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谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題 [読書・ミステリ]


谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題 (角川文庫)

谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題 (角川文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/06/13

評価:★★★


 主人公・岩篠(いわしの)つみれは二十歳の女子大生。彼女の兄・なめ郎は東京・谷中にある居酒屋『鰯の吾郎』を経営している。
 店に持ち込まれる怪事件を解決するのは、なめ郎の親友である竹田津優介(たけだつ・ゆうすけ)。つみれとともに谷根千の街を歩きながら、事件解決の糸口を見つけ出す。


 父・吾郎が遺した居酒屋『鰯の吾郎』を継いだ岩篠なめ郎。妹のつみれは大学に通いながら店を手伝う日々。
 店に舞い込むのは、ご近所で起こった怪事件。それを解決するのは、開運グッズショップ『怪運堂』の店主・竹田津優介。なめ郎は「奴は俺の大親友」というのだが・・・
 つみれが語る事件の概要を聞くと、2人で谷根千のあちこちを歩きながら、情報収集を始める。その中で、竹田津は優れた洞察力で真相を見抜いていく。


「第1話 足を踏まれた男」
 つみれの先輩・高村沙織は、サークルで行われたBBQ大会に参加する。酔った沙織はふらついてしまい、そのとき背後で悲鳴が。
 振り返ると上級生の倉橋稜(くらはし・りょう)が右足を押さえていた。どうやら沙織は倉橋の足を踏んでしまったらしい。彼女自身には、他人の足を踏んだという感触はなかったのだが、"サークルの王子様" と呼ばれる倉橋に嫌われたと思い、落ち込む沙織。
 一方、近所の石材店に泥棒が入ったが、何も盗らずに逃げていったという事件が起こっていた。
 一見すると無関係に思われる事件が、ある ”もの” に着目することで、綺麗につながっていくのは流石の出来。


「第2話 中途半端な逆さま問題」
 滝口久恵は70代で一人暮らし。しかし彼女が一泊二日の伊豆旅行から帰ったとき、家の居間に異変が起こっていた。
 部屋にあった写真立て、本棚の本、掛け時計などは上下が逆に、DVDプレーヤーや固定電話機は前後が逆向きに。とはいうものの、全く動かされていないものもあるという中途半端さ。しかも、盗まれたものは何もない・・・
 作中でも言及されているが、『チャイナ橙(だいだい)の謎』(エラリー・クイーン)が連想される。現場にあったものがことごとく "逆さま" にされていた、という謎が魅力的なミステリ。読んだのは中学校の終わりことだったかな。細かいところは忘れてしまったが、その理由については覚えていたよ。
 本作では、元ネタの "解答" を超えて、さらにひとひねり。実際にはそんなに上手くいかないんじゃないかなぁとも思ったが、ミステリとしてはアリだろう。


「第3話 風呂場で死んだ男」
 『鰯の吾郎』に来た客・寺島が店に名刺入れを置き忘れていった。つみれは忘れ物を届けようと彼の家に行くが、玄関に鍵がかかっていない。中に入った彼女が発見したのは、浴槽に浸かった寺島の死体。しかも "犬神家のアレ" みたいに両脚を上に突き出した状態で。
 遺体や現場の状況が異様なのだが、最後まで読んでいくと、そのすべてに綺麗に説明がつくのは毎度のことながらたいしたもの。軽く読み流してしまうような描写の中にしっかり伏線が張られていて、それらがつながっていくとするすると真相が導き出されていく。匠の技だね。


「第4話 夏のコソ泥にご用心」
 つみれは、友人の宮本梓のアパートを訪れる。おりしも梓は「泥棒が入ってきた!」と大騒ぎの最中だった。肝心の泥棒は窓から逃げていったということだが、警察に連絡することに。
 『鰯の吾郎』の客・板山は、逃げ去る途中の泥棒に遭遇したという。その証言から容疑者が浮上するが、その男にはアリバイがあった・・・
 複数の証言から、犯人の行動は分単位で判明するが、逮捕に至れない。竹田津は意外なところに着目し、犯人の正体を見破ってみせる。


 作者の持ち味であるユーモアはますます磨きがかかっている。第4話の冒頭など喜劇映画のワンシーンのよう。つみれのトボけた言動も笑いを誘うし、なめ郎をはじめとした周囲の人々も、コメディ専門の劇団員みたいである。
 なおかつ、ミステリとしてはきっちりできていて、読み手の予想を上回る真相を見せてくれるのだから、スゴいとしか言い様がない。



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