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この世界の片隅に [アニメーション]

このブログで予告した通り、先週、映画を観に行って参りました。
選んだのは「この世界の片隅に」。
かなり話題になっていると聞いて、観てみることにした。

普段通勤に使っている車をディーラーに預け、
そこが駅までちょいと距離があるので徒歩とバスを使い、
さらに上映館がある地までしばしの電車旅。

さすがに平日の昼間なので満員とまではいかないけど、かなりの入り。
全体的には女性客が多い印象。それもグループで。
平均年齢は高めだけど、私の2つ右には女子高生。
考えればもう学期末なので、学生さんは午後はヒマなのだろう。
左にはこれもけっこう若いお兄さんの二人連れ。
私の後ろには、私よりやや年上と見える男性が。

そうこうしているうちに上映開始。
映画の冒頭、OPで主題歌が流れる。
タイトルは「悲しくてやりきれない」。
1968年に、ザ・フォーク・クルセダーズが出した曲のカバーだね。
歌ってるのはコトリンゴさんという人ですが、寡聞にして知りません。

 この曲、高校の頃に先輩がギターを弾いて歌ってたなあ。
 あれがこの曲を聴いた最初だったと記憶している。
 後になってオリジナルの方も聴いたけど
 40年経ってこういうところで聞くとは思わなかった。

悲しくて 悲しくて とてもやりきれない
このやるせないモヤモヤを だれかに告げようか

サビの歌詞も覚えていたよ。

でも、映画本編が始まってしばらくは、
「この歌って、内容に合ってないんじゃないの」
なぁんて思っていたのだが・・・


広島で生まれ育ったヒロインのすずは、
18歳を迎えて縁談が舞い込む。
当時は双方の家が了解すれば、
本人の意向など関係なく婚姻が成立する時代。
すずも求められるままに呉の北條家の長男・周作のもとへ嫁ぐ。

実は周作は幼い頃に一度だけすずに会ったことがあり、
その時に彼女を見初めていた。
(もっとも、すずのほうは覚えていなかったが。)
周作は生真面目かつ朴訥な性格で、すずを愛し続ける。
理不尽に怒ることも、手を上げることもなく
彼女のよき理解者として、終始愛妻家として描かれる。

義父母も優しく慈愛に満ちた好人物。
義姉の径子は鼻っ柱が強く、
夫の死後は婚家と不仲になり離縁して出戻ってくる。
すずには厳しく接するが、悪意のある人物ではない。
径子の幼い娘・晴美はやがてすずに懐くようになる。

書いていて思ったが、この物語には基本的に悪人は登場しない。
出てくるのは皆、市井に生きる庶民ばかりだ。
そんな普通の人々が "戦争" という異常な状況に
次第に染められていく様が綴られる。これはそういう映画だ。


wikiに、この作品の年代表が載っている。
すずは、大正14年生まれという設定なので、昭和と同じ年齢。
昭和18年、18歳のときに縁談が舞い込み、翌19年2月に結婚。
既に太平洋戦争も半ばを越え、敗色が濃厚になってきた頃だろう。
食物が配給になったりと、すずたち庶民の生活にも
次第に戦争の影響が色濃く現れてくる。
しかし、少なくともすずの周辺は明るさが残っている。

その理由の第一は、彼女の性格にあるだろう。
明るく楽天的で、のんびりとした性格。
傍からは少々ボケてるようにも見えるが決して愚鈍ではなく
次第に不自由になっていく生活を、
智恵と機転を働かせて乗り切っていく。
趣味は絵を描くことで、暇をみては手帳に周囲の風景をスケッチする。
作中には彼女の描いた絵が数多く登場する。これがまた上手なのだ。

 すずを演じるのは能年玲奈あらため「のん」さん。
 ややたどたどしい口調で、最初は「大丈夫かこれ」って思ったが
 観ていくうちにこの語り口がすずにぴったりだと思えてくる不思議。
 やっぱり朝ドラ主演は伊達じゃない。

そしてもう一つの理由は、すずの境遇にあるとも思う。
生家は裕福とは言えないが食うに困ることもなく、
すず自身も遊郭に売られたりすることもなく人並みに嫁いでいく。
(作中にはすずと同年代の遊女も登場する)
彼女に対して優しく、理解のある夫・周作は
呉鎮守府の文官で、兵隊に取られることもなく、
(終盤では軍に入隊して訓練に入るが)
義父も海軍工廠の技師と婚家の男は堅い仕事ばかり。
当時の状況から見れば、彼女はかなり恵まれているのではないか。

 ちなみに周作を演じているのは細谷佳正さん。
 『宇宙戦艦ヤマト2199』の加藤三郎とか、
 『アルスラーン戦記』のダリューンとか、
 無骨な戦士の役が多かった印象なんだけど、
 本作では一途にすずを愛する、朴訥で心優しい青年を好演している。


しかしそんなすずの生活も、戦局の悪化と共に
どんどん暗さを増していく。
米軍機による空襲も次第に頻度を増し、
ついには呉の市街地が灰燼に帰する日が。

そんな中で、すず自身もまた大切なものを次々と失っていく。
終盤に至ると、観ている方が息苦しさを感じてくるくらいだ。
そして、運命の昭和20年8月がやってくる・・・


平々凡々な庶民の暮らしがじわじわと "戦争" に浸食されていき、
いつのまにか平和とはほど遠い世界に来てしまっていたことに気づく。

上の方で主題歌「悲しくてやりきれない」が
本編と合ってない、とか書いたが、全編を通して見るとわかる。
まさにあの歌の歌詞がこの物語の世界を表していたのだと。

声高に反戦を叫ぶわけでもなく、
悲惨な状況をこれでもかこれでもかと強調するわけでもなく、
観客の涙を搾り取ろうとするような演出もない。

しかし、映画本編が終わってエンドロールに入った時、
私の目から一粒、涙がこぼれたことは記しておこう。


最後に余計なことを

すずは大正14年生まれ。実は私の父と同い年だ。
父は大学在学中に徴兵された。いわゆる学徒出陣の一人だろう。
幸い外地に派兵されることもなく、
関西で飛行場整備の土木工事に従事していて終戦を迎えた。
(おかげで私が生まれたわけだが)
その飛行場って、私はてっきり京都にあったと思っていたのだが、
先日の父の葬儀のあと、母と思い出話をしながら確認したら
そこは和歌山だったという。
親父のことをろくに知らない親不孝者だよなあ、俺は。

生前、ほとんど戦争のことを語らなかった父。
もう少しいろんなことを聞いておけばよかったなぁ・・・


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