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幽世の薬剤師3 [読書・ミステリ]


幽世の薬剤師3 (新潮文庫 こ 74-3)

幽世の薬剤師3 (新潮文庫 こ 74-3)

  • 作者: 紺野 天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/01/30
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 異世界「幽世(かくりよ)」に迷い込んだ空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)は、薬剤師だった経歴を活かして働き始める。彼の開業した薬処に持ち込まれる怪事件に、巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とともに立ち向かう。
 ファンタジック・ミステリ・シリーズ第3巻。


 今回は中編2本で構成。いずれもミステリ度は高め。


「悪魔を纏う娘」

 霧瑚が切り盛りする薬所〈伽藍堂〉に、祓魔師(ふつまし)・朱雀院が現れる。最近、新たな "祓い屋" が現れ、商売あがったりなのだという。
 新しい "祓い屋" はエクソシスト(主に西洋系の魔を祓う)だが、無償で行っているために、客がみなそちらに流れてしまっているらしい。

 朱雀院と共に、エクソシストを訪ねる霧瑚。現れたのは烏丸倫陀(からすま・りんだ)と名乗る少女だったが、見るからに体調に異常がありそう。
 彼女の祓魔法は感応霊媒。感応能力を一時的に増幅する〈霊薬〉を服用し、相手に取り憑いている "怪異" を自分に乗り移らせ、自分の中で "処理" をする、というもの。

 しかし倫陀の妹・倫音(りんね)は、霧瑚に訴える。
 「姉を、救ってほしい」と・・・

 「幽世」では、この世界でのみ起こりうる、いくつかの現象があることが第1巻から示されている。霧瑚はそれを踏まえて、倫陀の「感応霊媒」に隠された秘密を見抜き、それに込められていた彼女の意図を明らかにする。

 それで万事収まるかと思いきや、さらにもうひとひねり。〈霊薬〉の正体(これはこちらの世界にも存在する物質)までも暴いてみせる。
 特殊設定をきっちり活かしたミステリ。これは上手い。


「錬金術師は賢者の石の夢を見るか?」

 生薬の材料となる野草を摘みに、綺翠の妹・穂澄(ほずみ)とともに出かけた霧瑚。2人が森の中の一軒家で出会ったのは年齢不詳で白衣を着た美女。アヴィケンナ・カリオストロと名乗り、錬金術師だという。

 錬金術は非金属(例えば鉛)から貴金属(主に金)を産み出そうとする試み(現代科学では不可能と判明してる)を指す。
 古代から中世にかけては盛んに研究され、近代化学の源流となったものだ。

 しばし錬金術談義を交わすアヴィケンナと霧瑚。薬剤師も化学の素養があるので話は合うようだ。なんと彼女は〈賢者の石〉の錬成に成功し、これを医療に用いているという。
 実際、死病に冒された14歳の少女・ミコトのもとを訪れ、〈賢者の石〉の粉末を与えたところ、彼女は驚異的な回復を示したのだ・・・

 文庫で120ページほどなんだが、なんと60ページ目あたりから解決篇が始まる。

 アヴィケンナと錬金術師、ミコトをめぐる一連の事象について霧瑚の推論(この世界での特殊設定も含めて組み立てたもの)は事態の様相を根底から覆し、意外な真相を導き出す。

 今回は綺翠嬢の出番が少ないなあ・・・と思っていたら、霧瑚が窮地に行ったところで颯爽と登場、しっかりと "祓い" の立ち回りシーンも挟み込む。
 さらに解決篇の後半が続き、物語が二転三転していくという重層的な構成。

 既刊3巻のなかでは、いちばんミステリ風味が "濃い" 作品になっていると思う。



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