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禁断の魔術 [読書・ミステリ]

禁断の魔術 (文春文庫)

禁断の魔術 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

高校生・古芝(こしば)伸吾が所属する物理研究会は
部員減少で廃部寸前だった。
彼は物理研OBの帝都大准教授・湯川の助力を得て
その危機を乗り切る。

湯川に憧れた伸吾は帝都大学を受験、みごと合格する。
しかし入学直後、親代わりとなってくれていた姉・秋穂(あきほ)が
不審な死を遂げ、伸吾は大学を中退して町工場で働き始める。

一方、フリーライター・長岡が殺される。
現場に残されたメモリーカードには、謎の動画が残っていた。

長岡が追っていた代議士の大賀は、
科学技術研究拠点・スーパーテクノポリスの開発推進者だった。
建設地の地元では反対運動も起こっており、
反対派に与する長岡は大賀のスキャンダルを探していた。

捜査を進める草薙と内海は、
大賀を担当していた新聞記者・古芝秋穂の死を知り
さらにその弟・伸吾が大学を中退していたことをつかむ。
しかしその直後、伸吾は失踪してしまう・・・


本書では、ミステリ要素はやや少なめ。
長岡を殺した犯人も、直接的な証拠で判明するし
伸吾が姉の復讐を企んでいることも中盤あたりには明らかとなり、
後半の興味は、いかに伸吾の凶行を阻止するかになってくる。

『真夏の方程式』でも開発と自然保護の問題が取り上げられていた。
それは引き続がれてはいるものの、
本書ではそれに加えて「科学技術に携わる者の良心」が
より大きなテーマとなっていて、それはタイトルにも現れている。

劇中で湯川は語る。
「悪用しようとするものにとっては、
 科学技術は "禁断の魔術" となる」と。
程度の差はあれ、科学を採り上げた作品では
避けて通れないテーマであり、古くて新しいテーマでもある。

高校時代に湯川から与えられた知識と技術に、さらに改良を施し、
復讐のための "武器" を作りあげていく伸吾。
それに対し、あくまでも彼の中の "良心" を信じる湯川。
二人の対決が本書のクライマックスになる。


どうでもいいことを二つほど。

本作は、最初は短編として発表されたものを加筆して長編化したらしい。
今回のテーマは、ある意味「ガリレオ」という
シリーズを通してのテーマでもあるから、
じっくりと書き込もうと思ったのかも知れない。
それと、本作で伸吾が完成させた "武器" なのだが
フィクションの世界ではけっこうポピュラーなもので
現実世界でも実現しつつある(らしい)もの。
ならば、作者はこれを短編のネタで終わらせるのは
もったいないなぁって思ったのかも知れない、

二つ目。
劇中に登場する女子高生・由里奈ちゃんが健気。
伸吾が働く町工場の社長の娘で、
彼に数学の勉強を教えてもらったことがきっかけで
想いを寄せるようになるという役どころ。
因数分解と加法定理を教えたら女子高生に惚れられてしまうなんて
伸吾くんが羨ましすぎるぞ(笑)。


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