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7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー [読書・ミステリ]


7人の名探偵 (講談社文庫)

7人の名探偵 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫


評価:★★★



 新本格ミステリの時代を開いた『十角館の殺人』(綾辻行人)の刊行(1987年)から30周年を記念して、2017年に刊行されたアンソロジーの文庫化。
 新本格第一世代の作家7人が「名探偵」をテーマに競演する。



 7篇収録なんだけど、うち4篇は短編集や他のアンソロジーで既読だったりする。でも、けっこう忘れているので、いちおう再読した(笑)。
 既読作の紹介部分は過去の記事をベースにしてます。



「水曜日と金曜日が嫌い -大鏡家殺人事件-」(麻耶雄嵩)
 山中で道に迷った美袋(みなぎ)は、一軒家の洋館に辿り着く。そこは高名な脳科学者・大鏡博士の屋敷で、彼が養子にした4人の男女が逗留していた。博士は既に亡くなり、遺産はその4人が分割相続する。しかし屋敷の離れで大量の血痕が見つかり、やがて死体が・・・
 文庫で60ページほどだが、長編なみのネタが仕込んである。でも、登場する "銘" 探偵・メルカトル鮎は語る。
 「私は長編には向かない探偵なんだよ」
 まさにその通りのスピード解決(笑)。


「毒饅頭怖い 推理の一問題」(山口雅也)
 落語の『饅頭怖い』をベースに、その40年後の後日談、という設定。
 紺屋から呉服屋に転じた鷽吉(うそきち)は江戸でも有数の大店へと育て上げ、名も大拙(たいせつ)と改めた。還暦を迎えたのを機に、5人の息子から後継者を選ぼうとするが、何者かが毒を仕込んだ饅頭を食べて死んでしまう。そして犯人捜しが始まるが・・・
 メタミステリ的な謎解きで真相解明がなされるが、最後のオチはやっぱり落語(笑)。


「プロジェクト・シャーロック」(我孫子武丸)
 警視庁でIT関係のデスクワークに就いている木崎は、人工知能に推理をさせることを思い立つ。彼の開発した ”名探偵のAI” をオープンソースとして公開したところ、世界中のミステリ愛好家たちがこぞって改良に取り組み、やがて現実に起きるあらゆる事件に対応できる能力を持つようになる。しかし発案者の木崎が何者かに殺されてしまう・・・
 発表当時はSFだったが、今では現実味が増してきたかな。


「船長が死んだ夜」(有栖川有栖)
 調査の帰りに立ち寄った温泉地で殺人事件に出会う火村とアリス。元船乗りという経歴から ”キャプテン” と呼ばれていた男が一人暮らしの家の中で刺し殺されていたのだ。
 犯行現場から消えていた ”あるもの” を起点にしていくつかの手がかりがするするとつながって、一気に犯人に辿り着く。
 謎解きのお手本みたいな作品だ。事件解決後に明らかになる事実が、ミステリに留まらない余韻を残す。


「あべこべの遺書」(法月綸太郎)
 イベント企画会社の社長・益田貴昭の住むマンションの8階から男が転落死した。しかし遺体は薬剤師・一ノ瀬篤紀のものだった。そして一ノ瀬の住むマンションの部屋では、益田の服毒死体が発見される。
 どちらも自殺と思われたが、現場に残されていた遺書はあべこべだった。遺書が入れ替えられたのか?、人間が入れ替わって自殺したのか?
 初読の時は、綸太郞の語る犯行の筋書きがどうにもわかりにくく往生した。こういう状況を成立させるために、かなりの綱渡りをしている印象。
 今回再読してみて、さすがに初読時よりは理解できたが、それでもやっぱりわかりにくいなぁ・・・


「天才少年の見た夢は」(歌野晶午)
 パラレルワールドと思われる世界の、日本(を模した国)が舞台。
 戦争が始まり、大量破壊兵器を搭載した弾道弾で都市部は大損害を被る。天才的な能力をもつ子どもたちを集めたアカデミーでは、少年少女たちが地下のシェルターに逃れる。しかし外部との連絡は途絶し、その中で一人また一人と死者が続いていく。避難した中には名探偵の誉れ高い鷺宮藍(さぎみや・あい)がいたのだが・・・
 フーダニット・ミステリなのだが、犯人が明らかになった後にさらにもうひとひねり。本書が刊行された2017年よりも今のほうが、より "オチ" が効いてきそう。



「仮題・ぬえの密室」(綾辻行人)
  "新本格30年" を記念するイベントに綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸が参加する。そこで話題に出たのが、京大ミステリ研の中で行われた "犯人当て" イベントの中で、"幻" と言われるほどのスゴい作品があったという噂。
 3人は記憶をたどるがどうにも思い出せない。場所は綾辻邸に移り、妻である小野不由美まで話に加わって、「ぬえの密室」というタイトルまでは出てきたものの、そこから先は、ああでもないこうでもないという状態に。
 新本格系の作家さんたちが実名で登場する、ドキュメントっぽい小説。ラスト近くに登場する人物は、新本格を語るなら絶対に外せない人だ。


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