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トッカンvs勤労商工会 [読書・その他]

トッカンvs勤労商工会 (ハヤカワ文庫JA)

トッカンvs勤労商工会 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/02/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

京橋中央税務署の新米徴収官・鈴宮深樹(すずみや・みき)。
口下手で言いたいことも言えずにグッと口ごもってしまうことから
ついたあだ名が “ぐー子”。

直属の上司は、“京橋中央署の死神” と恐れられる
特別国税徴収官(略して "トッカン" )の鏡雅愛(かがみ・まさちか)。

“ぐー子” と ”死神“ のコンビが
様々な税金滞納者と対決する、シリーズ第2弾。

日本橋の大衆食堂《からかわ》の主人・唐川成吉(なるよし)が自殺した。
遺体の傍らには遺書らしきメモ書きがあり、そこには
自殺する前日、税務署に行って鏡に会い、
滞納している税金について話をしたが
ものすごい剣幕で怒鳴られた、と記されていた。

成吉の妻・詠子から相談を受けたのは、
“勤労商工会” お抱えの弁護士・吹雪敦(ふぶき・あつし)。
彼は京橋中央署に現れ、鏡と国税局を相手に
公式な謝罪と損害賠償を求めて訴訟を起こすことを宣言する。

 ちょっとネットで調べてみたのだが、
 “勤労商工会” という名称の団体自体は存在しないらしい。
 経済産業大臣の認可のもとに地域ごとに設立される
 “商工会”というものがあるので、それがこのモデルだろう。

 本作中の “勤労商工会” は、税務行政の改革をスローガンに
 デモ活動なども積極的に行う、税務署の “天敵” として描かれている。

成吉の残した日記など、鏡にとって不利な状況にもかかわらず
本人は外回りや出張に明け暮れ、ぐー子と話す機会もない。
彼女の心配は募るばかり・・・


今回から登場する新キャラもまた濃いメンバーがそろっている。

“ナポリ育ちのジョゼ” と自称する
謎の弁護士・本屋敷真事(ほんやしき・まこと)、
唐揚げ作りの修行に明け暮れる
謎のプー太郎・里見輝秋(さとみ・てるあき)、
如何にも胡散臭いこの二人組は、鏡の幼なじみでもあるという。

 もっとも、鏡は栃木県出身なので、
 本屋敷の “ナポリ育ち” はもうそれだけで充分に怪しいのだが

“はるじい” こと、ぐー子の新しい後輩・錦野春路(にしきの・はるじ)は
古美術商の娘で、美術品の鑑定ではかなりの目利き。
錨貴理子(いかり・きりこ)も新しい同僚で、34歳の既婚者。
バリバリ仕事をこなしていくのだが、そこにはある秘密が・・・

そして今回、堂々の悪役を張るのは
「まあそこは、蛇の道は蛇で・・・」が口癖の弁護士・吹雪。
鏡の訴訟をステップに、何やらもう一段上のことを企んでいる様子。
嫌らしい物言いで、次第にぐー子を絡め取っていく・・・


鏡を相手取った訴訟騒ぎを縦軸に、
様々なキャラたちのユニークなエピソードを横軸に展開する
ユーモア・エンターテインメントの傑作だ。


前作では、自らの過去と向き合ったぐー子が
今作では「現在の自分」について悩み出す。

優秀な上司(自分はまだ独り立ちできていない)、
仕事の早い先輩(自慢じゃないが私は仕事が遅い)、
そして “特技” をもつ後輩(私にはそんなもんはない!)に囲まれ、
ぐー子の悪戦苦闘の日々は続く。

自分はこの組織の中でやっていけるのか、いや、自分に居場所はあるのか。
そして、どうやったら居場所を見つけられるのか・・・

訴えられた鏡のことも心配だ。
“残念女子”・ぐー子さんの悩みは尽きない。

時には悩んで逡巡し、時には後先考えずに猪突猛進する。
読者は前作に続き、この愛すべきヒロインにエールを送るだろう。

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