神々の宴 [読書・ファンタジー]
神々の宴 オーリエラントの魔道師たち 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)
- 作者: 乾石 智子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2023/01/10
評価:★★★
異世界オーリエラントで、市井に生きる魔道師たちの姿を描く5篇を収録したファンタジー短編集。
「セリアス」
かつてホーサの民は、邪な魔法を使う異民族という誹りを受けて虐殺された。それを逃れてきたイザベリウスとロルリアの魔導師夫婦は、羊を飼い、農場を耕し、"修復" の魔法で村人を助けながら平穏に暮らしていた。
しかし新たな総督代理人ボツモスは、2人の財産の没収を目論む・・・
主役の二人が、辛い過去を抱えているにも関わらず、それを感じさせないのがいい。
「運命女神(リトン)の指」
闘技場の花形・剣闘士。しかしその実態は奴隷で扱いは過酷だ。剣闘士バルカスを含む10人は逃亡を図り、3人の女魔導師のもとへ駆け込んでくるが・・・
"紡ぎ手" のユーディット、"糸の切り手" のマレイナ、"織り手" のエディア。生まれも育ちも異なる3人組だが、彼女らが産み出す布地には魔法の力が宿り、剣闘士たちを救う。
いわゆる "シェアハウス" 住まいの彼女らの言動がけっこう現代風なのも楽しい。
「ジャッカル」
ギデスティンの魔道師(本の魔導師)・ケルシュは、ある夜、1人の少年を保護する。彼は狐に似た獣(ジャッカル)を連れていた。
少年の名はミルディウス。小貴族・ナステウス家の長男だったが、父親の経営する瓦工場を破壊した容疑を着せられ、逃亡していたのだった・・・
ジャッカルの正体は早々に明らかになるが、ファンタジーらしい設定。エピローグというか後日談が、なかなか良い余韻を響かせる。
「ただ一滴の鮮緑」
チャファは "生命の魔導師"。今まさに死にゆかんとする者を冥府女神(イルモア)から呼び戻し、命を救う力を持っている。しかしその代償として、力を振るうたびに、彼女自身から若さが失われていく。それでも、目の前に死に瀕した者がいれば救わずにはいられない。
チャファによって死の淵から生還した若者・モールモーは、老いが進みゆく彼女に寄り添いつづけるのだが・・・
このまま終わってしまったら哀しすぎるよなぁ・・・と思っていたのだが、作者はしっかり、納得できる着地点を用意している。
「神々の宴」
版図拡大を目指すコンスル帝国。妾腹に生まれた第四皇子・テリオスは14歳。ものの道理と公平さを身につけ、繊細な心を持っていたが、自らの意に反して小国ヴィテス征服の任を与えられる。
軍勢を指揮するメビサヌスは、"所詮は田舎の豪族" と侮っていたふが、地の利を得るヴィテスの民によって散々に翻弄されてしまう。戦いを嫌うテリオスは意を決し、単身でヴィテス女王との会見へ臨むが・・・
征服戦争の話ではあるのだが、テリオスの健やかさに癒やされる。彼の "その後" を語るエピローグがまた、よくできている。
タイトルにある "神々" とは、物語中に登場する3人の男女神のこと。戦いを眺めながら酒盛りをするなど、意外と人間くさい(?)。神と云うよりは中国の物語に出てくる仙人みたいなイメージだなぁ。
5篇に共通するのは、読後感の良いものがそろっていることか。読み終わった後、ちょっぴり元気がでるというか。
ファンタジーには、ファンタジーだからこそ醸し出せる雰囲気や余韻があり、面白さがある。それこそが私がファンタジーを読んでる理由なのだろう。
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