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サクラオト [読書・ミステリ]

サクラオト (集英社文庫)

サクラオト (集英社文庫)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2021/01/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★

五感をテーマにした連作短篇集。

「第一話『サクラオト』春」
テーマは聴覚。
その夜、廃校となった女子校を訪れたのは
大学卒業を控えた西崎朝人と遠藤詩織だった。
13年前に、生徒によるクラスメイト毒殺事件が起こり
その後も複数の殺人事件の舞台となっていた場所だ。
過去の事件について詩織と語り合っているうちに
”真相” にたどり着く朝人だったが・・・

「第二話『その日の赤』夏」
テーマは視覚。
高校1年生の樋口夏帆(かほ)は、母の急死によって、
家事一切を切り盛りしなければならなくなった。
中1の弟・晴希(はるき)は、母の死後すっかり塞ぎ込んでしまった。
近所の公園では、幼い女の子がいたずらされる事件が起こっていた。
そんなある日、夏帆は晴希が公園の女子トイレに
入っていく姿を目撃してしまう・・・

「第三話『Under the rose』秋」
テーマは嗅覚。
橋本菜摘はアラフォーの主婦。
高校時代に所属していた園芸部のメンバーの同窓会に参加する。
メンバーの一人、綾子は人が羨むものをすべて持ち合わせており
彼女が園芸に熱中する姿は菜摘にとって憧れだった。
その綾子が、同窓会の3日後に自宅で死体で発見される。
周囲の状況から自殺と思われたが・・・

「第四話『悪いケーキ』冬」
テーマは味覚。
大学生・斉藤紘一(こういち)は、なぜかデコレーションケーキが大嫌い。
幼い頃、クリスマスに伯母の琴美と共に祖父の所有する別荘を訪れたが
翌朝には紘一だけが別荘にいて、琴美は失踪してしまっていた。
紘一の友人である三島空知(そらち)は、その夜に何らかの事件が起こって
ケーキ嫌いの原因はそのトラウマなのではないか、と言い出す。
2人は謎を解くべく、その別荘に泊まりに行くのだが・・・

「第五話『春を掴む』春」
テーマは触覚。
9歳だった風花(ふうか)はバス事故に巻き込まれるが、
同級生の颯太(そうた)に救われ、九死に一生を得る。
2人は同じ中学、高校へと進み、周囲からも認められる仲となる。
そして同じ大学へ通うようになった頃、風花はアルバイト先の
同僚・岡部から執拗なアプローチを受けるようになる。
やがて彼の行動はストーカー的なつきまといへと化していくのだが・・・

ミステリの連作短篇集は、最後の作品ですべての短篇がつながって
大きな構図が見えてくる、というものが多い。

本書もその例に漏れず、各短篇はみなそれそれ
独立した作品としても切れ味鮮やかなミステリになってるんだが
最後に置かれた「Extra stage『第六感』」で
それまでの5つの短篇すべてが ”あること” を通じて
つながっていたことが明らかになる。

本書の場合は、他の多くの連作短篇とはかなり意味合いが異なっていて
”作品間のつながり” に新しい趣向を盛り込んだ短篇集といえると思う。

今までこの作家さんの作品は長編しか読んだことがなかったんだが
短篇でもなかなかの達人技の持ち主であることがわかりました。


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翼をください [読書・ミステリ]

翼をください (創元推理文庫)

翼をください (創元推理文庫)

  • 作者: 田南 透
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫
評価:★★

K大学法学部、中尾教授のゼミに所属する女子大生・石元陽菜(ひな)は
愛らしい容姿と気遣いのできることから男子学生の憧れの的だった。

同じゼミに所属する男子学生・小杉慶太もまた彼女に惚れている一人。
というか、ゼミの男どもはみな彼女の魅力に参っている(笑)。

しかしそれは表向き。彼女には裏の顔があった。
計算高く、陰に隠れて男関係も奔放だがすべては遊びと割り切っており、
いつか ”理想の男” をゲットして玉の輿に乗ることを夢見ている。

陽菜がアルバイトで知り合った医学生・高坂蓮(れん)は
まさに彼女の願望通りの男だったが、彼は陽菜の思いを拒絶する。
彼には既に心に決めた人がいたのだ。

そんな陽菜は最近、ストーカー行為に悩まされていた。
無言電話が頻繁にかかってくるのだ。その執拗さにキレた彼女は
ストーカー相手に憂さ晴らしを始めてしまう。

陽菜の前では、みな口が軽くなる(彼女は ”そとづら” だけはよいので)。
彼女は、自分が知り得た周囲の人々の秘密を
ストーカー相手に喋ってしまったのだ。

 いくら何でもストーカー相手にそんなことするかなぁとも思うが、
 本書の中で描かれる陽菜さんの性格が悪すぎて、
 あまり不自然さを感じないのは作者が上手いのだろう。

しかしその中には、ストーカー自身の秘密もまた含まれていた。
激怒したストーカーは陽菜の殺害を決意する。

中尾ゼミはフィールドワークをかねてゼミ旅行を行うことになった。
場所は小笠原諸島の父島から船で1時間という絶海の孤島・岩島。

メンバーは中尾教授に加え、陽菜や慶太たちゼミの学生9人、
そして慶太の義弟で工学部の学生・雅水(まさみ)の総勢11人。

そして意外なことに高坂蓮も島に滞在していた。どうやら島の診療所に
勤務する女医・倉田優と何らかのつながりがあるらしい。

そんな岩島を嵐が襲った日、陽菜の刺殺死体が発見される・・・

てっきりここからクローズト・サークルものになるのかと思ったが
事件は解決しないままに関係者は本土に帰還してしまう。
もちろん捜査は継続されており、
終盤には陽菜殺害の犯人も明らかになるのだが・・・

ここから先はちょっとネタバレになるので未読の方はご注意を。

本書では陽菜の事件と並行して、ある ”事態” が進行している。
後半になると、そちらの重みがどんどん増して、
いつのまにか陽菜の事件と軽重が逆転してしまう。
というより、作者が書きたかったのはこちらの方だったのだろう。

陽菜殺害事件はもちろん解決するのだが、
こちらの ”事態” も意外な結末を迎える。

陽菜の事件の犯人、そしてストーカーの正体にはひねりが効いていて
ミステリとしての出来も悪くないと思うのだけど、
”事態” の方はねぇ・・・これは後味が悪い。

イヤミスというレベルを超えていて
私にはかなりホラーなエンディングに感じる。
この手の話は苦手なので星少なめになりました。
ゴメンナサイ。


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早房希美の謎解き急行 [読書・ミステリ]

早房希美の謎解き急行 (双葉文庫)

早房希美の謎解き急行 (双葉文庫)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2020/09/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

この本のスゴいところは、武州急行電鉄という架空の会社を設定し、
さらに架空の路線を作ってしまっているところ。

関東以外に住んでる人にはピンとこないかと思うが、
本書の冒頭にある路線図を紹介すると
池袋を起点に光が丘、埼玉県に入ってからは朝霞、新座ときて
川越の東を抜けて北上、熊谷へ至る。
支線も2つあり、総計で50を超える駅も設定されていて
急行が止まる駅/止まらない駅まで明示されてる。
さらには、他の私鉄やJRとの乗換駅まで考えられていて
いやはやたいしたもの。

作者は鉄道会社勤務という経歴を持つだけあって、
鉄道というものが大好きなのだろう。この路線図を考えるのも
嬉々として行っていたのではないかと推察する。

本書は、この架空の鉄道会社で起こる事件の数々を、
社員である早房希美(はやふさ・のぞみ)と、
彼女の祖父で元埼玉県警の刑事だった喜一郎が解決していく
連作ミステリである。

「ケース1 遮断機のくぐり抜けは大変危険です」
長閑な田舎に位置する黒岩4号踏切。
午後9時ころ、ここに設置されている特殊信号発光機が作動して
列車が急停車するという事件が起こる。
これは障害物検知装置がなにものかを感知したときに発動するのだが
障害となるものは何も発見されなかった。
しかも、この ”誤作動” が1週間で4度も起こってしまう。
希美は同僚の布施と共に現地へ調査に向かうが・・・

「ケース2 雨の日は御足元に充分ご注意ください」
武州急行釘無駅で通勤客・牧野が階段から転落してしまう。
彼は「駅員に突き落とされた」と言うが、様子がおかしい。
防犯カメラに写っていた、全身黒ずくめの謎の人物が
犯人ではないかと思われたが・・・

「ケース3 危険物の持ち込みはお断りしております」
朝のラッシュアワーを迎えた池袋駅。
通勤客の深江由香が駅員に助けを求めてきた。
ストーカーに追われているのだという。
彼女が駅務室に入った後、今度は男性客が現れる。
由香の上司の岩屋と名乗ったその男は、
彼女が語ったストーカーの外見にそっくりだった・・・

「ケース4 痴漢は犯罪です」
新座駅近くの車内で、痴漢事件が起こる。
女性から痴漢と名指しされた男は容疑を否定したが、
駅長室で取り調べを受けることになった。
女子会の帰りで、たまたま乗り合わせていた希美は、
男が駅長室へ入るときに薄笑いを浮かべているのを目撃する・・・

「ケース5 特急のご乗車には特急券が必要です」
希美は、会社の帰りにしばしば特急を利用する。
座って帰れるからだ。その日、希美が乗った車両には
特急券を持たずに乗っている女性客がいた。
彼女はそのあと車掌から特急券を購入したのだが、
その翌日も翌々日も、彼女は同様の行動を取る。
希美がそれについて車掌と話すと、
不審なふるまいをする乗客がもう一人いるという情報が・・・

いずれも、事態の背後に隠れた犯罪を
喜一郎と希美が暴いていく話なんだが、
名刑事と謳われた喜一郎の影響力はものすごい。
退職した後でも県警内に人脈を持っていて幹部ともツーカーの仲。
まあ、そうしないと話が進まないんだろうけど(笑)。
最後の話でも犯罪が描かれるけど、それと同時に
”鉄道を舞台にしたちょっといい話” になっていて、
読んでいて心がほっこりする。これで星半分増量(笑)。

 


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夕暮れ密室 [読書・ミステリ]

夕暮れ密室 (角川文庫)

夕暮れ密室 (角川文庫)

  • 作者: 村崎 友
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

舞台は北関東の田舎町。
時代は、作品内設定では2000年代初めらしいが
携帯電話の電波が通じない場所が随所にあるなど
個人的には1990年代初めくらいかなぁと思った。

 あのころは、建物の中でも場所によっては
 電波の届くところ、届かないところがあったよねえ。
 ああ、何もかもみな懐かしい・・・(笑)。

インターハイ出場を目指す栢山(かやのやま)高校バレー部は
7月の県大会で、格下の高校相手にまさかの準決勝での敗退。

夢破れた3年生たちは部活動を引退し、
卒業後の進路へ向けて気持ちを新たにしていく。

そして9月。3年生にとっては最後の文化祭が始まるが
その開会式の朝、バレー部のマネージャーだった
森下栞(しおり)の死体が高校のセミナーハウスで見つかる。

現場の女子シャワールームは密室状態で、
遺書らしきものが発見されたことから
学校側は自殺として処理しようとするのだが、
クラスメイトやバレー部員たちはそれに反発する。

誰からも愛され、特に男子生徒からは憧れの的だった彼女を
殺したのは誰か。生徒たちは様々な憶測を巡らせていくのだが
そんな中、さらにもう一人の生徒の死体が発見される・・・


物語は、栞の親友だった松本果林(かりん)をはじめ、
章ごとに異なる生徒の視点から語られていき、
それによって事件の様相が多面的に描かれていく。

本書の特徴は、徹底して生徒の側から描いていることだろう。
登場するバレー部の顧問や担任、学年主任なども、
あくまで生徒からの視点でしか描かれない。

警察についても同様で、捜査で判明した事実なども
ほとんど描かれない。例えば死亡推定時刻などは、
犯人絞り込みの重要な手がかりになるはずだが
それすらも生徒たちには知らされない(まあ、当たり前だが)。

逆に言うと、生徒たちは自分や仲間が見聞きした情報しか
手元にないわけで、それがために
様々な推理が成立していくことになる。

最終的には、生徒の一人が探偵役となって犯人に至るのだが
誰が探偵になるのかさえ終盤に至るまで分からない。
つまり、主要登場人物の誰にも犯人の可能性があるわけだ。

描かれてはいないけど、警察だったら密室トリックの解明や
生徒たちのアリバイ調べなどもどんどん進んで
犯人にたどり着くのも時間の問題のような気もするが
本書のキモは、あくまで生徒の心理状態を描くことなのだろう。

高校3年生も残り半年となり、進路で悩んだり将来に不安を抱えたり。
そんな不安定に揺れ動く生徒たちの間で起こった殺人事件。
解明されてみると、犯人の動機もこの時期の高校生ならでは。
登場人物もみな、同様の不安を抱えた生徒たち。
作者は、そんな彼ら彼女らの葛藤を生き生きと描きだしてみせる。

本書は、横溝正史ミステリ大賞に応募して、”落選” したものの、
選考委員から高い評価を受けて出版に至ったという。
そんな経緯も納得の青春ミステリの傑作だと思う。


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七月に流れる花 / 八月は冷たい城 [読書・その他]

七月に流れる花 (講談社タイガ)

七月に流れる花 (講談社タイガ)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 文庫
八月は冷たい城 (講談社タイガ)

八月は冷たい城 (講談社タイガ)

  • 作者: 恩田陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/24
  • メディア: 文庫
評価:★★

『七月に流れる花』

主人公は大木ミチルという少女。
中学生の彼女は、6月という中途半端な時期に
夏流(かなし)という田舎の町へ転校してきた。

1学期の終業式を迎えたころから彼女の周囲に謎の人物が出没を始める。
それは「みどりおとこ」と呼ばれる、全身が緑色の人間。
「おとこ」と言われているが男女の性別もよく分からない。

そのみどりおとこから封筒を渡されるミチル。
それは、夏流城(かなしろ)と呼ばれる場所で行われる
”林間学校” への招待状だった。

「夏のお城には、呼ばれたら必ず行かなくてはならない」
手紙で指定された日に、夏流城へやってきたミチルは
自分以外にも4人の少女が呼ばれていたことを知る。
その1人は、ミチルのクラスメイトの佐藤蘇芳(すおう)だった。

5人の少女たちによる、古城での奇妙な共同生活が始まるが・・・

『八月は冷たい城』

主人公は嘉納光彦(かのう・てるひこ)という少年。
本書は、『七月に流れる花』と時間軸を同じくする。
つまり、同時期に少女たちと少年たちが古城に招かれており、
光彦は集められた4人の少年たちのひとりである。

とは言っても、両者が生活するスペースは分けられているので
お互いにその存在を知らないのだが、
光彦と蘇芳はいとこ同士で、互いのグループの存在を知っていた。

光彦たち男子の側にも、いろいろ事件が突発するのだが、
こちらはかなり悪意を感じるような凶悪なことも起こる。

そんな中、光彦と蘇芳は密かに ”ある方法” で
連絡を取り合って情報交換を続け、事態の真相に迫っていく・・・

最初はファンタジーかと思って読んでいたのだが、
『七月』の終盤で夏流という町が成立した経緯、
子どもたちが古城に呼ばれてきた理由が明かされ、
さらに『八月』では、「みどりおとこ」の衝撃的な正体が示される。

これがあまりに衝撃的で、途中まで★3つにしようかと
思ってたんだけど、1つ減点しちゃいました。
ごめんなさい。この手のネタは苦手なんです。

あまり詳しく書くとネタバレになるのでちょっとだけ。

本作はファンタジーではない(ファンタジー要素はあるけど)。
現在の我々と地続きな世界を描いている。
そういう意味ではSFに分類したほうがいいかもしれない。
さらに『八月』ではミステリ要素もある。

もともと作者は複数のジャンルにまたがった作品を書く人なのだが。

本書の初刊は2016年なんだけど、
2021年の今になって読むと、また違う感想を抱くのではないかな。


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