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ラスト・ワルツ [読書・ミステリ]

ラスト・ワルツ (角川文庫)

ラスト・ワルツ (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫



評価:★★★

帝国陸軍内に密かに設立されたスパイ養成組織・"D機関"。
設立者たる結城中佐、そして "卒業生" たちが
諜報の世界で繰り広げる活躍を描く、シリーズ第4作。
本書には中編1つと短編3つを収める。

「ワルキューレ」
 文庫で120ページを超える中編。
 女がらみで自らの映画製作会社を手放し、
 ハリウッドから逃げ出した日本人移民・逸見五郎。
 ドイツへ渡った逸見はヒトラーに拾われ、映画監督兼俳優となって
 ナチスのための国策映画を製作していた。
 一方、ドイツに派遣された "D機関" のスパイ・雪村は、
 日本大使館に潜入していた。その目的は、
 ドイツへ情報を漏らしている者を見つけだすこと・・・
 何年か前に、NHKのドキュメンタリーで
 ナチス時代のドイツ映画界の特集をやっていたのを見た。
 本作でもまさにその時代が描かれている。
 番組の中で、ナチスの協力者だった
 女性監督リーフェンシュタールのことは何となく覚えていたんだが
 本作でも彼女が登場してきたのでちょっとびっくり。
 さすがに本筋には絡まないんだが、うまい演出だと思った。

「舞踏会の夜」
 15歳の華族令嬢・顕子(あきこ)は、夜な夜な家を抜け出して
 ダンスホールに入り浸る、奔放な日々を過ごしていた。
 ある晩、愚連隊(懐かしい単語だなあ。もう死語?)に
 絡まれていたところを謎の青年に助けられる。
 彼に惹かれるものを感じた顕子だが、二人は再会することなく、
 彼女は政略結婚によって陸軍大佐・加賀美の名ばかりの妻となる。
 そして20年。
 加賀美は中将へと昇進、顕子もまた "自由" を謳歌していた。
 そして今夜、顕子は "あの人" との再会のために舞踏会に出る・・・
 たぶん本書のタイトル「ラスト・ワルツ」はここから採ってる。
 ミステリとしては本書中いちばんかな。
 「そうきたか」と思わせて、さらにひとひねり。
 うーん、一本とられました。

「パンドラ」
 イギリス外務省の下級官吏・ラーキンの死体が
 自宅アパートで発見される。
 現場は二重の密室になっていて、当初は自殺が疑われるが
 捜査担当のヴィンター警部が他殺と判断する。
 トリック自体は単純なので、「how」ではなく「why」、
 つまり "なぜ密室にしたのか" がテーマのミステリと思わせて
 さらにひとひねり。
 スパイが絡むと、単純な(はずの)密室の解釈が
 こんなに多重化してしまうなんてねえ。

「アジア・エクスプレス」
 満州の首都・新京を定時に発車した満鉄特急<あじあ>。
 ソ連領事館員モロゾフから情報を受け取るために乗車した瀬戸だが、
 そのモロゾフがトイレで殺される。
 車内に潜む暗殺者は、瀬戸の命をも狙うだろう。
 次の停車駅・奉天まで2時間、列車は止まることなく走り続ける・・・
 このシリーズは頭脳戦がメインで、殺す殺されるという
 息詰まる局面ってあんまり多くないんだけど、
 本作はサスペンスたっぷりに描かれる。
 あ、もちろん本作でも、瀬戸は生き残るために
 殺人者の正体を暴くべく脳味噌をふり絞ってるけどね。