アルファベット荘事件 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
山奥にあって、屋敷の内外にアルファベットをかたどったオブジェが散在する『アルファベット荘』。降雪によって外部との連絡が途絶する中、そこに集められた招待客の1人が、不可能状況の中で殺される・・・。
「プロローグ」は1982年の西ドイツ。そこで日本人の少年少女が出会う。
2人はホテルで開かれたパーティに参加するが、そこに展示されていた美術品『創世の箱』の中から死体が見つかる。事前に中が空であることは確認されており、パーティの間は衆人環視の中にあったにも関わらず。
そして事件後の混乱の中、2人はお互いの名も知らないうちに離ればなれとなってしまう。
そして時代は1998年にとぶ。美術商・岩倉清一が所有する『アルファベット荘』は、岩手県の山中にあった。そこに招待客たちが集まってくる。
語り手は客のひとりである橘未衣子(たちばな・みいこ)。劇団『ポルカ』所属の女優だ。同じ劇団の看板女優・美久月美由紀(みくづき・みゆき)、そして "ディ" という名の青年の3人で『アルファベット荘』に招待されていた。
3人以外にも個性的であるが客たちがやってくるが、みな互いに見知らぬ者同士。そしてなぜか岩倉本人は姿を見せない。
アルファベットをかたどった奇妙なオブジェが建物の内外に散在するアルファベット荘。屋敷は本館と別館に分かれており、別館2階の広間に鎮座していたのが『創世の箱』だった。
翌朝、目覚めた客たちは広間から『創世の箱』が消えていたことに驚く。
『箱』は本館2階の大広間で発見されるが、その中には招待客の一人が死体となって横たわっていた。本館と別館は棟が分かれており、移動するにはいったん庭に出なければならない。しかし昨夜から降り積もった雪には、箱が移動した形跡どころか人の足跡すらない。
そして、さらに殺人は続く・・・
どうやら、彼らをこの屋敷に呼び集めたのは岩倉清一ではなさそうなことがわかってくるが、では誰が何の目的で集めたのか・・・
読んでいて、まず気になるのは「プロローグ」に登場した子どもたち。
当時10歳で、 "幼い恋" の雰囲気をまとっていた2人は、本編時点では26歳になっているはず。当然、本編にも登場してるはずだと思う。
ミステリとしての謎解きに加えて、誰と誰が "あの2人" なんだろう? って謎にも、とってもそそられる。もっとも、年齢的に該当しそうなキャラがたくさんいるので、なかなか分からない(まあ簡単に分かったら面白くないだろうけど)。16年後の2人の "恋" の行方にも大注目だ。
そしてこの2人の存在が、物語のとても大きな要素にもなっているのは言うまでもない。
さて、メインになる2つの謎について。
まず16年前の、箱内部への死体出現の謎。これはなんとなく見当がつくかな。というよりこれより他に考えようがない。まあ、思考の盲点ではあるだろうけど。
そして本編の、箱と犯人の移動の謎。明かされる真相には「いくらなんでもそれはないだろう」とは思った。でも巻末の「あとがき」によると、本書の原型は作者が大学生の頃に書かれたとある。多少(どころかかなり)強引でも「えいや!」と使ってしまえるのが "若さ" なのかも知れない(笑)。
読んでいて結構楽しかったのは各キャラの描写。皆さん個性的で、本格ミステリにつきものの中盤のダレを感じさせない。時に未衣子と美由紀の掛け合いは、漫才というかほとんどマンガ。これになじめれば、本書は楽しく読めると思う。
探偵役の "ディ" の陰がやや薄いのが気になったかな(作者も「あとがき」の中で "探偵であること" 以外にアイデンティティを持たないキャラだって書いてる。名前も ”探偵” を意味する detective の頭文字からとったという)。
もしシリーズ化されていれば、続巻で深く描かれていったのかも知れないな、とは思ったが。
タグ:国内ミステリ
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