SSブログ

黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 [読書・ミステリ]

黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★

番外編を合わせると20巻を超えるこのシリーズ、
正編だけでも長編15作になるのだが、本作はその14作目。
いわゆる "ラス前" になるのだけど、物語の時系列では
おそらく一番最初のエピソードになるだろう。


前作『一角獣の繭』のラストで謎の失踪を遂げた京介。
残された蒼と深春は、その原因が彼の過去にあると睨む。
二人に問い詰められて神代教授が語り出したのは、
22年前に遡る京介との出会いだった。

1980年、養父・清顕の死に落ち込んでいた神代のもとへ
養父の知り合いと名乗る男・門野貴邦が現れる。
彼に誘われるままに旅立った二人は、訪れた北の町で
埋蔵金探しを生業にしていると語る男・猿橋と出会う。

その夜、彼らが宿泊したホテルで猿橋が殺されるが、
なぜか住民たちは警察に通報せず、門野は姿を消してしまい、
殺人容疑が神代にかけられる。

彼を匿ったのは、土地の者が「お館さま」と呼ぶ久遠(くどお)家。
ロシアの血を引くと伝えられる彼らは、かつて鉱山町として栄えた
この町への大きな影響力を未だ保っていた。

神代はここで10歳の少年・久遠アレクセイと出会う。
そして彼が、父であるグレゴリとの間に底知れぬ確執を抱えていること、
3年前に母・ソフィアが謎の死を遂げたことを知る・・・


ここで登場したアレクセイこそ、後の桜井京介。
いままでも、京介の過去になんらかの事情があるのは
シリーズ作品のあちこちで触れられてきたが、
今作はそのあたりを一気に明かしてきた。
まさに京介自身が事件の "主役" になっているのだから。
そして、前作に登場した謎の女性『陶孔雀』の正体も。

本作のラストで神代はアレクセイを引き取る決心をする。
しかし、実際に彼が久遠家を出て "桜井京介" を名乗るまでの経緯や
父・グレゴリや『陶孔雀』との決着については
まとめて次の最終巻で語られるのだろう。

いちおうミステリ作品だし、犯人あて要素も充分あるんだけど
ここまでシリーズを読んできた身としては、殺人事件の解決より
アレクセイ(京介)を巡る物語の方に関心が集まってしまうのは
仕方ないよねえ。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官 [読書・ミステリ]

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/08/12
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

死体に湧く虫の種類と成長度合いなどから
死後経過や現場環境を割り出す、
法医昆虫学者・赤堀亮子の登場するシリーズ、第2作。

東京・葛西のトランクルームから発見された女性の遺体は
全裸の上、夏の高温で腐敗が進み、身元の特定は困難を極めた。

現場には蠅とウジが大量発生しており、
捜査本部は赤堀亮子に調査を依頼する。

昆虫を前にすると我を忘れて欣喜雀躍してしまうという
亮子のキャラはそのままに、
推定された死亡時期の誤りを指摘したり
現場で発見された植物の種子や昆虫の死体から
実際の犯行現場を割り出したりと、
序盤からめざましい活躍を見せる。

前作にも登場した刑事・岩楯が今回も亮子とタッグを組み、
いささか変わった新人刑事・月縞に手を焼きながらも
地道な捜査に取り組む。

捜査のパートと並行して、
福島の山村に暮らす青年・藪木の物語が進行する。
旧家に暮らす娘・瑞希と幻想的な出会いをした藪木は
次第に彼女に惹かれていくが・・・


前作もそうだったが、本シリーズは「犯人あてミステリ」ではない。
「遺体を取り巻く状況から、犯人にたどり着くまで」の
経過をこそ楽しむ作品だろう。

中盤に至って、亮子&岩楯の捜査は遺体の身元にたどり着き、
被害者の "職業"、そして犯人の "動機" が明らかになる。
このあたりが本作最大の読みどころだろう。

どちらも意外極まるもので、
序盤の状況からこの展開になると想像できる人はまずいないと思う。

そして、捜査のパートと藪木のパートは終盤で合流し、
サスペンスたっぷりのクライマックスを迎える。
冒頭からラストまで興味をつないでいく手腕はさすが。
最終章に入るとページをめくる手が止まらなくなる。

前作では、岩楯と亮子の間に
淡い恋愛感情っぽいものが芽生えた描写があったが
今回はほとんど進展ナシ。
まあ、岩楯には仲が冷え切ったとはいえ、いちおう妻がいるから
そっちのほうの決着をつけないとねえ。

それより今回は、岩楯と亮子の "薫陶" (笑)をうけた
月縞くんの顕著な "成長ぶり" にも注目ですね。


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

怨讐星域 全3巻 [読書・SF]

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫




怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫




怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

近い将来、太陽フレアが膨張し、
地球に住む人類が滅亡することが判明した。

合衆国大統領・アジソンと、巨大財閥グループの指導者たちは
密かに巨大宇宙船『ノアズ・アーク』を建造し、
選ばれた3万人の人々と共に地球を脱出した。

彼らは船内で世代交代をしながら新天地を目指す。
目的地は172光年彼方の恒星系にある地球型惑星・エデン。

一方、滅亡の地に残された人々は、
アジソンと『ノアズ・アーク』を呪うしかなかった。

しかし、皮肉にもアジソンの娘・ナタリーの恋人だった学生イアンは
物質を空間転移させる技術の開発に成功し、
人々はそれを用いての決死の脱出に運命をかける。
転移先の座標もまた、惑星・エデンだった。

総人口の7割近い者が空間転移で地球を去ったが、
転移に成功した者はごくわずかだった。
その一握りの生存者たちにも次々と苦難が降りかかる。

技術レベルは狩猟生活時代にまで退行し、
凶暴な土着生物の襲来に脅えて暮らす日々。

彼らを支えたのは、自分たちを見捨てた者への怒り。
『ノアズ・アークに報復を!』
数百年後に現れるであろう "裏切り者" たちへの復讐を誓い、
子々孫々に渡り、彼らの "暴挙" を語り伝えていく・・・


物語は、二つに別れた人類の歴史を、連作短編の形式で描いていく。
地球で、宇宙空間で、そして惑星エデンで繰り広げられる
様々なドラマが全31編、文庫で総計1200ページに収められている。
雑誌・SFマガジンに、年に3~4作ずつ、
10年にわたって掲載された大作SFだ。

いくつか紹介してみよう。

いちばん気に入ったのはこれ。

「ハッピーエンド」
 看護師の妙(たえ)は、入院患者の世話をやめる決心がつかず、
 地球に残留することを選んだ。
 人口の激減した故郷で働いていたある日、
 妙は高校時代に憧れていた先輩・謙治に出会う。
 彼もまた地球に残っていたのだ。
 残留した人々がつくったコミュニティの中で、
 妙と謙治は様々な人間模様に出会い、
 やがて二人はある "決意" をする。
 純情なラブ・ストーリーなんだけど、
 二人の将来に待つ運命を考えると、切なさも極まってくる。

他にも印象的な話はたくさんある。短編の名手らしく、
それぞれ趣向を凝らした作品が揃っているけど、3つだけ挙げるなら

「閉塞の時代」は、『ノアズ・アーク』内に昆虫が存在しないこと
(昆虫を積み込む余裕も必要性もなかったため)
がテーマのユーモア溢れるドタバタ劇。

「減速の蹉跌」は、『ノアズ・アーク』が旅程の中間点にさしかかり、
加速から減速へ転じるエピソード。これもなかなか感動的。

「76分間の少女」は、
地球からエデンに向かって空間転移したはずの少女が、
なぜか『ノアズ・アーク』内に現れてしまう話。これも泣ける。


終盤では、いよいよ二つの人類の "接触" が描かれる。

『ノアズ・アーク』では世代が進み、次第にエデンが近づいてくる。
船内では上陸用シャトルの建造が始まっていた。

一方エデンでは、20世紀末くらいのレベルまで科学技術が復興、
人々は安定な生活を手に入れていた。

しかし、「『ノアズ・アーク』への報復」を掲げる
狂信的な指導者・アンデルスが首長に就き、
市民の皆兵化と軍拡が進められていた。

そしていよいよエデンの衛星軌道上に
『ノアズ・アーク』が到着した時、
彼らに巨大な "災厄" が降りかかってくる・・・


この壮大で長大な物語をどう締めくくるか。
かつての地球上のように、二つの勢力は "戦い" を選ぶのか、
それとも・・・・・

読みながらいろいろ考えた。

いちばんすんなりと丸く収めるには、
『ノアズ・アーク』とエデンの人々が
協力しないと乗り越えられないような "困難" を
設定することだろうなー、なんて思ったてんだが・・・

梶尾真治が選んだのは、
"現実的" で "オーソドックス" な結末。
SF小説で "現実的" というのも変だが、納得できる収め方ではある。

派手なスペクタクルを期待した人には
ちょっと物足りないかも知れないが
(私も最初そう思ったけど)
読み終わって少し時間が経ってみたら、
これがいちばんよい結末に思えてきたよ。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ: