SSブログ

さよならの儀式 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/06/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2013年に発表された日本の短編SFから選ばれた15編に
第5回創元SF短編賞受賞作を合わせた全16編を収録。


まず、一番気に入った3編。ちなみに順不同です。

「ウンディ」(草上仁)
 ウンディとは異星生物の名前で、
 人間がそれを楽器として使っている世界の話。
 ウンディを使っている主人公のバンドが、コンクールに出るが・・・
 ラストがけっこうほのぼの。こういうの好き。

「エコーの中でもう一度」(オキシタケヒコ)
 盲目の女性・加世子は、周囲の音の残響から、
 その場の状況を把握するエコー・ロケーション能力に長けており、
 それを見込んで、ある "依頼" が舞い込むが・・・
 エコー・ロケーションってこの作品のオリジナル設定かと思いきや
 実在する能力だそうでびっくり。
 これもラストがほっこりして心が暖かくなる。

「神星伝」(冲方丁)
 遠未来の太陽系を舞台にして、さまざまなガジェットで
 過剰なまでに装飾されているけど、その実体は
 ある日突然侵入してきた外敵に対し、主人公の少年が
 幼なじみの少女に導かれ、封印されていた巨大ロボットを覚醒させて
 世界と少女を守るべく出撃していく・・・
 とまあ、典型的なロボットアニメの初回1時間スペシャルみたいな
 ベタな話なんだけど、それを冲方丁が書くと超絶的に盛り上がる。
 私はベタな話が実は大好きなのでこの話も大好きだ。続編希望。
 でも、その前に作者は嫁さんに謝らんといかんね(笑)。


次に良かったグループは次の6編。これも順不同。

「さよならの儀式」(宮部みゆき)
 寿命が来た家庭用ロボットに、別れを告げて
 解体処理業者に引き渡しに来た女性と処理場職員の青年との話。
 途中まではしんみりしたいい話で、アシモフのロボットものの流れかと
 思いきや、ラストでは意外な "哀愁" が語られる。
 さすが21世紀のロボットものは一筋縄ではいかない。
 眉村卓みたいな雰囲気もちょっぴり感じる。

「科学探偵帆村」(筒井康隆)
 日本SFの父と言われている(今、知った)海野十三の作品に登場する
 科学探偵・帆村荘六を主人公としたパスティーシュ。
 セックスしていないのに妊娠してしまう女性がたくさん現れ、
 その原因解明に帆村が挑む。
 齡80にして、下ネタで堂々と短編を書いてしまう筒井康隆氏。
 さすが日本SF界の御三家最後の生き残りです。
 ちなみにあと二人は星新一と小松左京です念のタメ。
 人間、いくつになっても悟りは開けないんだねえ(感心してます)。
 私も見習いたいものだ(笑)。

「地下迷宮の帰宅部」(石川博品)
 バーチャルリアリティの世界でRPGをプレイしている主人公。
 魔王に収まったはいいが、配下の魔物どもの間でケンカが絶えない。
 ある日妙案を思いつき、首尾良く仲直りに成功したが・・・
 ドタバタコメディ風に進行するがラストはもの悲しい。

「箱庭の巨獣」(田中雄一)
 本書中唯一のマンガ作品。
 環境の激変により、巨大生物が跋扈する世界となった遠未来の地球。
 人類は集団ごとに "巣" をつくり、
 そこを "巨獣" に守護されながら暮らしていた。
 巨大生物の絵柄はちょっぴり諸星大二郎を思わせるかな。
 とにかく巨獣と人間の関係にまず驚く。
 読んでいると、どんどん気持ち悪くなっていくんだけど
 最後まで一生懸命読んでしまった。
 好き嫌いは分かれるかも知れないが、SFとしては傑作。

「ムイシュキンの脳髄」(宮内悠介)
 脳にメスを入れ、人間の暴力衝動を消し去る手術・"オーギトミー"。
 その手術を受けたミュージシャン・網岡をめぐる物語が
 「盤上の夜」同様のドキュメンタリー・タッチで描かれていく。
 当たり前と言えば当たり前のことなんだが、
 暴力も情愛も、善も悪も、すべては表裏一体で全部ひっくるめて
 「人間性」なのだということを改めて感じる。

「風牙」(門田充宏)
 第5回創元SF短編賞受賞作。
 人間の記憶データを外部に記録することが可能になった時代。
 死病に冒されたベンチャー企業の社長・不二もまた
 自らの記憶データを記録に残すことにした。
 しかし、1日で終わるはずの作業が2日を超えても終了しない。
 主人公の女性・珊瑚は不二の記憶データへの "潜行" を試みる。
 いわゆる "サイコダイバー" もの。
 冒頭の潜行シーンから、状況説明、原因の究明、過去の回想、
 そしてなかなか感動的なラストまでを文庫で約60ページに
 綺麗にまとめているし、ヒロインのキャラ立ちも充分。
 新人賞受賞も納得だ。


イマイチよく分からないのが

「コラボレーション」(藤井太洋)
 検索エンジンの暴走により(あれって暴走するんだ?)
 インターネットが壊滅し、完全な認証システムによる
 新ネットワークへと移り変わった世界。
 わずかに生き残ったサーバー群の中で動作していた検索システムは、
 自己修復を繰り返し、バージョンアップを続けていた・・・
 何だか、ネットワークの中でものすごいことが起こっているのは
 分かるんだが・・・詳しい人はもっと楽しめるんだろうなあ。


何が書いてあるのかは分かったんだが好きになれない3編。
もちろん順不同。

「今日の心霊」(藤野可織)
 写真を撮ると必ず心霊が写ってしまう少女の物語。
 ホラーなんだかコメディなんだか。惚けた語り口は面白い。

「食書」(小田雅久仁)
 本のページを破って食べる謎の女に出会った主人公は・・・
 これもホラーだね。読んでるとだんだん山羊の気分になる。

「平賀源内無頼控」(荒巻義雄)
 獄死した平賀源内が実は生きていて、タイムスリップに巻き込まれる。
 ご高齢の大ベテラン噺家が高座に上がって、
 長い話のさわりだけしゃべってる感じ。荒巻翁、齡81の作品。


判断に困るのが

「死人妻(デッド・ワイフ)」(式貴士)
 だって未完成の作品なんだもの。作者が亡くなってるからって、
 こういうの載せるのはいかがなものかなぁ。あ、別に
 式さんに恨みとかあるわけじゃありませんので念のタメ。


よくわからない2編。やっぱり順不同(笑)。

「電話中につき、ベス」(酉島伝法)
 デビュー作「皆勤の徒」はまだ何とかなったが、これはお手上げ。

「イグノラムス・イグノラビムス」(円城塔)
 もう私は諦めました(笑)。


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ: