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忍びの森 [読書・ファンタジー]

忍びの森 (角川ホラー文庫)

忍びの森 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/04/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

物語は天正九年の伊賀に始まる。
ちなみに本能寺の変の前年である。

織田信雄を総大将とする織田軍団が伊賀国へ侵攻した。
伊賀六十六家と呼ばれる忍者達は必死の抵抗を試みるも、
織田方に加勢する甲賀者の存在もあって敗北を喫してしまう。

阿保(あお)一族の上忍・影正もまた妻子を織田軍に殺され、
残った5人の仲間とともに再起を期して紀州へと落ち延びていく。

途中、伊賀忍者・田屋党の生き残り2名と合流し
総勢8名となった一行は、険しい山岳地帯へと分け入り、
やがて深い森の奥深くで荒れ果てた寺に辿り着く。

そこで彼らを待っていたのは、
手練れの忍者をも一瞬で屠ってしまう、姿なき "敵" 。
この寺こそ、この世に恨みを残して
人外の魔物へと変貌した5体の妖怪の棲み処だったのだ。

寺は謎の結界に取り囲まれて外部への脱出は不可能となり、
やがて彼らの眼前に異形の怪物が姿を現す。
超常能力を秘めた妖怪軍団vs超人忍者軍団の戦いが始まった・・・


作者はこれがデビュー作。
2010年、第17回日本ホラー小説大賞で最終候補まで残りながら
惜しくも受賞を逸した。
しかし、選考委員・貴志祐介氏の強力な推薦により
大幅な改稿を経て文庫にて出版、という経緯。


怪物と超人の対決を戦国時代を舞台に描く、という
ありそうでなかったパターン。まあ発想の勝利だろう。

小説での前例は思いつかないが、
映像ならどうだろう・・・って考えていたら、一つ思い当たった。

古い話で恐縮だが1967年から68年にかけて放映された
特撮TVドラマ「仮面の忍者 赤影」。
50代以上の方なら、鮮烈に記憶されているものと思う。

巨大な怪獣を相手に赤影たち飛騨の忍者が
海を大地を大空を縦横無尽に飛び回って、大立ち回りを繰り広げる。
あれは基本的に子供向け番組だったから、
作品の雰囲気はとても明るいものだったけど
あれを思いっきりダークにして、ホラー風味を増量し、
スプラッター風味をちょっと加えると本作に近くなるように思う。


妖怪達は律儀にも、5体いっぺんには襲ってこない。
武道の団体戦のように1体ずつ攻めてくるのだが
後から出てくる奴ほど手強くなるのはお約束。

迎え撃つは伊賀忍者・阿保一族の棟梁・影正、
その親友にして参謀役となる朽磨呂(くちまろ)。
影正に思いを寄せるくノ一・詩音(しおん)。
そして田屋党の少女・鵺(ぬえ)。
他の四人も一騎当千の強者揃い。
みなそれぞれ得意とする一撃必殺の技を持ち、
知恵と力を合わせて怪物どもに反撃を加えていく。

しかし櫛の歯が欠けるように、一人また一人と、
仲間を失っていくのもまたお約束。


戦いが続くなか、次第に明らかになる寺の由来、
そして妖怪たちの正体、というかこの世に恨みを残した理由。

忍者たちの側にも様々な愛憎の思いがあり、
それが彼らの間に亀裂をもたらしていく。
しかしそれを乗り越え、協力しなければ生き残ることはできない。

妖怪vs忍者の五番勝負の終わりに、生き残るのはどちらか・・・


デビュー作のせいか、そういう先入観を持って読んだせいか、
文章にいささか力が入りすぎな気もする。

肝心の "戦い" が始まるのは、全体の1/4を過ぎたあたりから。
分量的には妥当な配分かと思うのだけど、
読んでいるとなかなか始まらないのでイライラしてしまったよ(笑)。

序盤では、織田方・伊賀方の人物が大量に登場してきて、
誰が妖怪との対決におけるメインキャラになるのかが
判然としない状態が長く続くのがたぶん原因。
とは言っても、この部分で描かれた状況が、
後半の物語にも絡んでくるので、大幅にカットするのも難しい。
このへんは痛し痒しなんだろうけど、何とかならなかったのかなぁ。

まあそれだけ本番の対決に向けて期待が高まる、ということだね。
実際、始まってしまえば迫力充分な描写で楽しめる。

作者はこのデビュー作の後、順調に作品を発表しているようだ。
第二作である「戦都の陰陽師」も手元にあるので、近々読む予定。


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