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バチカン奇跡調査官 終末の聖母 [読書・SF]

バチカン奇跡調査官    終末の聖母 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 終末の聖母 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第8作。


バチカン銀行を巡るスキャンダルが発端となり、
ローマ法王は高齢を理由に『辞任』を発表した。

600年ぶりとなる異例な法王の "生前退位"。
直ちに枢機卿たちによる法王選挙(コンクラーヴェ)が
行われることになったが、
法王不在の間の "カメルレンゴ" (法王代行)として指名されたのは
平賀とロベルトの上司・サウロ大司教だった。


メキシコのグアダルーペ寺院は、
1531年に "聖母出現の奇跡" があったと
バチカンが正式に認めた地であった。

そしてメキシコ出身の世界的彫刻家フェルディナンド・モラレス氏が
グアダルーペ寺院へ彫刻作品を寄贈することになり、
記念式典が行われることになった。

法王代行に指名されたことでバチカンを動けなくなったサウロに代わり、
平賀とロベルトはグアダルーペ寺院で挙行される記念式典へ
サウロの代理として出席することになった。

しかし、二人が参加した式典の最中、突如として大地震が発生、
寺院の参道に沿ってメトロポリタン大聖堂まで続く
6kmにも及ぶ長大な直線状の陥没が現れる。

さらに、式典が行われていた教会では、モラレス氏製作の
十字架を象った彫刻が宙に浮かび上がり、
やがて何もない中空で静止状態となってしまう。

そしてその場にいた群衆に聞こえてきたのは
天上の音楽のような美しい歌声だった・・・


彫刻には黒い聖母像が描かれ、それを縁取る文様の中には
メキシコ出身のカサレス枢機卿の名が刻まれていた。
そしてカサレス枢機卿は次期法王の有力な候補者の一人だった。

これは、次期法王の座を巡る陰謀なのか?

平賀とロベルトは "浮遊する十字架" の謎を解き明かすべく、
調査を開始するが・・・


本書は500ページを越える厚さを誇るが
その理由は、内容が盛りだくさんなためだろう。

マヤ、アステカをはじめとするメソアメリカ文明、
そしてスペインの侵略による滅亡、
少数の白人が上位階級を占め、多数派である先住民族と
メスティーソ(先住民と白人の混血)は差別されているメキシコ社会、
そして、キリスト教の布教によって
人口の90%がカソリックでありながら、
21世紀に入って過激な新興宗教サンタ・ムエルテが
勢力を伸ばしてきていること。

メキシコの過去から現在に至る蘊蓄が延々と語られる。
このあたり、いささか冗長に感じる人もいるかもしれない。

私もそう思わないでもなかったんだけど、
あとあと重要な伏線の一部にもなってるし
作者の語り口も巧みなので、さほど退屈せずに読み進められた。


さて、このシリーズは基本的にはホラーなんだけど、
毎回のように評価に悩む。
作中で語られる超常現象がけっこう科学的に説明されたり
意外な黒幕が現れたりとミステリ寄りな作品もあるし、
完璧にホラー側に振り切った作品もある。

本書ではどうか。

終盤に至り、作中で描かれる不思議な現象の謎解きが行われるんだが
そこでは、作者が設定したある架空の○○○によって
(ほぼ)すべてが説明されるのだ。

この○○○を受け入れられるか否かで
本書の評価は変わってくるだろう。

私の評価は、「これはこれでアリ」。

「ミステリ」として見ると「え~」って感じるかもしれないが
「伝奇SF」としてなら、なかなかよくできてると思う。

怪奇現象の説明に止まらず、どんどん膨らんできて
最終的には人類の進化の歴史にまで言及されるという
壮大な話にもつながってくるし。

方向性は異なるけど梅原克文の某作品を思い出したよ。

 もっとも、梅原氏は自分の作品が「SF」って呼ばれることを
 嫌がっているらしいけどね。

 実はもう一つ、連想した作品(作者は梅原氏ではない)もあるんだけど
 これを書いちゃうとネタバレになりそうなので書きません。
 まあ、私が思いつくくらいだから
 ちょっとSFに詳しい人ならすぐわかると思う。


本書から新しくレギュラーとなった人物もいる。

ローレンの後釜となったチャンドラ・シン博士が
なかなかエキセントリックなキャラを見せる。

今回の表紙にも抜擢されてるので分かるかと思うけど
一見するとまさしく "レインボーマン"(爆)。
まさに "謎のインド人" 感が満載。


前任者に勝るとも劣らない強烈さでまだまだ謎が多そうだ。
読み終わっても、依然として正体不明なまま(笑)。
次巻以降でいろいろと明かされてくるのだろう。

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