SSブログ

鹿乃江さんの左手 [読書・ファンタジー]


([あ]8-1)鹿乃江さんの左手 (ポプラ文庫 日本文学)

([あ]8-1)鹿乃江さんの左手 (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者: 青谷真未
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2013/10/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第2回ポプラ社小説新人賞・特別賞受賞作。

舞台は私立の女子高校、代島(だいしま)女子学園。

そこでは生徒の間に、ある噂が代々語り継がれてきた。すなわち
「この学校には魔女が棲んでいて、
 どんな願いでも一つだけ叶えてくれる」のだと。

3つの短編のオムニバス形式で、
それぞれの主人公が ”魔女と関わった顛末” を描いていく。

「からくさ萌ゆる」
主人公の ”私” は代島女子学園に入学するが、
入学式終了後早々からクラスの雰囲気に馴染めず、
教室を抜け出して図書室に逃げ込む。
そこの窓から ”私” は一人の女生徒を見かける。
不思議な雰囲気の彼女を見つめているうちに ”私” は直感する。
彼女こそが「魔女」だと。
学校生活が始まると、”私” は昼休みを図書室で過ごすようになる。
イラストが趣味の ”私” は、ある日クラスメイトの
中園鹿乃江(なかぞの・かのえ)の左手を描いていた。
そこへ現れた”魔女”が、 ”私” に語りかける。
「魔女は、この学校の生徒ののぞみを、なんでも一つ叶えてあげるんだ」
やがて、”私” の前に、不可思議な光景が現れるようになっていく・・・

「闇に散る」
主人公の陽奈子(ひなこ)は、クラシックバレエを習っていたが
高校1年の時に辞めてしまっていた。
ところが2年生の文化祭で、クラスの出し物が
「バレエ・白鳥の湖」に決まってしまう。
素人に踊れるわけがないと反発する陽奈子だったが、
クラスメイトの真矢の熱意に負け、彼女の踊りのコーチ役となる。
かつて空手を習っていたという真矢は、意外にも飲み込みが早く
陽奈子の予想をこえて上達していく。このままいけば、
かつての陽奈子を超えるのではないかと思われるほどに・・・
そんな真矢の姿を見て、陽奈子は穏やかならざる思いを
抱くようになるのだが・・・

「薄墨桜」
代島女子学園の養護教諭・ハルカは、学園の卒業生でもあった。
30歳を迎えた今も独身で、変化のない生活に焦りを覚えてもいる。
卒業式も近づいたあるとき、3年生の冴木(さえき)から相談を受ける。
なんと彼女はハルカのことが「好き」なのだという。
冴木の言葉から、高校時代の同級生に
好意を抱いていたことを思い出すハルカ。
冴木の行動に戸惑うハルカの前に ”魔女” が現れる・・・


作者は本書がデビュー作のはずなのだが、驚くほどよくできてる。

「からくさー」と「薄墨ー」では、後半に不可解な現象が現れる。
まあファンタジーだからそうだよね、と思って読んでいたのだが
意外にもその現象の九割方は、終盤で合理的に説明されてしまう。
つまり、ミステリとしても読めるのだ。

特に「闇に-」などはあちこちに伏線も張ってあり、そのまま
”日常の謎系” ミステリとして読んでも違和感は少ないだろう。
しかも終盤にかけての陽奈子と真矢の間のサスペンスの盛り上がりは
半端ではなく、我を忘れてページを繰ってしまった。

唯一、”魔女” の存在だけは合理的な解釈は示されず、
最後まで ”神秘のベール” に包まれている(笑)ので
「ファンタジー」に分類したけれど、
上記のように、ミステリもサスペンスも達者にこなせる力量は
やはり新人離れしているだろう。

この作家さん、ちょっと追っかけてみようと思う。

nice!(3)  コメント(3)