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銀幕ミステリー倶楽部 [読書・ミステリ]

銀幕ミステリー倶楽部 (光文社文庫)

銀幕ミステリー倶楽部 (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

6月に入り、映画の記事ばかり上げていた。
なぜかというと、コロナの影響で軒並み公開延期になっていた作品群が
この時期になって一気に劇場にかかり始めたものだから・・・

もともと映画は好きで、独身の頃は
最低でも月に1本は映画を観ようと思っていた。

20代の頃はだいたい実行できていたのだけど
30代に入ってからは公私ともに猛烈に忙しくなってきて
それどころではなくなってしまった。

でも50代を迎えたあたりから、かなり余裕ができてきて
セミリタイアしてからのここ2年ほどは、さらにヒマになり(笑)
けっこう映画館に足を運ぶことができていたのだが・・・
コロナのバカヤロウめ!

というわけで、6月は映画三昧の日々を過ごしていたのだけど、
ペースは落ちたものの本も読んでいたのだよ。

去年だったか一昨年だったか、読了した本が30冊くらい
溜まってしまって、いざ記事に書こうとしたら
初めの頃に読んだ本の内容を忘れていた、なんてこともあった。

 実は現在も、読了済の本が10冊ちょっと溜まっている(おいおい)。

そうならないうちに読書録の再開をしよう、というわけなのだけど
その1冊目が映画ミステリ、ってのは単なる偶然です(笑)。

本のタイトル通り「映画」をテーマにしたミステリのアンソロジー、
なんだけど、ミステリありファンタジーありサスペンスありホラーあり。
良く言えばバラエティに富んでて、意地悪く言えば
純粋なミステリは少なめなアンソロジーになってる。
星の数が少ないのもそれが理由。

「映画の恐怖」江戸川乱歩
ミステリではなく、映画に関するエッセイ。
”スクリーンを観る” という行為ひとつから、
これだけの ”恐怖” のイメージを引き出してくるのは、流石は大乱歩。

「作者返上」江戸川乱歩
「代作ざんげ」横溝正史
乱歩はしばしば、書き上がった作品の出来が気に入らずに、
公表前に処分してしまうことがあったようだ。
しかしそれでは雑誌に穴が開いてしまい、編集者は困ってしまう。
ということで、当時編集者だった横溝正史が3作ほど代作をしたようだ。
そんなことが普通に行われていたのでしょうねえ。
2人の仲の良さもあってのことではあろうけど。
この2つの文章は、そのあたりの経緯を書いたもの。

「あ・てる・てえる・ふぃるむ」横溝正史
上で書いたように、この作品は乱歩名義で発表されたけど実は横溝作。
原題は「A Tell-Tale Film」だったけど、その後改題されたとのこと。
ちなみに tell-tale とは「密告」「告げ口」とかの意味らしい。
前妻と2年前に死別した男・卓蔵の後妻となった折江(おりえ)。
ある日2人で映画『古沼の秘密』を見に行くが、
上映の最中に卓蔵が奇妙な行動を取り始める・・・
真相が明示されるわけではなく、「たぶんこうだったのだろう」と
読者に想像させる幕切れ。これが ”乱歩風” なのかな。
横溝正史が自分名義で書いたのだったら、
また違った決着のさせ方をしたような気が。

「首切り監督」霞流一
映画「アーケードの女」撮影中、監督の湯島は
メイン・キャストの1人を演じる俳優・朝倉の演技が気に入らず、
彼を脇役へ降格してしまう。そしてその翌日、
映画のプロデューサー・桜庭と湯島監督の死体が相次いで発見される。
調布のビジネスホテルの一室にあったのは湯島の首と桜庭の胴体、
そして狛江にある湯島の自宅には、桜庭の首と湯島の胴体が・・・
犯人が首を切断した理由がびっくり。
思わず「えーっ」と叫びそう(叫ばなかったけど)になった。
バカミスと紙一重、いやぁやっぱりバカミスかなぁ・・・

「大喝采」横田順彌
作者はハチャハチャSF(おお、懐かしい響きだ)の元祖にして
日本における古典SF研究の大家。
時代は明治、主人公は日本のSF・冒険小説のパイオニア・押川春浪。
(私には『海底軍艦』の原作者、ってイメージが強いんだが)
彼が出くわす怪事件の数々を描いたシリーズの一編。
今上天皇(明治天皇)がご覧になるために、皇居で上映された
映画にまつわる不思議な出来事が語られる。
でも、ミステリではなくてファンタジーっぽいSFなんだよね。

『「悪魔の手毬唄」殺人事件』小林久三
いわゆる角川映画の金田一耕助シリーズは1976年の『犬神家の一族』に
始まり、翌77年以降、『悪魔の手毬唄』『獄門島』『女王蜂』
『病院坂の首縊りの家』と順次続いていくのだけど、本作の発表は
75年の末あたりなので『悪魔の手毬唄』はまだ製作されてない。
主人公・高島は東洋映画に勤務している。
彼の企画した『悪魔の手毬唄』の映画化が決定するが、
舞台となる ”鬼首(おにこべ)村” のロケ地選びが難航していた。
岩手の蛇果(へびはて)村に住む土光冬子という女性からの手紙が
きっかけで、高島はロケハンに赴くことになる。
その途中で再会した大学時代の友人・村上とともに蛇果村に到着、
高島は村の旧家・土光家に滞在することになる。しかしその翌日の夜、
土光家で催された晩餐会の席上で村上が毒殺される・・・
トリック自体はすぐ分かるのだが、蛇果村を覆う陰鬱な雰囲気といい、
犯人が判明すると同時に起こる悲劇とか、いかにも横溝正史っぽい。
文庫で90ページ近いボリュームだけど、長編で読みたかったかも。

『「ローマの休日」届』赤川次郎
新聞記者・高井が夜の四谷でばったり出会ったのは、
中米にあるP王国の王女・アンナ。
一流ホテルにSPと共に宿泊しているはずだったのだが、
なぜか記憶を失って彷徨っていたらしい。困った高井は、
恋人・さゆりの住むマンションに王女を連れて行くのだが・・・
ミステリというよりはコミカルなサスペンス、というところ。

「りんごの聖戦」山田正紀
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』の試写会が行われた。
その上映中に映画評論家・池田耕一が殺される。喉を矢で射貫かれて。
しかし密室状態の試写室の中で、矢を射たはずの弓が見つからない。
映画雑誌の編集者・君原由利は、試写会に潜り込んでいた
謎の青年・根司卓間(ねず・たくま)とともに事件の謎を追う。
凶器のトリックはよくできてるし、ラスト3行のひねりも効いてる。
さすが山田正紀。

「死都(ポンペイ)の怪人」辰野九紫
本作の初出は1930年(!)なので、時代設定は昭和の初期と思われる。
イタリア滞在中の ”僕” は、ナポリの料理店でムッソリーニと出くわす。
意気投合した2人は映画『死都(ポンペイ)の怪人』を観にいくが。
これ以後は映画の内容が綴られていくのだけど、最後のオチがねぇ・・・
田中啓文が好きな人は気に入るかな(おいおい)。

「ヴィヴィアン・リー失踪事件」荻野アンナ
語り手は、マリリン・モンローの友人である日系人・リン。
1956年6月、アーサー・ミラーと結婚(3度目)をしたマリリンは
ロンドンで新作映画『王子と踊子』の撮影に入る。
共演相手はローレンス・オリヴィエ。撮影開始早々、
マリリンとオリヴィエは険悪な雰囲気になってしまうが、
そんなとき、オリヴィエの妻、ヴィヴィアン・リーが失踪してしまう・・・
これもミステリというよりは、コメディですね。

「完全不在証明(アリバイ)」木々高太郎
34歳になる山川京太郎は、妻・みか子を殺害した。
容疑は、山川宅に下宿している大学生・桂三郎にかけられた。
京太郎自身には、犯行時刻に映画を観ていたというアリバイがあった。
映画はその日が封切りで、会員限定で行われた試写会に
彼が参加していた形跡もない。にもかかわらず、
京太郎はその映画の細部までよく知っており、
犯行時刻に映画館で観ていたとしか思えなかったのだが・・・
この作品も初出は1930年。映画はまだまだ特別な娯楽で、
京太郎が弄するアリバイ工作も、この時代だから成立するのだろう。

「証言」松本清張
石野貞一郎は、西大久保の家に愛人・梅谷千恵子を住まわせていた。
ある日、愛人宅から帰る途中、たまたま石野の自宅の近所に住む
杉山孝三という男に出会ってしまう。しかし2週間後、
石野の元を警察が訪れる。向島で起こった殺人事件の容疑が
杉山にかかっているという。しかし彼は
「犯行時刻に西大久保にいた。
 石野とすれ違ったから彼に確認してほしい」と言っているという。
石野は、愛人の発覚を恐れて杉山の証言を否定してしまうが・・・
ミステリというよりは犯罪を扱った小説、ですね。
石野の偽証が意外なところから崩れるところは、まさに ”因果応報”。

「人面疽」谷崎潤一郎
初出はなんと1918年らしい。アメリカ帰りの女優・歌川百合枝は、
自分が出演している映画が東京の場末の映画館に
出回っているらしいという噂を聞く。
どうやら彼女がロサンゼルスで活動していた頃に撮った作品らしい。
邦題は『執念』、原題は『人間の顔を持った腫物(できもの)』と
いうらしいが、彼女自身にはそんな映画に出演した記憶はない・・・
これもミステリというよりホラーですね。現代の小説と違って
ほとんど改行がなく、段落ごとの文章が長いと読むのに疲れます。


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