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怨讐星域 全3巻 [読書・SF]

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域Ⅰ ノアズ・アーク (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫




怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

怨讐星域Ⅱ ニューエデン (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫




怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

怨讐星域Ⅲ 約束の地 (ハヤカワ文庫 JA カ 2-16)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/05/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

近い将来、太陽フレアが膨張し、
地球に住む人類が滅亡することが判明した。

合衆国大統領・アジソンと、巨大財閥グループの指導者たちは
密かに巨大宇宙船『ノアズ・アーク』を建造し、
選ばれた3万人の人々と共に地球を脱出した。

彼らは船内で世代交代をしながら新天地を目指す。
目的地は172光年彼方の恒星系にある地球型惑星・エデン。

一方、滅亡の地に残された人々は、
アジソンと『ノアズ・アーク』を呪うしかなかった。

しかし、皮肉にもアジソンの娘・ナタリーの恋人だった学生イアンは
物質を空間転移させる技術の開発に成功し、
人々はそれを用いての決死の脱出に運命をかける。
転移先の座標もまた、惑星・エデンだった。

総人口の7割近い者が空間転移で地球を去ったが、
転移に成功した者はごくわずかだった。
その一握りの生存者たちにも次々と苦難が降りかかる。

技術レベルは狩猟生活時代にまで退行し、
凶暴な土着生物の襲来に脅えて暮らす日々。

彼らを支えたのは、自分たちを見捨てた者への怒り。
『ノアズ・アークに報復を!』
数百年後に現れるであろう "裏切り者" たちへの復讐を誓い、
子々孫々に渡り、彼らの "暴挙" を語り伝えていく・・・


物語は、二つに別れた人類の歴史を、連作短編の形式で描いていく。
地球で、宇宙空間で、そして惑星エデンで繰り広げられる
様々なドラマが全31編、文庫で総計1200ページに収められている。
雑誌・SFマガジンに、年に3~4作ずつ、
10年にわたって掲載された大作SFだ。

いくつか紹介してみよう。

いちばん気に入ったのはこれ。

「ハッピーエンド」
 看護師の妙(たえ)は、入院患者の世話をやめる決心がつかず、
 地球に残留することを選んだ。
 人口の激減した故郷で働いていたある日、
 妙は高校時代に憧れていた先輩・謙治に出会う。
 彼もまた地球に残っていたのだ。
 残留した人々がつくったコミュニティの中で、
 妙と謙治は様々な人間模様に出会い、
 やがて二人はある "決意" をする。
 純情なラブ・ストーリーなんだけど、
 二人の将来に待つ運命を考えると、切なさも極まってくる。

他にも印象的な話はたくさんある。短編の名手らしく、
それぞれ趣向を凝らした作品が揃っているけど、3つだけ挙げるなら

「閉塞の時代」は、『ノアズ・アーク』内に昆虫が存在しないこと
(昆虫を積み込む余裕も必要性もなかったため)
がテーマのユーモア溢れるドタバタ劇。

「減速の蹉跌」は、『ノアズ・アーク』が旅程の中間点にさしかかり、
加速から減速へ転じるエピソード。これもなかなか感動的。

「76分間の少女」は、
地球からエデンに向かって空間転移したはずの少女が、
なぜか『ノアズ・アーク』内に現れてしまう話。これも泣ける。


終盤では、いよいよ二つの人類の "接触" が描かれる。

『ノアズ・アーク』では世代が進み、次第にエデンが近づいてくる。
船内では上陸用シャトルの建造が始まっていた。

一方エデンでは、20世紀末くらいのレベルまで科学技術が復興、
人々は安定な生活を手に入れていた。

しかし、「『ノアズ・アーク』への報復」を掲げる
狂信的な指導者・アンデルスが首長に就き、
市民の皆兵化と軍拡が進められていた。

そしていよいよエデンの衛星軌道上に
『ノアズ・アーク』が到着した時、
彼らに巨大な "災厄" が降りかかってくる・・・


この壮大で長大な物語をどう締めくくるか。
かつての地球上のように、二つの勢力は "戦い" を選ぶのか、
それとも・・・・・

読みながらいろいろ考えた。

いちばんすんなりと丸く収めるには、
『ノアズ・アーク』とエデンの人々が
協力しないと乗り越えられないような "困難" を
設定することだろうなー、なんて思ったてんだが・・・

梶尾真治が選んだのは、
"現実的" で "オーソドックス" な結末。
SF小説で "現実的" というのも変だが、納得できる収め方ではある。

派手なスペクタクルを期待した人には
ちょっと物足りないかも知れないが
(私も最初そう思ったけど)
読み終わって少し時間が経ってみたら、
これがいちばんよい結末に思えてきたよ。


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