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ブルーローズは眠らない [読書・ミステリ]


ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)

ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

前作『ジェリーフィッシュは凍らない』で
メイントリックを成立させるために、
パラレルワールドをまるごとひとつ作ってしまった作者だが、
これは意外に使えるのかも知れない。

本作『ブルーローズは-』は前作と同じパラレルワールドの
U国(モデルは明らかにアメリカだが)を舞台にした
”青いバラ” を巡るミステリ。

wikiによると、バラはもともと青い色素を持たず、自然交配のみで
青いバラを作り出すことは不可能だと判断されているらしい。

 だから英語での Blue Rose(青いバラ)には、
 「不可能」といった意味が含まれるという。

しかし本書の世界では、1983年に二人の人物が
ほぼ同時に青いバラ作成に成功し、それが事件の始まりとなる。

 またまwikiの情報で恐縮だが、”我々の世界” では、
 ”青いバラ” は2004年に日本のサントリーの系列会社と
 オーストラリアの植物工学企業との共同研究開発で成功している。
 もっとも、ここでできた「青いバラ」なるものの色は
 「青みを帯びた薄紫」という感じで(wikiに写真が出てる)、
 絵の具やクレヨンみたいな一般的なイメージの ”真っ青” ではない。
 より ”青色” に近づける研究も進んでいるらしいが。

1983年11月18日、牧師にして園芸家としても知られる
ロビン・クリーブランドが青いバラを作り出したと発表する。
自然交配の過程で偶然に生まれたものだという。

そして翌19日、C大学の生物工学科教授フランキー・テニエルが
遺伝子編集技術を用いて青いバラの作出に成功したと発表した。

前作から数ヶ月後、事件を解決したマリアと漣の刑事コンビに
これも前作で知り合ったドミニク刑事から捜査依頼が入る。
「テニエル教授を探ってほしい」と。

依頼のままにテニエル教授と面談し、ついでに
クリーブランド牧師とも会った二人だが
その翌日、テニエル教授が殺害されていることが判明する。

現場は教授の別宅の裏庭に建てられた温室の中。
遺伝子操作で作り出した青バラの咲き誇る中に、
教授の ”首だけ” が転がっていたのだ。

発見当時、温室の扉、窓、天窓などはすべて内側から施錠されていた。
しかも、窓を含めて温室の内側全面にバラの蔓が張っており、
蔓を傷つけずに出入りすることは困難と思われた。
そして、出入り口の扉には文字が殴り書きされていた。

 【Sample-72 Is Watching You】「実験体72号がお前を見ている」

そして温室の中には、教授の首以外に人間が一人いた。
教授の研究室の学生アイリーン。飛び級で大学に入学した少女だ。
しかし彼女は手足を拘束された上に目隠しと猿ぐつわをされていた。

前作『ジェリーフィッシュー』と同様に、
物語は2つの視点から語られる。
マリアと漣のパートと並行して、一人の少年の手記が綴られていく。


両親のDVから逃れて、家を飛び出してきた少年を保護したのは
遺伝子研究を行うテニエル博士の一家だった。

テニエル博士は、なぜか少年の事情を詮索しようとはせず、
彼に「エリック」という新しい名を与えて
妻のケイト、そして娘のアイリスとともに暮らすことになる、

「エリック」は博士の助手として、そして
アイリスの勉強仲間としての同居生活を始めるのだが
安息な日々は長くは続かない。
ある夜、一家を悲劇が襲う・・・


メインのトリックはもちろん温室の密室に関するものだが
これは単に密室をひとつ作るだけにとどまらず、
他のトリックとも密接に絡み合っている。
こういうのは珍しいんじゃないかな。
詳しく書くとネタバレになってしまうのだが、
実によく考え抜かれたものになっている。

マリアと漣のパートは典型的なミステリ的に描かれ、
エリックのパートは時にホラー調になる。
特にテニエル博士の家の地下室に
”あるもの” を発見するくだりを読んでると
テニエル博士が途方もないマッド・サイエンティストにも思えてくる。

もちろんミステリであるから、この二つは最終的に一つになって
真相につながるのだけど、このあたりも予想外の展開。
さらにラスト近くにはもう一つ大ネタが潜ませてあって、もう脱帽。

ミステリとしての出来も素晴らしいのだけど、
最終的にすべての謎が明らかになったときに
ひとつのラブ・ストーリーが浮かび上がってくる。

このあたりを読んでいたら目が潤んでしまったよ。
ストーリー・テラーとしても達者なところを見せてくれる。

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