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京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 [読書・ミステリ]


京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 (角川文庫)

京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道 (角川文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/08/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公・遠近倫人(とおちか・りんと)は一浪して京都大学法学部へ合格、
”加茂川乱歩” というサークルに入った。

そこで理学部一回生の青河幸(あおか・さち)に一目惚れした倫人は
中学高校時代の同級生で工学部二回生の東横進(とうよこ・すすむ)の
いささか強引な ”サポート”(余計なお世話?)のもと、
彼女との距離を縮めようと奮闘するものの、
半年が過ぎても友人関係以上の仲には進展しないでいた。

今回は倫人と幸に加え、経済学部一回生・灰原花連(はいばら・かれん)の
3人の日常が描かれていく。

そんな彼ら彼女らの周囲で起こる不思議な出来事を巡る
”日常の謎” 系ミステリの連作短編集。

前巻では、京都大学の構内ある謎の店「三号館」の美貌の女性マスターが
謎解きのヒントを与えてくれたのだが、今回「三号館」は
大学の内外にかかわらず、神出鬼没であちこちに現れる。

「たまにはセドリー・オン・ザ・ロックスを」
サークル ”加茂川乱歩” の名簿を外部に漏洩した者がいるらしい。
副会長の東横は、リストアップした容疑者たちを
古本市のアルバイトとして送り込み、人間性を見極めようとする。
さらに法学部二回生の瓶賀(みかが)から、幻の古書探しも依頼される。
容疑者たちと古本市に潜り込んだ倫人と幸だが、
二人の前に不審な事態が発生した・・・

「見えないブルー」
サークルの飲み会でしたたかに酔った倫人だが、
目覚めた翌朝から幸と連絡が取れなくなってしまう。
電話も出ないしメールの返信もない。
幸と同じマンションに住んでいる花連と共に彼女の部屋に向かうが
なぜかドアに鍵はかかっておらず、室内には一面にブルーシートが・・・
ラストで明かされる真相よりも、幸自身の打ち明け話の方が衝撃的。

「撫子はもう好きじゃない」
代替わりでサークルの渉外担当となった倫人は、
学園祭で割り当てられた部屋の場所について不服を言い立てるために
事務局へ向かったが、少々早く着きすぎてしまう。
たまたまそこ居合わせた二回生・丹沢とポーカーをして
時間つぶしをすることにしたが、いつの間にか事務局との
約束の時間を過ぎてしまい、倫人の申し出は受理されなくなってしまう。
倫人自身の体感時間は15分ほどなのに、
実際には1時間半以上も経っていたのだ・・・
これはトリック自体は簡単に見当が付くのだけど、
実行するのはけっこう無理がありそうな気もするなぁ。

「五分だけでも待って」
学園祭最終日。次期副会長に内定している幸は、
構内に泊まり込んで会誌の売上金を管理していたが、
彼女が眠った隙に6万円あまりの現金が消えてしまう。
しかも彼女のいた部屋の前には巨大なウォーターマットが置かれて
扉の開閉ができない状態になっていた・・・
本書でいちばんミステリらしい作品。
犯人が密室を構成した理由がかなりユニーク。

「銀叡電の夜」
幸が小学生の頃、家族で京都へ旅行に来た。そして泊まった宿の窓から、
彼女は列車が夜空に消えていくところを見たという・・・
倫人と幸のラブ・ストーリーとしての完結編。
ミステリとしてはのっけからネタバレしてます(笑)。
まあこれも作者の計算のうちですね。
ちなみにタイトルは単なるダジャレで、「銀○伝」とは全く無関係(笑)。

前巻の冒頭あたりでは、悪く言えば優柔不断で意気地が無い、
よく言えば人畜無害な坊ちゃんに見えた倫人だが
本書ではかなり意外な面を見せていく。

けっこうえげつない言動をしたり、悪巧みをした仲間に圧力をかけたり
大事なもののためには思い切った行動をとる実行力を示したり。
これは大学に入って身につけた部分もあるのだろうが
彼の本性がだんだん表れてきたということだろう。

最終話で、倫人は「三号館」のマスターの力を借りずに
事態の解決に臨む。本書は彼と幸の成長の物語でもある。

人付き合いを深めていくというのは、
相手に対して自分をさらけ出していくことでもある。
倫人と幸も、お互いに自分の本音を晒し、
やっと一歩先へ進めるようになって本書は終わる。

灰原花連も本書になって倫人との距離が急速に縮まってくる。
孤高の存在で高嶺の花かとも見える彼女もまた、
ホントのところでは気さくで面倒見のいい女の子で
ある意味、幸以上に魅力的な存在として描かれる。
倫人がその気になれば、案外簡単に「いい仲」になれそうにも(笑)。

なかなか扱いが難しそうで、つきあいだしたら面倒くさそうな(笑)
幸さんよりも、花連とつきあった方が
楽しい人生が送れそうな気もするんだが
そこで幸さんを選んでしまうのが倫人なのだろうね。

カップルの数だけ幸せの形はあるのだろうから。

その気になればまだまだ続けられそうだけど
倫人と幸さんの仲にも決着がついて、物語としても一区切りくので、
たぶんこの巻で完結じゃないかな。

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