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監殺 [読書・冒険/サスペンス]


監殺 (角川文庫)

監殺 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 警察内部で行われた陰湿なパワハラで、優秀な警部が自殺する。そして、警察官の悪事を取り締まるべく集められた「監殺部隊」が動き出す。
 彼らによって、パワハラ事件の裏に隠された巨悪があぶり出される。そして、警部を死に追いやった者たちに、"処分" が下される・・・


 犯罪を犯した者は警察が取り締まる。では、警察官自身が犯罪を犯した場合、誰がそれを暴き、裁くのか?
 本書の基本コンセプトは、現代版 "必殺仕事人" だ。


 "不祥事のデパート" とも言われるB県警。不祥事防止を啓蒙すべく、県警内に巡回教養班(SG班)が設立された。しかしそれは表むき。
 SG班の真の姿は、凶悪犯罪に関わった悪徳警官を密かに "処分"(懲戒暗殺)する特殊部隊だったのだ。

 そこに集められたのは、
・運だけで昇進した(と思われている)中村文人(なかむら・ふみひと)警視
・『機動隊の狂犬』秦野鉄(はたの・てつ)警部
・電子諜報の達人・漆間雄二(うるしま・ゆうじ)警部
・カリスマホストを超える女たらし・後藤田秀(ごとうだ・ひで)巡査部長
・元六本木のNo.1キャバクラ嬢だった國松友梨(くにまつ・ゆり)巡査
 いずれも以前の所属部署でははみ出し者だった連中だが、この5人が各自の特殊技能を駆使し、悪人どもに鉄槌を下していくわけだ。

 「なかむら」「てつ」「ゆうじ」「ひで」・・・必殺シリーズのファンならば、この音の響きに ”あの仕事人たち” の顔を思い浮かべるだろう

 「第2章 監殺班、起動」では、さっそく彼らの鮮やかな "仕事" ぶりが披露されるのだが、メインのストーリーはその次から始まる。


 今回の "仕事" の依頼人は、7年前に自殺した神浜忍警部の未亡人。
 警備公安のエリートで、将来が嘱望されていた神浜は、畑違いの生活安全部に異動となる。たたき上げのベテラン揃いの中で新参者の神浜は孤立し、さらに壮絶なパワハラに晒されていった。

 神浜の事件の調査を始めたSG班は、そのパワハラの詳細を追っていく。その内容をいちいちここには書かない。本書は、文庫で約480ページほどあるのだが、神浜に対するパワハラ調査は「第3章」~「第5章」まで、およそ270ページにわたる。
 つまり本書の半分以上が、神浜へのパワハラの実態描写&調査に充てられているわけだ。だが・・・はっきり言って読んでいるのが辛くなってきて、何度も読むのを止めようかと思ったよ。
 その内容は、とにかく凄まじいの一言。よくもまあこんなにえげつない手段を次から次へと繰り出してくるものだと、驚かされる。

 これはフィクションなのか?
 それとも実際にある(あった)ことを題材に書いているのか?
 もちろん誇張はあるのだろうが、話半分、いや一割だって、とんでもない内容だ。警察官希望の若者が本書を読んだら、100人中99人が考え直すんじゃないかなぁ。

 そして、神浜へのパワハラには、その根底に巨大な "陰謀" が潜んでいたことが明らかになっていく。神浜は、その陰謀を実現するための人身御供だったのだ。


 とは言っても、”始末” するかどうかを決めるのはSG班ではない。
 "仕事" の前には "医局" と呼ばれる組織による審査が行われる。これは "裏公安委員会" とも呼ばれるもので、3人の "有識者" からなる。この3人が "処分" の最終決定を下すわけだ。
 そして、彼らの "裁定" を受けたSG班は、出動の時を迎える。
 「晴らせぬ恨みを晴らす」ために。


 冒頭に、本書は現代版 "必殺仕事人" だと書いた。それは基本的に間違ってはいないのだけど、1時間の枠で起承転結となるTVドラマと違って、本書は神浜へのパワハラシーンがかなり長く、かつものすごく重いので、TVドラマのような爽快感やカタルシスは感じにくいと思う。

 作者が元警察官のせいか、警察内部での陰湿なパワハラシーンが延々と、微に入り細をうがつような詳細さで描かれ、(物語として必要なプロセスなのはわかるのだけど)読者の不快感と怒りをどんどん煽っていく。
 このあたりが我慢できるかどうかが本書の評価になるかなぁ。あまりに辛くて、途中で読むのやめちゃう人、多そうな気がするんだけど。



タグ:サスペンス
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