怪盗ニック全仕事2 [読書・ミステリ]
評価:★★★
短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。
そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第2弾で、1972~77年にかけて発表された15編を収録。
ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。
彼が盗むのは貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。
本書でも映画の没フィルム、古いサーカスのポスター、
アパートのダスターシュートに投げ込まれたゴミなど
およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。
しかも今回の作品集には
「何も盗まないように頼まれる話」とか
「ニック自身が盗まれてしまう話」とか、
"変化球" ものも含まれている。
一見して価値がないように見えても、
依頼人は少なくない額の報酬を払っている。
ニックの要求する額は、通常で2万ドル。危険なものは3万ドル。
70年代の為替相場がどうなってたか記憶にないのだが
長い間続いた1ドル=360円の固定相場が終わり、
(今ちょっとネットで検索したら)
70年代半ばは1ドル=250円前後だったらしい。
ということは日本円にして500万~750万も払ってるわけで、
「それだけの金を払っても手に入れたい」理由が
ストーリーの根幹になる。
もちろん、盗み出す方法そのものが
メインのアイデアになっている作品も多いけどね。
一作当たりの長さが文庫で30ページ前後と、
短編にしても短めなので、アイデアとオチの切れ味で勝負。
面白いんだけど、この手のものばかりだとやっぱり飽きるかなあ。
まあ、年に1冊というペースは正解だと思う。
ちょっとwikiで見てみたら、作者は
生涯で短編ミステリを900編くらい書いてるらしい。
アイデアを900も考えるなんて気が遠くなりそうである。
いやー、スゴい人っているもんなんだねぇ。