に沙羅華の遺伝子上の"兄"、ティベルノ・アスカが
関わっている可能性が出てきたことを知って
脅迫者の正体に迫るべく、
ラモン会長の "ボディガード" を引き受けることになった。

 もちろん彼女自身が腕っ節を振るうはずもない(笑)。
 警備上のアドバイザーといった役どころだ。

そして竣工式に先駆けてラモン会長が来日、
発電施設の視察に向かおうとする一行の前に "刺客" が現れた。
ラモン会長と行動を共にしていた沙羅華は、
襲撃に巻き込まれてしまうが・・・


犯人の目的は太陽光発電衛星を利用した大規模テロだった。
衛星のコントロールをテロリストに奪われ、
窮地に陥るアルテミSS社とラモン会長。

タイムリミットが迫る中、沙羅華と綿貫くんは
日本を、そして世界を救えるのか・・・?


前作から約半年後の物語。
今までも、ちょっとずつ成長してきた沙羅華嬢だが
本作ではかなり "丸く" なってきた姿を見せる。
とはいっても、ぶっきらぼうなのは相変わらずだけど(笑)。

自分の周囲にいる人間まではなんとか理解し、
(彼女なりに)気を使うことも少しできるようにはなったが
"社会" とか "世界" とかの、見ず知らずの人間にまで
思いを馳せることはまだ苦手な様子。
これが今回の、彼女が乗り越えなければならない "試練" だ。


さて、このシリーズは基本的にはコメディタッチの物語なので
本作のラストで世界が滅んだりはしません(笑)。
沙羅華嬢の大活躍と、綿貫くんのささやかな協力で(笑)、
事件は丸く収められる。

そして、完結編である今回では、ついに沙羅華嬢の
高校卒業後の "進路" が決定する。

ゆくゆくは世界的な物理学者になるであろう沙羅華。
日本でもアメリカでも、引く手あまた。
然るべき機関が研究者の "椅子" を用意して待っている。

かたや、しがないサラリーマンで
彼女の足を引っ張ってばかりいる綿貫くん。

そんな二人には、どんな未来が待っているのか。


二人が "将来" について語り合う、ラストの20ページほどが
本シリーズ最大のクライマックスだ。

ここでの彼女は、シリーズ中で最大級にカワイイ。
いやあ、成長したねえ沙羅華さん。
いつのまにこんな "いい娘" になったんだろう。

そして、ここでの綿貫くんがそれに輪をかけていいんだなあ。
彼もシリーズ中、最大級にカッコいい行動を示す。
いやあ、君はほんとに沙羅華嬢を "愛して" るんだねえ。
前作の感想で君のことを「さっぱり成長していないキャラ」
なんて書いてしまって申し訳ない。
沙羅華嬢の成長の陰で、君もしっかり "大人" になってたんだねぇ。

二人の将来がどうなるのかは読んでのお楽しみだけど
シリーズ読者からすれば納得の結末だろう。


2006年に第1作「神様のパズル」を文庫で読んで以来だから
この二人とは10年以上つきあってきた。
これでお別れとはちょっと寂しいね。

二人の物語はここで一区切りとなるのだろうけど、
他の作品でのちょい役でもいいので、二人の姿を見たいものだ。

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