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QED 憂曇華の時 [読書・ミステリ]


QED 憂曇華の時 (講談社文庫)

QED 憂曇華の時 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/09/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 安曇野の神社で、神楽の舞い手が怪死する。近くを観光に訪れていた桑原崇と棚旗奈々の薬剤師コンビが事件に巻き込まれることに。人気シリーズ「QED」の一編。


 長野県南安曇郡穂高町。神社で一ヶ月後に行われる夏祭り神楽に備えて、お囃子の練習をしているた鈴本順子、理恵、麻里の美人三姉妹。その前に現れた男は、耳をそがれ、背後から刺された傷で瀕死の状態だった。そして「S」のような血文字のダイイング・メッセージを残して息を引き取る。

 山梨県の石和(いさわ)に観光に訪れていた崇と奈々は、友人の小松崎から呼び出されてこの殺人事件に関わることになる。

 さらに第2の事件が起こる。今度も神楽の関係者の女性で、「黒鬼」という謎の言葉を残して死亡する・・・


 毎回、崇の語る古代史にまつわる蘊蓄に圧倒されるシリーズだが、今回は安曇野を舞台に大いに博覧強記ぶりを見せつける。
 古代海人(わたつみ)・安曇族がこの地に移住してきたことから始まって、古事記・日本書紀での記述から、今に残る穂高神社の奇祭、鵜飼いの風習まで、膨大な情報量で新たな解釈が示され、その勢いは止まるところを知らない。このシリーズ、もう20巻を超えてるのだけど、ネタが尽きないのはスゴいの一言だ。

 ただ、登場してくるネタがシリーズ当初と比べて、だんだんマイナーな分野になってきているような気がする。”新解釈による目から鱗が落ちるような驚き” が描かれていても、それがどれくらいスゴいのかが、私みたいに歴史の知識の少ない者には、今ひとつ伝わらない。気がつけば、崇の長広舌を漫然と読み飛ばしてしまっている自分がいたりする。シリーズのファンからすれば、風上にも置けないトンデモナイ奴だね、私は。

 文庫で420ページほどだが、その大半はひたすら崇が語るシーンが占める。ミステリ部分は添え物とまでは言わないが、読んでいると殺人事件を扱ってることを忘れそうになってしまう(笑)。

 そのミステリ部分だが、ラストで明かされる事件の背景はかなり凝ったものになってる。横溝正史の地方の旧家を舞台にしたミステリに通じるものを感じたりする。
 いにしえから残る因習とか秘められた血縁とか、都会では希薄になってしまった要素が地方ならまだ使えるということか。



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