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陰陽少女 妖刀村正殺人事件 [読書・ミステリ]


陰陽少女 妖刀村正殺人事件 (講談社文庫)

陰陽少女 妖刀村正殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/11/16
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 東京から実予県に転校してきた水里(みなざと)あかね。競技かるたの高校生名人でもある彼女は、老舗温泉で行われた競技かるた歌龍(かりゅう)戦に臨む。そのさなか、対戦相手を含む3人が何者かに襲われ、あかねはその容疑者として逮捕されてしまう。
 美少女陰陽師・小諸るいかが事件の謎に挑む『陰陽少女』シリーズ第2作。


 競技かるたの高校生名人・水里あかねは、友人の北野夕子と深沢楓を伴い、老舗温泉旅館・住田温泉で行われる歌龍戦に臨むことに。対戦相手は現・歌龍位保持者で、名人位以外すべてのタイトルを保持する神角五冠。東京帝国大学法学部の学生でもある。

 全三戦の戦いは一勝一敗で進むが、そのとき事件が起こる。
 控室にいた神角が日本刀で刺され、女湯の浴槽に二人の少女が沈んでいるところが発見されたのだ。事件前後の状況から、あかね以外に犯行を行えた者はいないと見られ、容疑者として逮捕されてしまう。
 高校生にして陰陽師である小諸るいかは、あかねの窮状を救うべく、事件解明に挑むのだが・・・


 前作でもそうだったが、とにかく登場人物ほとんど全部がエキセントリックで、一挙手一投足に大騒ぎする。さながらギャグマンガのようである。
 しかも語り手のあかねは妄想癖があり、しばしば(というかしょっちゅう)自らの白日夢に没入する描写が織り込まれていく。
 物語の冒頭から、あかねが住田旅館に到着するまでが文庫でおよそ80ページほどなのだが、あかねの妄想部分を除いたら、実質20ページくらいで済んでしまうのではないか。それほど脱線が多い。

 そして厄介なのが、この妄想がけっこう面白いのだ(笑)。どう考えても彼女の生まれる前の昭和時代のギャグとか、サブカル系の小ネタがざくざくと放り込まれてくる。
 この部分にハマれば本書はとても面白く読めるだろうが、なかなかアクが強いとも言えるので、波長が合わない人は早々に投げ出してしまうかも知れない。
 もっとも、本書を手にする人は、前作を読んでいて雰囲気は十分に分かっているだろうし、作者もそれを当てにして前作以上に "暴走" しているのだろう。


 "陰陽" と銘打つだけあって、超常の存在なども出てくるオカルト要素も多いのだが、ミステリとしてはあくまで現実世界の法則にしたがって解明されていく。

 文庫で450ページほどの本編なのだが、270ページあたりでいわゆる "読者への挑戦状" が挿入される。つまり解決編が180ページ近くもあるのだ。
 そしてその大半が、るいかと真犯人の対決である。あかねの罪を晴らし、真犯人の犯行を立証する、その推論過程が延々と綴られていく。ここがもちろん本書の読みどころだろう。
 些細なところと思われるような点から、微に入り細をうがつような推理が展開していき、意外な真実を明らかにしていく。このあたりは流石だと思う。

 ただ、トリックについてはちょっと難点があるかな。○○○○○○をちょっと便利に使いすぎじゃないかなぁ。まあ、ミステリ的には使い勝手のいいアイテムなんだが。ただその点も、物語全体の異様なハイテンションの中ではさほど目立たないように思えるのは事実。
 前作でも感じたが、実現可能性が低いトリックでも、物語世界の持つ ”ノリと勢い”(笑) で押し切ってしまうようなパワフルさが、本作の中には満ち満ちている。
 逆に、そういうトリックを使うために、こんな物語世界を用意したのだとしたら、それはそれで徹底していてスゴいとは思うが。



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九龍城の殺人 [読書・ミステリ]


九龍城の殺人(新潮文庫nex)

九龍城の殺人(新潮文庫nex)

  • 作者: 月原渉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/08/29

評価:★★★


 死んだ母の遺骨を祖母に渡すために香港へ渡った少女・新垣風(あらがき・ふう)。非合法組織の長を務める祖母、同世代の女子2人と出会い、行方不明の父親を探す中、女だけが入れる九龍(クーロン)城で起こった密室殺人事件に巻き込まれる。


 舞台は、中国への返還まで数年と迫った香港。
 主人公は18歳の少女・新垣風。彼女の母親が何者かに殺されてしまい、香港へ向かうことに。母の生前の言葉に従い、遺骨を祖母に渡すためだ。そしてそこには、風の父もいるのだという。

 風の祖母は、女性を中心とした非合法グループ・風姫(フォンジェン)の長・雪麗(シェリー)。その娘だった母は、やがて風の父となる日本人男性とともに日本へやって来たのだ。

 香港空港でトラブルに見舞われた風を救ったのは、シャクティという少女。風の従姉妹だった。シャクティの導きで祖母との面会を果たすが、父親の情報は得られない。

 父を探して香港に留まるうちに、紅花(ホンファ)という少女に出会う。シャクティの友人で、孤児たちの世話をする聖母院を営んでいる。
 しかし経済的には困窮状態にあった。そのため、ホンファは聖母院の存続のために自らを非合法組織へ "身売り" してしまう。

 非合法組織は、身寄りの無い少女を九龍地区にある『城』に集めて、富裕層に斡旋する事業をしていたが、内実は奴隷的な人身売買だった。それゆえに『城』は女のみが入れる場所で、男は一人もいない。

 シャクティからそのことを聞いた風は、ホンファを取り戻すべく単身で『城』へ乗り込んでいくが、そこで見たものは『城』の主・龍(ロン)が浴室の中で死んでいる光景だった。
 外部からの侵入は考えられず、容疑は犯行時に『城』の中にいた、ホンファを含む6人の少女たちに絞られたが、やがて第2の殺人が起こる・・・



 率直に書いてしまうと、『城』内での事件の犯人が分かっても、ミステリ的なカタルシスはあまり大きくない。
 それはあくまで物語の途中経過であって、真のクライマックスは、風の母が殺された事件、風の母親の過去、そして雪麗が抱えていた秘密など、風自身に関わる部分が明らかになる終盤にある。

 作者はいままで、このレーベルで『使用人探偵シズカ』シリーズという凝った密室殺人事件を扱ってきたので、その延長で捉えるとちょっと当てが外れるように思う。

 どちらかというと、本書はキャラの魅力で読ませるところも大きいように思う。けっこう武闘派のシャクティ、自らの信念に忠実なホンファと、若い女性ながらキャラが立っている。ヒロインの風も、日本育ちながら意外に図太く肝が据わっているのは、やはり母と祖母の血のせいか。風姫の長の孫だから、他の非合法組織も簡単に手が出せないという事情があるにしても、だ。

 数少ない男性キャラの中で、冒頭から登場する "謎の中国人"(笑)・チェンが印象深い。胡散臭さ全開で敵か味方か判断できないが、ストーリーのキーポイントになるとちゃっかり登場してくる。終盤で明らかになる正体も意外だ。

 文庫で370ページほどとそれなりに厚みがあるが、香港社会の描写なども豊富で、ちょっとした旅行気分が味わえる。
 異国を舞台にした紀行ミステリとしても楽しめるし、少女3人組の友情の物語でもある。そして、返還後の香港を描いたエピローグが物語全体を気持ちよく締めくくってくれる。



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密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック [読書・ミステリ]


密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫)

密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック (宝島社文庫)

  • 作者: 鴨崎暖炉
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2022/02/04

評価:★★★★☆


 密室殺人事件の犯人として逮捕されても、密室トリックが解明されない限り罪に問われない、という判例が確立したパラレルワールドの日本を舞台に、雪の山中に孤立したホテルで連続密室殺人が起こる。


 語り手は葛白香澄(くずしろ・かすみ)。17歳の男子高校生だ。
 幼馴染みの女子大生・朝比奈夜月(あさひな・やづき)に引っ張り出されて、埼玉県の山奥にあるホテル「雪白館」へやってきた。彼女の目的はイエティ(雪男)を探すこと(おいおい)。

 このホテルはかつてミステリ作家・雪城白夜(ゆきしろ・びゃくや)が住んでいた館。10年前、雪城は館に同業者や編集者を招いてパーティを開く。そのさなか、事件が起こった。
 館の一室の中に、胸をナイフで刺されたフランス人形が転がっていた、というもの。これは雪城の仕掛けた悪戯だったのだが、問題はその部屋が密室だったこと。しかもパーティの参加者は誰もその謎を解くことができなかったのだ。
 その後、館は人手に渡り、長期滞在客向けのホテルへと改装された。

 雪白館には香澄と夜月の他にも客が集まっていた。会社社長、医師、15歳の人気女優とそのマネージャー、イギリス人の少女、宗教団体の聖職者などだ。
 その中には、香澄の中学校時代の同級生で、同じ文芸部に所属していた蜜村漆璃(みつむら・しつり)という少女もいて、2人は3年ぶりに再会を果たすことになる。
 実は彼女にはある "過去" があるのだが、これは書かない方がいいだろう。

 そしてその夜、宿泊客の一人が刺殺死体となって発見される。現場は密室で、そこはかつて雪城が密室を "提示" してみせた部屋だった。犯人は10年前のトリックを再現してみせたものと思われたが・・・


 というわけで、ここから連続密室殺人事件の幕が開くのだが、タイトルにある「六つのトリック」の通り、様々な密室トリックが展開される。

 本書の構成上の特徴は、出し惜しみしないことかと思う。それによって、本格ミステリにありがちな "中だるみ" の回避にもなっている。
 多くの密室が登場するけど、そのうちのいくつかは最後までひっぱらずに、途中でトリックが明かされる。"雪城の密室" も、けっこう早い段階でカラクリが明かされる。もちろん、その解明シーンも盛り上がるので、読者の興味も引きつけられる。
 もちろん、途中で(一部とはいえ)トリックを明かすのは、それだけ "最後の密室" のトリックに自信があるからこそできることなのだが、それに十分耐えられる出来になってると思う。
 6つも出てくる密室トリックの中には、「いくらなんでもそれはないだろう」って言いたくなるものもある。しかし冒頭の "雪城の密室" のトリックと、"最後の密室" のトリックはなかなか秀逸。本書の白眉だろう。

 "最後の密室" は、作者が言うほど難攻不落なのか疑問に思わなくもない(警察が本気になって調べれば、案外簡単にバレそうな気もする)が、心理的な盲点を突くものであるのは間違いない。
 "雪城の密室" のトリックは、成功率はあまり高くなさそうに感じるのだが、このカラクリが発動するシーンは映像化したら楽しそうだ。
 私に関していえば、この "雪城の密室" がけっこうツボにはまったので、これ以降の物語展開に没頭するきっかけになった。

 本格ミステリの定型といえば、ワトソン役がホームズ役に振り回されてきりきり舞いする、ってものがある。本書で言えば語り手の香澄くんがそれに該当するのだけど、彼は終盤においてワトソン役に収まりきらない活躍をする。これも読みどころのひとつかな。

 雪に閉ざされた館での密室連続殺人、という "型通り" の舞台ながら、その中でいくつかのストーリー展開上の "型破り" をして見せて、それでもミステリとして破綻せずに最後まで読ませる。新人の第一作とは思えない出来だと思う。

 2作目も既に刊行されていて手元にあるので、近々読む予定。



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アルファベット荘事件 [読書・ミステリ]


アルファベット荘事件 (創元推理文庫)

アルファベット荘事件 (創元推理文庫)

  • 作者: 北山 猛邦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/10/12

評価:★★★☆


 山奥にあって、屋敷の内外にアルファベットをかたどったオブジェが散在する『アルファベット荘』。降雪によって外部との連絡が途絶する中、そこに集められた招待客の1人が、不可能状況の中で殺される・・・。


 「プロローグ」は1982年の西ドイツ。そこで日本人の少年少女が出会う。
 2人はホテルで開かれたパーティに参加するが、そこに展示されていた美術品『創世の箱』の中から死体が見つかる。事前に中が空であることは確認されており、パーティの間は衆人環視の中にあったにも関わらず。
 そして事件後の混乱の中、2人はお互いの名も知らないうちに離ればなれとなってしまう。

 そして時代は1998年にとぶ。美術商・岩倉清一が所有する『アルファベット荘』は、岩手県の山中にあった。そこに招待客たちが集まってくる。

 語り手は客のひとりである橘未衣子(たちばな・みいこ)。劇団『ポルカ』所属の女優だ。同じ劇団の看板女優・美久月美由紀(みくづき・みゆき)、そして "ディ" という名の青年の3人で『アルファベット荘』に招待されていた。

 3人以外にも個性的であるが客たちがやってくるが、みな互いに見知らぬ者同士。そしてなぜか岩倉本人は姿を見せない。

 アルファベットをかたどった奇妙なオブジェが建物の内外に散在するアルファベット荘。屋敷は本館と別館に分かれており、別館2階の広間に鎮座していたのが『創世の箱』だった。

 翌朝、目覚めた客たちは広間から『創世の箱』が消えていたことに驚く。
 『箱』は本館2階の大広間で発見されるが、その中には招待客の一人が死体となって横たわっていた。本館と別館は棟が分かれており、移動するにはいったん庭に出なければならない。しかし昨夜から降り積もった雪には、箱が移動した形跡どころか人の足跡すらない。
 そして、さらに殺人は続く・・・

 どうやら、彼らをこの屋敷に呼び集めたのは岩倉清一ではなさそうなことがわかってくるが、では誰が何の目的で集めたのか・・・


 読んでいて、まず気になるのは「プロローグ」に登場した子どもたち。
 当時10歳で、 "幼い恋" の雰囲気をまとっていた2人は、本編時点では26歳になっているはず。当然、本編にも登場してるはずだと思う。
 ミステリとしての謎解きに加えて、誰と誰が "あの2人" なんだろう? って謎にも、とってもそそられる。もっとも、年齢的に該当しそうなキャラがたくさんいるので、なかなか分からない(まあ簡単に分かったら面白くないだろうけど)。16年後の2人の "恋" の行方にも大注目だ。
 そしてこの2人の存在が、物語のとても大きな要素にもなっているのは言うまでもない。

 さて、メインになる2つの謎について。

 まず16年前の、箱内部への死体出現の謎。これはなんとなく見当がつくかな。というよりこれより他に考えようがない。まあ、思考の盲点ではあるだろうけど。

 そして本編の、箱と犯人の移動の謎。明かされる真相には「いくらなんでもそれはないだろう」とは思った。でも巻末の「あとがき」によると、本書の原型は作者が大学生の頃に書かれたとある。多少(どころかかなり)強引でも「えいや!」と使ってしまえるのが "若さ" なのかも知れない(笑)。

 読んでいて結構楽しかったのは各キャラの描写。皆さん個性的で、本格ミステリにつきものの中盤のダレを感じさせない。時に未衣子と美由紀の掛け合いは、漫才というかほとんどマンガ。これになじめれば、本書は楽しく読めると思う。

 探偵役の "ディ" の陰がやや薄いのが気になったかな(作者も「あとがき」の中で "探偵であること" 以外にアイデンティティを持たないキャラだって書いてる。名前も ”探偵” を意味する detective の頭文字からとったという)。
 もしシリーズ化されていれば、続巻で深く描かれていったのかも知れないな、とは思ったが。



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