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豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 [読書・ミステリ]

豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 (実業之日本社文庫)

豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2021/02/05
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

全6編収録の短篇集。内訳は
ノンシリーズの短篇5編に、「猫丸先輩シリーズ」1編。

「変奏曲・ABCの殺人」
アガサ・クリスティーの代表作の一つ、『ABC殺人事件』。
頭文字Aの町で頭文字Aの人間が殺され、続いて
頭文字Bの町で頭文字Bの人間が殺され、さらに・・・という話で
初読は中学生の頃だったかなあ。真相を読んでびっくりしたものだ。
あの頃はミステリ初心者だったからねぇ(笑)。
主人公・段田(だんだ)富士夫は、殺人事件の新聞記事を見つける。
青原(あおはら)で浅嶺(あさみね)久美というOLが殺され、2週間後に
番小路(ばんしょうじ)町で馬場(ばば)茂昭という老人が殺されていた。
借金で首が回らなくなっていた富士夫は、これを利用して
弟の段田高志を殺してその財産を手に入れることを思いつく。
その前段階として、頭文字Cの町で頭文字Cの人間を
殺すことにするのだが・・・
ラストの展開はなかなか意外。もし『ABCー』が現代に起こっていたら
こういう結末もあったかも知れない。

「社内偏愛」
企業の人事管理にまで高性能AIが導入された世界。
主人公・寺島が働く会社にも、”マザー・コンピュータ”、
略して ”マザ・コン” というAIが稼働しているが、
なぜか ”マザ・コン” は寺島に対して露骨な ”えこひいき” を始める。
原因は不明だが、それに ”忖度” した(笑)同僚や上司たちは、
寺島に対して腫れ物に触るような扱いをするようになって・・・
1970年代に書かれたSFだよ、って言われたら信じてしまいそう。
オチもそれっぽい。

「薬味と甘味の殺人現場」
マンションの一室で女性の扼殺死体が発見される。
被害者はパティシエの専門学校に通う22歳の学生だったが
遺体の傍らには小さなケーキが3つ置かれ、さらに
彼女の口には1本の長ネギが突き立てられていた・・・
犯人が遺体にそんな工作を行った理由が最大のサプライズなんだが
これは誰にも見当がつかないよねぇ・・・

「夜を見る猫」
OL・由利枝は有給をまとめ取りして、祖母の住む田舎にやってきた。
都会を離れてのんびり過ごす由利枝だが、
祖母の飼い猫・ミーコが不審な行動をしていることに気づく。
夜中に畳の上に座り、空中の一点をずっと凝視しているのだ。
祖母によると、由利枝が来る前からそれは始まっているのだという。
オカルトっぽく始まるが、ちゃんとミステリとして着地する。
ミーコの行動から筋道を立てて真相に至る由利枝の推理もいいが
なんといってもミーコがかわいい(笑)。

「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」
太平洋戦争終盤の昭和19年12月。
主人公・飯塚は陸軍の二等兵として招集され、
長野県松代の陸軍特殊科学研究所へ配属された。
そこで飯塚は、敗色濃い戦局を一気に逆転すると称して
何やらアヤシげな新兵器の開発をしている正木博士のもとで働くことに。
しかし、その実験棟で殴殺死体が見つかる。
被害者は飯塚と同じ正木博士のもとで働く影浦二等兵。
頭部を何か角張ったもので殴られていた。
実験棟の周囲には雪が積り、人が出入りした足跡はない。
現場は施錠され、凶器になるようなものも存在しない。
唯一、遺体の傍らには粉々になって飛び散った ”豆腐” が・・・
重苦しい時代と現場に対して、豆腐が凶器かも、という脱力ものの謎。
その真相は・・・うーん、バカミスとも言い切れないんだが
これが ”普通のミステリ” としてのオチだったら、ちょっと残念かなぁ。

「猫丸先輩の出張」
衣料品メーカーの本社企画部に勤務する浜岡は、
北関東(明示されてないけど明らかに筑波)にある研究所が開発した
画期的な新素材のデータを本社へ持ち帰るという出張を命じられる。
浜岡は研究室長・室井からデータを受け取ったが、その直後
研究所内で不審な人物が見つかる。室井たちと共に
不審者を追った浜岡だが、廃棄されていた旧研究室棟で見失う。
手分けして旧研究室棟を捜すが、その最中に室井が襲われてしまう。
衆人環視の廃ビルから姿を消した犯人の謎を解くのは、
研究所のPR動画を撮影中だった猫丸先輩だった・・・
文庫で110ページ近い中編。猫丸先輩のキャラはやっぱりいいなぁ。

本書は作品ごとにけっこう好みが分かれた。
総合して星3つくらいかな、って思ったんだけど、
やっぱり「豆腐の角にー」がどうにも気になって
星半分減点してしまいました。

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