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虎と月 [読書・ミステリ]

虎と月 (文春文庫)

虎と月 (文春文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/01/04
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

中島敦の「山月記」は未読でも、
内容は何となく知ってる。
「なんだっけ、ほら、登場人物の誰かが虎になる話」

ファンタジーのようにもホラーのようにも
おとぎ話のようにもとれる作品みたいだ。

巻末のあとがきによると、高校時代にこの短編に出会った作者は
すっかり惚れ込み、何度も読み返し、
ついに全編そらで言えるほどになったとのこと。
もっとも文庫で10ページほどの作品らしいが。

長じて後、作者はこの短編を "ミステリ" として解釈し、
独自の長編として再構成した。それが本書。


わずか20歳にして難関の科挙に合格し、
妻と伴に江南の地で官職に就いた李徴(りちょう)。

しかしそれもつかの間、職を投げ出した李徴は、
生まれたばかりの長男と妻を連れて故郷へ引きこもってしまう。

生活のために地方官吏になったものの、1年後には仕事で旅へ出て、
そのまま行方不明になってしまう。

一緒に旅をしていた下男によると、
「ある夜、突然何かを叫びながら外へ飛び出し、
 そのまま帰らなかった」という。

そして10年。李徴の息子である "ぼく" は14歳になった。
"ぼく" と母の元へ一通の手紙が届く。
そこには、虎に姿を変えた李徴に出くわした、と書いてあった。

もしそれが本当なら、自分には "虎" の血が流れているのかも知れない。
"ぼく" は父の真実を知るために、手紙の差出人である
袁傪(えんさん)のもとへ旅立つ・・・


実際、人間が虎になるわけはないので、そこには某かの事情がある。
そのあたりを、当時の中国の国内情勢と絡めて描き出す。
一人の男が妻子を投げ出してまで "行動" に走った理由は何か。
そして息子もまた父の足跡を辿り、
"世界" を知っていく。

うーん、こう書くとものすごく高尚な作品みたいな気がしてくるんだけど
いかんせん、原典の「山月記」に対してさっぱり思い入れがない私。

李徴の父親が失踪した理由も想定の範囲内に収まっているし
そもそもミステリっぽい雰囲気は希薄。

裏表紙の惹句に「ラストの鮮やかなどんでん返し!」ってあるんだけど
いくらなんでもそれは贔屓の引き倒しでしょう。


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