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工作艦明石の孤独 [読書・SF]


工作艦明石の孤独1 (ハヤカワ文庫JA)

工作艦明石の孤独1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/07/20
工作艦明石の孤独2 (ハヤカワ文庫JA)

工作艦明石の孤独2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/10/18
工作艦明石の孤独3 (ハヤカワ文庫JA)

工作艦明石の孤独3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/01/24
工作艦明石の孤独4 (ハヤカワ文庫JA)

工作艦明石の孤独4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/04/25

評価:★★★


 ワープ航法が実用化された時代。人類植民圏の辺境に位置するセラエノ星系で、突如地球圏とのワープが不可能な状態になる。地球圏からの物流が途絶えたら、150万人の市民の生活が危機に陥ってしまう。そんなとき、5光年離れたアイレム星系で未知の知性体が発見される・・・


 ワープ航法の開発によって、60ほどの植民星系にまで広がった人類。そのひとつ、セラエノ星系で、突然、セラエノ星系-太陽系間のワープが不可能になってしまう。
 太陽系に向けてワープをすると、5光年の距離で隣接するアイレム星系に到着してしまうのだ。アイレム星系から出発しても太陽系には着けず、セラエノ星系に出現してしまう。

 この作品世界でのワープ航法は、原理が未だ完全には解明されておらず、ブラックボックスな部分が多い技術、という設定。だから試行錯誤を繰り返しながら実用化してきた。そのため、いろいろ制約がある。
 例えば、太陽系とセラエノ星系は相互の行き来が可能だが、セラエノ星系から他の星系に向けて直接ワープすることは出来ず、必ず太陽系を経由しなければならない。
 さらに、電磁波は未だ超光速技術が確立されておらず、情報伝達はワープによる船舶の往来でしか行えない。

 だから、太陽系とのワープが途絶すると云うことは、すなわちセラエノ星系が人類圏から物流面でも情報面でも隔離されてしまうと云うことだ。
 しかも、本来不可能なはずの、隣接するアイレム星系との間でのみ相互のワープ移動が可能という不可解な状況に陥ってしまう(作品の中盤で、それを説明する仮説が登場するが)。


 本書の第一のテーマは、「孤立した植民星が、文明を維持できるのか?」というシミュレーションである。

 セラエノ星系には150万人が暮らしているが、精密機械・電子機器など植民星では製造できないものは地球からの輸入に頼っており、早晩、文明の維持ができなくなることが予想された。
 専門家の推定では、最悪の場合、蒸気機関レベルにまで技術が退行する可能性まで示されてしまう。

 人口150万人ってどれくらいなのか? ちょっとネットで調べてみたら、ほぼ鹿児島県の人口と同じだった。たしかにこの規模の集団が、外部との物流・人流・情報を一切止められたら、文明/生活レベルの維持は厳しいだろう。

 星系政府は原因究明に取り組む一方、このままワープ航路が閉ざされたままの事態を想定して様々な対策を立案していく。


 そして本書の2つめのテーマは「ファースト・コンタクト」。

 唯一、ワープ移動が可能なアイレム星系は、未だ人類が植民していない。そこへ向かった調査隊は、知的生命体と遭遇する。知性体は "イビス" と名付けられ、人類-イビス間で手探りながらのコミュニケーションの成立が模索されていくが、人類とは異質な進化・生態・価値観をもつイビスを理解することは容易ではない。

 イビスもまた、他の星系からやってきていたが、"彼ら" もまたワープ途絶の事態に巻き込まれ、母星から孤立していた。

 文明の維持、さらにはワープ再開のためには異星人との協力が必要と、セラエノ星系政府は考えるが・・・


 タイトルの "工作艦・明石" は、セラエノ星系で宇宙船の修理・改修を請け負う私企業の保有船。他にも地球宇宙軍の偵察戦艦・青鳳(せいほう)、輸送艦・津軽の、地球籍の2隻がたまたまセラエノ星系に滞在していて事態に巻き込まれる。
 セラエノ星系でワープが可能な艦船は、この3隻を含めても10隻に満たず、これらの船舶のクルーたち、そして星系政府首脳たちはこの未曾有の "災害" を克服しようとする最前線に立つことになる。


 本作は群像劇で、特定の主人公がいるわけではないが、明石のクルーはほぼみなメインキャストになる。
 そして、彼らのネーミングがまたユニークというか特徴的だ(この作者の作品では往々にして見られるが)。
 明石の艦長は狼群涼狐(ろうぐん・りょうこ)。その妹で工作部長が狼群妖虎(ろうぐん・ようこ)。
 きわめつけは、工作部の責任者が "椎名ラパーナ" さん。分かる人には分かるね。これは確信犯でしょう(笑)。かといってお遊びキャラではなく、彼女は序盤でイビスとの意思疎通に大活躍する超重要キャラだ。


 設定は魅力的だけど、戦闘などの派手なシーンはほとんど無い。どちらかというと地味な物語なのだが、最後まで興味を持たせて読ませる。

 その割に評価の星の数が少ないのは、ラストの締め方が今ひとつ、すっきりしないと感じるから。ラスト近く、ワープ途絶の原因についてある仮説が提示されるのだけど、うーん。いきなり「○○の○○」と云われてもなぁ・・・

 イビスとの協力関係も確立され、改めて地球圏への帰還を賭けたワープ実験が行われるんだが・・・この結果が気に入るかどうかが本書の評価を決めると思う。
 考えようによっては光瀬龍ばりにスケールの大きな話になるんだけど・・・そのあたりは読む人の好みかなぁ。



タグ:SF
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