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フリーター、家を買う [読書・その他]

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/08/02
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

就職した会社の新人研修に嫌気がさし、
3ヶ月で辞めてしまった誠司。
以来1年近くフリーター暮らしを続けていた。

当然、父の誠一とは大喧嘩の日々。
好きなマンガとゲームとPCに囲まれてのうのうと過ごす誠司は、
夫と息子の間でオロオロするばかりだった母が
少しずつ精神に変調を来していったことに気づかずにいた。

名古屋の医師に嫁いでいた姉・亜矢子が里帰りし、
彼女の口から母親の現状を聞いた誠司は驚愕する。

冒頭40~50ページにかけて描かれる、亜矢子と誠一の対決が
まず序盤最大のクライマックスだろう。
自分の都合だけを考え、誠意の欠片もない誠一に対して
亜矢子がぶつける言葉の数々が途轍もなく重い。
20年以上にもわたって絶え間ないストレスに晒されてきた寿美子は
誠司のフリーター化をきっかけに心の平衡が崩れ、
すっかり "壊れて" しまっていたのだ。

 このあたり、読んでいて正直つらい。
 有川浩作品には珍しく、重苦しいシーンが続く。
 しかしこれも、中盤以降の展開への、必要な "タメ" だ。

寿美子のストレスの原因の多くを占めているのが
いま住んでいる家(というか近所の人々の目)だった。
誠司は、なるべく早く引っ越しをすることを決意する。

物語は、ここから大きく動き始める。
土木会社でバイトをしながら、本気になって就職活動を始める誠司。
様々な人と出会い、それによって少しずつ彼は変わっていく。

 土木会社で働くおっさんたちもいい味出してるが、
 何と言ってもバイト先での上司である作業長がいい。
 誠司の性格や思考を見抜き、的確なアドバイスを与えて導いていく。
 「頼れる大人」であり「若者を育てる上司」の見本のような人物だ。
 いつもながら、有川浩の描くおっさんはカッコいい。
 実際には、こんな人物はそうそういないだろうが・・・

気ままなフリーターだった青年が、
真剣に仕事と人生に向き合い、成長していく。

息子の成長を目の当たりにして、
妻の病から逃避しようとしていた誠一もまた少しずつ変わっていく。
一度は壊れてしまった "家族" の、再生への歩みが始まる。


序盤のダメ人間から、中盤以降で正社員になってからは
打って変わったように "できる男" に変身してしまう誠司は
いささかご愛敬で、ご都合主義的な感じもしなくはないが
エンターテインメントのさじ加減としては正解だろう。

終盤にはロマンスの花まで咲いてしまうとか
もう大盤振る舞いのサービス満点ぶりで、
序盤の暗雲が嘘のように楽しく読み進められる。

「すべて解決、めでたしめでたし」となるわけではないが
希望に溢れるエンディングで読後感は爽快だ。


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