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夜の底は柔らかな幻 上下 [読書・SF]

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫




夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★

舞台となるのは、パラレルワールドの日本。

サイコキネシスなどのいわゆる「超能力」を持つ者が
一般市民の中に多数存在する世界。
彼らは "在色者" と呼ばれ、"能力" を使った犯罪もまた多発している。

私たちの世界で高知県に当たる地域は、
<途鎖(とさ)国>という治外法権区域となっており、
日本の国家権力の及ばぬ "独立国" として入国が厳しく制限されている。

<途鎖国>に生まれ育ち、自らも在色者であるヒロイン・有元美邦は
身分を隠し、14年ぶりに故郷へ潜入する。

彼女の目的は、今はテロリストと化したかつての夫・神山を殺すこと。
しかし入国早々、彼女の前に立ちふさがったのは隻眼の男・葛城。
入国管理局次長である彼もまた、美邦とは因縁浅からぬ過去があった。

入国後の美邦の前には、一癖も二癖もある人物が次々と登場する。
美邦にとって在色者としての恩師だった屋島風塵、
彼女の親友だった医師・須藤みつき、
<途鎖国>の刑事・善法(ぜんぽう)、
ヨーロッパ帰りの殺人狂・青柳、
そして正体不明の謎の男・黒塚・・・

彼らもまた、それぞれの思惑を持って
<途鎖国>の山奥に潜む神山の元へと向かっていくのだが・・・


在色者同士が、"能力" を使って戦うシーンはけっこうハードで
往年の少年マンガを彷彿とさせる。
並行して、登場人物たちの過去のつながりや
抱えた事情も次第に明らかになっていき、
そのへんはさすがに恩田陸らしくうまく興味をつないで読ませる。

実際、下巻の途中までは私の評価は「星3つ半」あるいは
終盤の盛り上がりによっては「星4つ」もいくかな、
って思っていたんだけども・・・・

 これから本書を読もう、という方に忠告。
 下巻にある巻末解説(大森望)は読まないでおきましょう。
 読むのならぜひ読了後に・・・
 以下の文章は、解説の内容に触れてます。


「竜頭蛇尾」とまでは言わないが、
途中までの勢いに見合うラストだったかというとかなり微妙。
そう感じてしまう原因のひとつは大森望氏の解説にあったりする(笑)。

下巻の巻末解説で大森望氏が
「(ラストでは)平井和正『幻魔大戦』や大友克洋『童夢』に匹敵する
 一大サイキック・アクションが展開する」
なんて書いてるのは罪だと思うよ。
こんな風に煽られたら、いやでも期待してしまうじゃないか。

で、その結果は・・・いかに恩田陸が小説巧者でも
『幻魔大戦』を向こうに回しては分が悪すぎるよねえ・・・


ラストで明らかになるSFとしてのネタも、
そんなにびっくりするほどのことでもないように思う。
むしろ伝奇SFとしてはよくあるパターンではないかなあ。

それを「驚天動地のどんでん返し」なんて書くのは
もう贔屓の引き倒しじゃないかなあ・・・


 解説を書く人は作品を褒めなければならないんだろうけど・・・
 舞台が大森氏の故郷でもある高知なんで
 よっぽど嬉しかったんだろうなあ、というのは読んでてわかるが(笑)。


解説のことばかりあげつらってしまったけど、
私がいちばん不満なのは、クライマックスでの美邦の行動。
何を考えてああなったのか・・・少なくとも私には理解できない。

 ただ単に私のアタマが悪いだけかも知れんが。

続編を書く予定でもあるのかな・・・とも思ったけど
それにしたって、とりあえず文庫で上下巻、
合計で800ページ近い大長編なんだから、
それにふさわしい幕切れであってほしかったなあ・・・

というわけで、下巻の途中までは
「星3つ半」か「星4つ」かも、って思ってたんだけど、
終盤の息切れで「星3つ」になっちゃいました。

なんだか文句ばっかり書いてしまったけど、
下巻の途中まではホント面白かったんだよ。


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