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戦都の陰陽師 迷宮城編 [読書・ファンタジー]

戦都の陰陽師  迷宮城編 (角川ホラー文庫)

戦都の陰陽師  迷宮城編 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/02/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

前巻「騒乱の奈良編」の直接の続編にして
果心居士編が完結(たぶん)。

時に1568年(永禄十一年)、織田信長上洛直前の頃。

天魔を倒すことが出来るただひとつの武器、
霊剣・"速秋津比売(はやあきつひめ)の剣"。

京の土御門家に保管されていた霊剣が
"魔天の四天狗" によって奪取された。
駆け出しの陰陽師・土御門光子(ひかりこ)は、
再び疾風ら7人の伊賀忍者とともに霊剣を追って奈良へと向かう。

黒幕は裏蘆屋の流れをくむ妖術師・果心居士。
霊剣が隠された松永弾正の居城・多聞山城に潜入し
見事奪還に成功した光子たちだったが、
剣には果心居士の施した蠱物(まじもの)が取りついていた。

前巻は多聞山城へ潜入するまでがいささか間延びした印象だったが
本書はほぼ全編に渡って戦いの描写が続く、いわば "激闘編"。

果心居士の操る "虫憑き" どもの跳梁あり、
剣の蠱物祓いに臨む光子への天狗の強襲あり、
そして魍魎どもとともに松永弾正の軍勢まで現れ、
果心居士が次々に繰り出してくる魔性の勢力に苦しめられる疾風たち。

最終決戦場はもちろん果心居士の本拠地・信貴山城。
しかしそこで、霊剣に取りついていた最凶の邪神が目覚める。
それを目にした者に究極の死をもたらす "夜刀の神" を前に
光子と疾風たちの最後の戦いが始まる。


本書の後、2年半くらい経つけど続巻は出てない。
どうやら「戦都の陰陽師」シリーズはこれで完結のようだ。
ストーリー的にも区切りがいいし、
信長が天下を握るようになった後は
光子にとって生きにくい世になりそうだし。
疾風との仲も、まあ予想の範囲内の収まり方かなあ・・・


これからシリーズ全般の感想めいたものを書くけど
ネタバレになる事項もあるかな。未読の人はご注意を。
あと、ちょっと文句が多めかな。
このシリーズが好きな人には不快かも知れません。
相変わらずまとまりのない駄文ですので悪しからず。


終わってみて思うのは、「何だかもったいなかったなあ」という思い。
17歳の美少女陰陽師に、様々な秘術を駆使する精鋭忍者軍団、
それを指揮する若き上忍とのロマンス。
"萌え" も "燃え" も充分にあるのに、
今ひとつ乗り切れなかったような。

リアルな時代小説ではないんだから、
作者の目指している(であろうと思われる)山田風太郎なみに
エロ/グロ/妖異を極める方向に持っていってもよかった気も。

魔性の女天狗・立烏帽子とか松永弾正に弄ばれる幼妻・葦姫とか
その気になれば "そっち方面の要員"(笑) として
使えそうなキャラもいたし。
最終決戦の最中、光子が巨大蛸の触手(あれは足じゃなくて腕なんだ)に
ぐるぐる巻き付かれるシーンなんて、けっこう需要があると思う(笑)。

それとも、いっそのことライトノベル的な書き方に徹してしまえば
明るくはっちゃけてすんごく面白くなる気もするんだが、
それでは別の作品になってしまうだろうし、
この作者の作風ではないのだろうなあ・・・

ちなみに、私は風太郎もラノベもどちらもOKだ(笑)。


テンポの悪さも前回書いたかなあ。
例えば柳生新次郎と葦姫の悲恋も、
前巻であんなに枚数を割いていたのに、
本書に入るとけっこう早い時期での葦姫退場。
新次郎もさほどめぼしい働きはしないし、
前巻から登場していて、本書で正体が明らかになる
上泉伊勢守のほうがよっぽど目立ってると思うし。
(ちなみに "剣聖" と謳われ、新陰流の創始者にして
 柳生新次郎の師匠に当たる人だ。)

いろいろな材料をたくさん入れたかったのかも知れないけど
そのせいで料理の味が薄まってるような気がしてならない。

最終巻になる本書は、果心居士軍団と光子一行の戦いに絞って
全編をまとめていて、リーダビリティもぐんと向上。
これを読むと、前巻と本巻を合わせて
文庫600ページくらいに刈り込んだら
スゴく良くなるような気がするのだけど・・・
それは素人の考えかなあ。


いろいろ文句ばかり書いてしまったけど
逆に言えばそれだけこのシリーズに期待してたんだよねえ。
何だかんだ言っても、これらの要素で大きな破綻もなく
長編3巻書き切ってしまう筆力はたいしたものだと思うし。


何と言っても光子が可愛いくて健気なのがいい。
疾風がカッコいいのがいい。
伊賀忍者たちがそれぞれキャラが立っていて
疾風とともに光子を愛おしく思っているのがいい。

このシリーズを好きか嫌いかと言われたら迷わず「好きだ」と答える。
でも、好きであるが故に「惜しいなあ」とも思うんだよねえ・・・


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