陰陽少女 妖刀村正殺人事件 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
東京から実予県に転校してきた水里(みなざと)あかね。競技かるたの高校生名人でもある彼女は、老舗温泉で行われた競技かるた歌龍(かりゅう)戦に臨む。そのさなか、対戦相手を含む3人が何者かに襲われ、あかねはその容疑者として逮捕されてしまう。
美少女陰陽師・小諸るいかが事件の謎に挑む『陰陽少女』シリーズ第2作。
競技かるたの高校生名人・水里あかねは、友人の北野夕子と深沢楓を伴い、老舗温泉旅館・住田温泉で行われる歌龍戦に臨むことに。対戦相手は現・歌龍位保持者で、名人位以外すべてのタイトルを保持する神角五冠。東京帝国大学法学部の学生でもある。
全三戦の戦いは一勝一敗で進むが、そのとき事件が起こる。
控室にいた神角が日本刀で刺され、女湯の浴槽に二人の少女が沈んでいるところが発見されたのだ。事件前後の状況から、あかね以外に犯行を行えた者はいないと見られ、容疑者として逮捕されてしまう。
高校生にして陰陽師である小諸るいかは、あかねの窮状を救うべく、事件解明に挑むのだが・・・
前作でもそうだったが、とにかく登場人物ほとんど全部がエキセントリックで、一挙手一投足に大騒ぎする。さながらギャグマンガのようである。
しかも語り手のあかねは妄想癖があり、しばしば(というかしょっちゅう)自らの白日夢に没入する描写が織り込まれていく。
物語の冒頭から、あかねが住田旅館に到着するまでが文庫でおよそ80ページほどなのだが、あかねの妄想部分を除いたら、実質20ページくらいで済んでしまうのではないか。それほど脱線が多い。
そして厄介なのが、この妄想がけっこう面白いのだ(笑)。どう考えても彼女の生まれる前の昭和時代のギャグとか、サブカル系の小ネタがざくざくと放り込まれてくる。
この部分にハマれば本書はとても面白く読めるだろうが、なかなかアクが強いとも言えるので、波長が合わない人は早々に投げ出してしまうかも知れない。
もっとも、本書を手にする人は、前作を読んでいて雰囲気は十分に分かっているだろうし、作者もそれを当てにして前作以上に "暴走" しているのだろう。
"陰陽" と銘打つだけあって、超常の存在なども出てくるオカルト要素も多いのだが、ミステリとしてはあくまで現実世界の法則にしたがって解明されていく。
文庫で450ページほどの本編なのだが、270ページあたりでいわゆる "読者への挑戦状" が挿入される。つまり解決編が180ページ近くもあるのだ。
そしてその大半が、るいかと真犯人の対決である。あかねの罪を晴らし、真犯人の犯行を立証する、その推論過程が延々と綴られていく。ここがもちろん本書の読みどころだろう。
些細なところと思われるような点から、微に入り細をうがつような推理が展開していき、意外な真実を明らかにしていく。このあたりは流石だと思う。
ただ、トリックについてはちょっと難点があるかな。○○○○○○をちょっと便利に使いすぎじゃないかなぁ。まあ、ミステリ的には使い勝手のいいアイテムなんだが。ただその点も、物語全体の異様なハイテンションの中ではさほど目立たないように思えるのは事実。
前作でも感じたが、実現可能性が低いトリックでも、物語世界の持つ ”ノリと勢い”(笑) で押し切ってしまうようなパワフルさが、本作の中には満ち満ちている。
逆に、そういうトリックを使うために、こんな物語世界を用意したのだとしたら、それはそれで徹底していてスゴいとは思うが。
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