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犬神館の殺人 [読書・ミステリ]

犬神館の殺人 (新潮文庫nex)

犬神館の殺人 (新潮文庫nex)

  • 作者: 渉, 月原
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/09/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

時代は明治。
舞台は ”犬神憑き” と忌み嫌われている氷室家。

その当主・氷室貴峰(たかみね)は、『人の会』なる怪しげな新興宗教に
傾倒し、”犬神館” と呼ばれる屋敷を建てた。

その中央にある ”儀式の間” は周囲を二重の回廊で囲まれ、
中へ入るには3つの扉を経なければならない。

しかもその3つの扉には特殊な ”錠” が付けられていた。
各扉には棺のような木箱が設置されており、中に人が横たわる。
引き戸になっている扉を開けると、扉は木箱の中へ収納されるのだが
その先端は鋭い刃になっていて、中に入っている者の首を切り落とす。
そんな ”ギロチン付きの扉” の木箱に入り、
”命を使った錠前” となるのは、貴峰をはじめとする
『人の会』に心酔している信者たちだ。

なんとも凄まじい設定だが、驚くのはまだ早い。

物語は、その三重密室の中、儀式の間で
死体が発見されるところから始まる。
遺体は背中から短剣で刺され、しかも
直立したまま全身が氷づけになっていた。

これもかなり異様な状況であるが、さらなる驚きがある。

発見者は、氷室家の遠縁にあたる芹沢家の令嬢・妃夜子(ひよこ)と
彼女付きのメイド・栗花落静(つゆり・しずか)。

そしてシズカさんは語る。
3年前、彼女が仕えていた東北の旧家・雪島家でも
これとそっくりの事件が起こっていたことを。
そして、事件の真相は明らかになったが、
犯人は司直の手に落ちることはなかったことも・・・

ロシアの血を引く(と覚しき)クールビューティ・シズカさんが活躍する
『使用人探偵シズカ』シリーズ、第3作。
ときおりロシア語で悪態をつくところも健在。
言われた相手は、何を言われたのか分からないのが小気味いい。

奇数章では ”現在進行中” の氷室家の事件が語られ、
偶数章では3年前の雪島家の事件が語られていく、

もちろんこの2つは終盤で一つにつながる。
同じ設定の密室を用意しながら、
それぞれ異なる解決を用意しているのは、スゴいとしか言い様がない。

その気になれば、長編2本とは言わないものの
かなりの大部になりそうな密度の濃い話を
文庫で260ページほどの中に収めてしまうのも、またたいしたもの。

全編にわたって陰鬱な雰囲気が覆っているが、
ラストに一片の希望が語られることが ”救い” をもたらし、
悲痛な読後感を和らげている。

100年前が舞台とはいえ、虚構性が高い、
というか、全編にわたって幻想的な雰囲気も漂うような作品。

とは言っても、こういう虚構の塊みたいな
本格ミステリも大好きなので、私はとても楽しませてもらいました。


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