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迎撃せよ [読書・冒険/サスペンス]

迎撃せよ (角川文庫)

迎撃せよ (角川文庫)

  • 作者: 福田 和代
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

このタイトルと表紙の写真(文庫版の表紙はFー2戦闘機)を見れば、
本書を航空アクション小説だと思う人もいるだろう。
(実は私もそうだったんだが)
たしかにF-2戦闘機が空を舞うシーンもあるのだけど、
作中のアクションシーン、戦闘シーンの9割は地上戦だったりする。


北方にある某国が弾道ミサイルの発射準備を進めているとの
情報がもたらされ、自衛隊は警戒態勢に入る。
日本各所に迎撃ミサイルPAC-3が配備され、
各種レーダーが監視する中、発射されたミサイルは
日本上空を飛び越え、太平洋に落下する。

各部隊の緊張がゆるむ中、自衛隊岐阜基地からFー2戦闘機が奪取される。
しかも最新鋭のXASM-3ミサイルを4発装備したまま。
F-2はミサイルの威力を見せつけるかのように、
1発を富士の樹海に打ちこみ、そのままF-15の追撃を逃れて
西へ逃走、レーダーから消える。
やがて政府に送りつけられた動画で、犯人グループは宣言する。
「明日24時、日本の主要都市にミサイルを撃ち込む」
タイムリミットまでわずか30時間・・・

主人公、安濃将文(あのう・まさふみ)一等空尉は
ミサイル防衛の要となる統合任務部隊で
作戦指揮の一員に加わっていた。
そんな矢先に起こったミサイル強奪事件だが、
安濃はその背後にかつての上官・加賀山元一等空佐の影を感じる。
加賀山は2年前、ある問題を起こして
自衛隊を追われるように退官していた。
安濃は加賀山に会うために、
強奪事件で騒然となる基地を抜け出すが・・・


自衛隊員/元自衛隊員が戦闘機を強奪、
その矛先を一般市民へと向けてテロリストと化す・・・
ざっくり書くとこういう話で、そうなると
福井晴敏の『亡国のイージス』を思い出す人も多いだろう。

共通するモチーフを持つが故に比較されてしまうのは
ある程度は仕方がないだろう。
でも、読んでいくと「現役自衛官が書いた論文」とか
「息子が死亡」とか、両者に共通する "要素" がちらほら。

まあ自衛隊員がテロに走るまでの経緯を
リアルさを持って描かなければならないのだから
それなりに説得力がなければいけないのは分かるんだが
このあたりちょっと似すぎてないかなあ・・・

F-2を強奪した "パイロット" にも、
テロに荷担するにいたる背景がきちんと描かれていて、
このあたりはけっこう感情移入する。
だからこそ、クライマックスは
この "パイロット" が操縦するF-2と、
迎撃する自衛隊との壮烈な攻防戦を期待したんだが・・・
(だってタイトルが『迎撃せよ』なんだよ)
うーん、これはかなり消化不良。あの幕切れはちょっとなあ・・・


もっとも、これは比較するのが悪いのかもしれない。
ストーリー上のメインとなるのは、
ミサイル強奪計画の要となる加賀山とテロリストの一味がたて籠もる
軽井沢の山荘での、安濃(とその仲間たち)との対決である。

著者の描きたいのはあくまでサスペンス、冒険アクションであって
東京湾のど真ん中でイージス艦が爆発、沈没するような
ど派手なスペクタクル小説ではないのだろう。

文句ばっかり書いているようだが、作品自体は十分面白いと思う。
特にキャラがいい。

主役の安濃は、仕事からくるストレスで動悸、目まい、息切れと
今にも死にそうな体調不良に陥っており、
なんと開巻早々「退職願」を懐に忍ばせて登場する。
もっとも、事件が起こって加賀山の追跡を始めてからは
いつのまにか "病気" は吹っ飛んでしまい、
テロリストと死闘をおっぱじめるに至っては
「おまえ、いつのまにそんなに元気になったんだい」
って思ってしまう(笑)。
ついでに、安濃の妻・紗代さんもよくできたいい嫁だ。

安濃の部下で新人隊員の遠野真樹二尉がまたいい。
妙齢の美女にしてオリンピック候補の呼び声も高い射撃の名手。
出番も多いし、要所要所で機転が利いてストーリーを引っ張っていく。
加賀山に捕らえられた安濃を救い出す場面でも果敢に行動し、
プロ(?)のテロリストを相手に互角に渡り合う。
本当の主役は彼女なんじゃないかっていうくらいの大活躍。

安濃の同期生・泊里一尉も
「主人公の親友」というポジションを過不足なく務め、
陰日向になって安濃を支える。

本書はそんな「安濃一尉とその仲間たち」が活躍するシリーズ第1作。
現在3作目まで刊行されているらしい。

実は第2作『潜航せよ』の文庫版が手元にあるので
秋くらいまでには読むつもり。


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