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妖草師 [読書・ファンタジー]

妖草師 (徳間文庫)

妖草師 (徳間文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/02/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★

京の公家・庭田家の次男坊、重奈雄(しげなお)。
紀州徳川家へ嫁いだ憧れの女性・徳子を忘れられずに
放蕩の限りを尽くして家を勘当され、
市井で草木の医師として暮らしている。

しかしその裏では、"異界" からこの世へ侵入し、
災厄をもたらす "妖草" を刈る "妖草師" として活躍していた。

花道の名門・滝坊家の門人の一人、お加代。
彼女の父・吉兵衛が夜ごとに奇行にふけるようになった。
毎晩東山へ向かい、山中で一夜を過ごしているのだ。

重奈雄に想いを寄せる滝坊家の一人娘、椿。
彼女から吉兵衛の一件の相談を受けた重奈雄は
奇行の背後に謎の尼僧・無明尼が暗躍していることを知る。

さらに、吉兵衛が元紀州藩士であったこと、
江戸の紀州藩の屋敷でも怪異が生じていることが判明し、
紀州徳川家への苛烈な怨念の存在が明らかになる。


人の心の闇や歪みを苗床に芽吹く妖草。
人の生気を吸い取ったり、焔を発してあらゆるものを焼き尽くしたり
妖草がもたらす災厄は千差万別。

無明尼は、その妖草を武器として御三家相手に復讐を企む。
それを阻止できるのは、同じく妖草を操る術を知る重奈雄のみ。
いわば 妖草師vs妖草師 の戦いが描かれていく。

シリーズ第1巻のせいか、主人公の重奈雄も、
いまだカンペキとはほど遠い人間だ。
初恋の相手・徳子への思いを未だ引きずり、
椿の思いにも応えることが出来ない。
妖草の知識も未だ万全とは言えず、
無明尼との緒戦でも完敗を喫してしまう。
そんな彼のがんばりと成長も読みどころか(笑)。

脇役陣も個性派が揃っている。
娘の想いよりも、家を守ることを第一に考える椿の父・舜海
庭田家当主にして重奈雄の兄・重煕(しげひろ)。
この二人は、重奈雄とは対立する位置にいる。
それとは逆に、重奈雄と行動を共にするのが
池大雅(いけの・たいが)&玉瀾(ぎょくらん)の画家夫婦や、
その同業者の曾我簫白(そが・しょうはく)。
この3人は実在の人物でもある。


「戦都の陰陽師」シリーズでは
ちょいと文句めいたことを書いてしまったが
本書は文庫で400ページと既発表の作品群よりも短め。
内容でも余計な(と言っては失礼か)、というより
どちらかというとあまり本筋に関係ない描写は少なくなり、
リーダビリティはかなり向上していると思う。

"妖草" というアイテムを得て開幕した伝奇アクション時代劇。
すでに第2巻が刊行されている。これもそのうち読む予定。


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ミステリマガジン700【海外編】 創刊700号記念アンソロジー [読書・ミステリ]

ミステリマガジン700 【海外篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリマガジン700 【海外篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: 新書



評価:★★☆

"ミステリ" マガジンと銘打ってはいるものの、収録されている作品は
本格ものからサスペンス、心理スリラーからホラーっぽいものまで
かなりバラエティに富んでいる。
700号にわたって掲載された膨大な作品群から、
日本で刊行された単行本に未収録の作品を対象に選考し、
16編を収録している。

私の定義するところのミステリとは、
「大きい/小さい/重厚/軽妙に関わらず、また犯罪/非犯罪を問わず
 ストーリーの根幹に "謎" があって、最後には謎が解けて解決する」
これがまあ、だいたいの私の基準といっていい。

 とはいっても、ミステリ/非ミステリの判断に迷う作品も
 少なくない。境界は限りなくファジィなんだ・・・

これに当てはめると、本書にはミステリではないものも含まれている。
でもまあ個人の価値基準ですから気にしないでください。

 犯罪がらみのエンターテインメント小説全般を
 十把一絡げに "ミステリ" って呼ぶことに、
 どうしても違和感をぬぐえないオジサンなので。

あと、これ書くと怒られそうなんだけど
「ミステリマガジン」自体は一冊も買ったことありません。
早川書房さんごめんなさい。

 でも、クリスティー文庫はほとんど全巻買ったから許して(笑)。


閑話休題。

まず、気に入ったものは次の4編。

「マニング氏の金のなる木」(ロバート・アーサー)
 銀行から大金を横領したヘンリー・マニングは、逮捕される直前に
 若夫婦(ジェローム&コンスタンス)が暮らす家の庭の、
 エゾマツの苗木の下に金を埋めた。
 3年の刑期を終えて出所したヘンリーだったが、
 エゾマツは大きく成長してしまって金を掘り出すのは容易ではない。
 そこで彼は、自動車修理工として働きながらジェロームに接近するが、
 次第にコンスタンスに惹かれていってしまう・・・
 これ、ミステリとしてどうかは別として、とってもいい話だなあ。
 O・ヘンリーの短編集に入ってても違和感ないんじゃないかな。

「二十五年目のクラス会」(エドワード・D・ホック)
 レオポルド警部のもとに高校の同級生だったハリーが訪れる。
 卒業25年目のクラス会を開くために、彼を手伝って、
 かつての同級生たちへの連絡を始めるレオポルドだが、
 その中で卒業ピクニックで溺死したジョージのことを思い出す。
 あれは事故ではなく、殺人ではなかったのか・・・
 レオポルド警部シリーズを読んだのは、たぶんこれが二作目。
 切れ者なイメージはないが、朴訥かつ堅実な人柄のようで、
 クラスメイトたちの反撥にもめげずに地道に捜査を続けていく。
 ミステリとしてきちんとまとまっていて、さすがは短編の名手。

「すばらしき誘拐」(ボアロー、ナルスジャック)
 毛皮商ベルトンの妻・マリが誘拐された。
 犯人からは身代金30万フランを要求する電話が。
 しかし、マリの死を願っていたベルトンは内心小躍りしていた。
 妻が誘拐犯に殺害されることを願いつつ、警察に連絡するが・・・
 予想外で切れ味鋭いラスト。いやあこれは一本とられました。

「ソフト・スポット」(イアン・ランキン)
 囚人が外部とやりとりする郵便物の検閲官・デニス。
 大物囚人のブレインの妻・セライナは、
 夫に向けてしばしば情欲に満ちた手紙を送ってきていた。
 夫との面会に訪れた彼女に惹かれたデニスは、
 セライナにつきまとうようになり、彼女の浮気を知るが・・・
 ストーカーもののサスペンスかと思いきや、
 最後に大技を食らってまたまた一本とられました。
 お見事。


とりあえずミステリとして読めたものが4編。

「拝啓、編集長様」(クリスチアナ・ブランド)
 女性作家が、今まさに殺人を行おうとしている状況を
 自ら手紙にしたためている、という趣向。最後のオチが効いている。
 クリスチアナ・ブランドは一時期まとめて長編を2~3冊読んだなあ。
 "これぞ本格"ともいうべき、かなり"濃い"作風だったのを覚えてる。
 なんで読むのやめたんだろう・・・?

「名探偵ガリレオ」(シオドア・マシスン)
 福山雅治とは関係ありません(笑)。
 アリストテレスの学説を覆すべく、ピサの斜塔の上から
 二つの鉄球を落とす公開実験を行ったガリレオ。
 しかしその直後、塔の上に残っていた二人の弟子が転落死する。
 しかし塔の中に犯人の姿はない・・・
 歴史上の有名人を探偵役に設定したシリーズの一編とのこと。
 犯人の脱出方法にちょっと難があるんじゃないかなあ・・・

「十号船室の問題」(ピーター・ラヴゼイ)
 タイトルを見て、「十三号独房の問題」って作品名を
 思い浮かべた人は、かなり年季の入ったミステリファンだろう。
 (私もここまでは思いついた。)
 さらにジャック・フットレルって作者名とか
 "思考機械" なんて単語まで思い起こした人は
 かなりのミステリマニアだろう。
 (私はそこまでは出てこなかった。)
 実は、ジャック・フットレル本人もこの作品の登場人物の一人。
 さらに「船室」と聞いて「ああ、ひょっとして」と思った人は
 もう "ミステリの鬼" ですなあ。
 (分からない人はwikiを見よう)。
 主人公のジェレミーは、豪華客船で旅をしている。
 彼の目的は、妻の浮気相手を殺すこと。
 しかし、犯行の機会を窺う内に、ジェレミーは
 乗り合わせたフットレル、そして元編集者ステッドと親しくなって・・・
 ミステリ的には、ちょいとひねりがきいた小品なんだが
 フットレルのエピソードを絡めたところがうまい。

「犬のゲーム」(レジナルド・ヒル)
 警官・ピーターは、犬好きが集まるパブへ参加するようになった。
 飼い主たちは、面白半分に語り合っていた。
 「家が火事になって、人間一人か犬一匹しか助けられないとしたら
  どうする? 誰だったら助ける?」
 しかし、その飼い主の一人の家が火事になり、
 同居していた彼の義母が焼死する。
 状況に疑問を覚えたピーターは独自に捜査を始めるが・・・
 オチはなんとなく予想がついたけど、
 どうにもさっぱりしない終わり方だなあ。


"私基準のミステリ" にあてはまらず、従って評価に困るのが8編。
なんと半分も・・・

「決定的なひとひねり」(A・H・Z・カー)
 人里離れた森の中に住む主人公夫妻。
 雑誌の取材で、二人が相続した高価な家具が紹介されて1年後、
 ヘックリンと名乗る男が訪れ、家具を購入したいと申し出るが・・・
 サスペンスだけどミステリかなあ・・・

「アリバイさがし」(シャーロット・アームストロング)
 老嬢メリー・ピーコックは、ある日突然拳銃強盗の容疑をかけられる。
 犯行時刻のアリバイを証明すべく、
 刑事・ミラーと共に、あちこちを訪ね歩くが・・・
 これもミステリかなあ。肝心の強盗事件も解決しないし。

「終列車」(フレドリック・ブラウン)
 酒場で一人グラスを傾けるヘイグ。
 彼の頭の中ではいつも、終列車に乗ってこの町を離れ、
 新たな生活を踏み出すことだけが渦巻いている。
 その夜、意を決した彼は駅へと向かうが・・・
 いわゆる"奇妙な味"? ちょっぴりホラー?

「憎悪の殺人」(パトリシア・ハイスミス)
 郵便局で働くアーロンは、同僚や上司の惨殺を繰り返している。
 ただし、日記の中で。しかし日を追って妄想は暴走を始めて・・・
 いわゆるサイコサスペンスか。

「子守り」(ルース・レンデル)
 画廊を経営するアイヴィンの息子・ダニエルは言葉の発達が遅く、
 3歳になる今も文章を話すことができず、
 仕事で忙しく留守がちの母・シャーロットよりも、
 子守りのネリに懐いていた。
 やがてアイヴィンはネリと不倫関係になり、
 ダニエルの悪戯を装ってシャーロットの殺害に成功するが・・・
 ミステリというよりはサスペンスですかねぇ・・・

「リノで途中下車」(ジャック・フィニィ)
 懐が寂しいベンとローズの夫婦は、
 職を探してサンフランシスコに向かっている途中。
 カジノの町・リノで一泊することになった。
 疲れて眠ってしまったローズを残したまま、
 ベンはなけなしの財産を持ってカジノへ行ってしまう・・・
 読んでて、こいつは一体どうなることかとハラハラしたけど。
 これ、ミステリですかね?

「肝臓色の猫はいりませんか」(ジェラルド・カーシュ)
 語り手の "私" が、昔通ったカフェで出会った男の話。
 ある日、その男の家に一匹の "肝臓色の猫" が現れて・・・
 ミステリではありません。ホラーです。

「フルーツセラー」(ジョイス・キャロル・オーツ)
 兄からの電話で、病死した父の家を訪れたシャノン。
 父が残した箱の中には、13年前に誘拐され、
 ついに発見されなかった少女の新聞記事が。
 そして、長年にわたって開けられたことのない
 地下のフルーツセラーの鍵がいっしょに添えられていた。
 いわゆるリドルストーリーですかね?
 これもさっぱりしないラスト。


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英国パラソル綺譚 アレクシア女史、埃及で木乃伊と踊る [読書・ファンタジー]

アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る (英国パラソル奇譚)

アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る (英国パラソル奇譚)

  • 作者: ゲイル・キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

吸血鬼や人狼やゴーストなどの<異界族>と、人間とが共存している
パラレルワールドの19世紀イギリスを舞台に、
<異界族>の力を封じることができる
<反異界族>の女性・アレクシアの冒険を描いたシリーズの最終作。


前作ラストで誕生したアレクシアの娘・プルーデンスも
2歳へと成長し、お転婆盛りになった。
何よりお風呂が大嫌いで、入浴させるたびにアレクシアも大わらわ。

そんなとき、エジプトに住む世界最高齢の吸血鬼女王から
アレクシアのもとへ招待状が届く。

エジプトといえば、第2巻で発生した謎の現象の
(異界族が突然その力を失ってしまうというやつ)
原因をもたらした地でもある。

折しも、その現象の原因解明のためにエジプトへ送り込まれた
キングエア人狼団のベータ(副官)が、イギリスに帰国早々
何者かに殺害されるという事件が起こる。

BUR捜査官であるマコン卿は、アレクシアと共に
エジプトへ趣いてしまうため、人狼殺害事件は
マコン卿のベータであるライオール教授と
新米(?)人狼のビフィに託される。

親友のアイヴィと、彼女が率いる劇団とともに、
一家揃ってエジプトへ向かうアレクシアだったが・・・


いままで、アレクシアの父・アレッサンドロ(故人)については。
シリーズのあちこちで言及されてきたが、
第3巻でローマのテンプル騎士団との関係が明らかになり、
本書でも、彼がエジプトで活動していた目的が物語の鍵となる。

主要登場人物の中には、1~4巻までの物語の中で
意外な運命の変転を迎えた者もいるが、
最終巻での展開を読んでいると
「なるほど、あのエピソードにはこんな意味があったか」とか
「そうか、ここにつながるのか」とか
いろいろ感心させられる。

作者はかなり早い時期から最終巻の内容を決めていたのだろう。

もちろん本書でも、とびきり意外なキャラが
とびきり意外な運命を辿るので乞うご期待だ。

シリーズの中でばらまかれてきた伏線を回収しつつ、
さまざまなキャラの着地点が明らかになり、
まさに大団円といえる結末を迎える。

パラレルワールドの英国を舞台に描かれてきた
貴婦人・アレクシアの冒険譚。
5巻で終わるのは、はじめから分かっていたのだけど、
いざ終わってしまうと、意外なくらいの寂しさを感じる。
それくらいヒロインが強烈かつ愛すべきキャラだったんだねえ。
もちろん脇役陣も超個性派が揃っていたけど。

でも、よく考えてみると回収し切れてない伏線もあると思うし
明かされてない設定もけっこうありそうだ。


作者はこの世界を舞台にした別のシリーズを発表している。
本シリーズより25年ほど過去を舞台に、
14歳の少女を主人公にしたもので、全4巻のうち3巻めまでが
ハヤカワ文庫から邦訳・出版されている。

本シリーズの登場人物のうち何人かはこのシリーズにも登場していて、
若き日の姿を見せてくれているらしい。
これも面白そうなので全4巻揃ったらまとめて読もうと思っている。

さらには、成長したプルーデンスを主役にしたシリーズも
執筆されるらしいので、本シリーズで積み残された(?)謎についても
いつか語られる日が来るのかも知れない。
その中でまたアレクシア女史に再会できることを期待しよう。


最後にもう一つだけ。

実は、アレクシアとマコン卿が結婚した頃から
私には気になっていたことがある。それは二人の寿命の差。

ほとんど不老不死の人狼であるマコン卿と
反異界族とはいえ、普通の人間なみの寿命しか持っていないアレクシア。

アレクシア本人は、自分がマコン卿より先に老いて死ぬのは
当然の運命として受け入れているように見えるのだけど
読者としてはやはり気になる。

しかし抜かりのない作者は、この夫婦に対して
ちょっと感動的な結末を用意している。
このあたりも読みどころのひとつだろう。


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夏のくじら [読書・青春小説]

夏のくじら (文春文庫)

夏のくじら (文春文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

私はこのブログの中で「青春小説なるものが苦手だ」って
再三書いているんだけど、今回に限ってはその言葉を返上しよう。


主人公の篤史は高知大学の1年生。
東京生まれの東京育ちながら、両親が共働きだったため、
夏休みには父親の郷里である高知に2~3週間も一人で預けられてきた。

いわば高知は第二の故郷。大学受験に際して高知大も受けたのは、
「もし引っかかったら高知に来てもいいかな」くらいの気持ちだった。
しかし幸か不幸か私大に落ちまくり、高知大学への入学とあいなった。

不本意入学の典型のような篤史だったが、実は密かな期待もあった。

4年前の夏、中学3年だった篤史は高知伝統の
"よさこい祭り" に参加した。
そのとき、一人の女性と知り合った。

当時、彼女は高校~大学くらいだったのでおそらく3~4歳年上、
手がかりは周囲から "いずみさん" と呼ばれていたことだけ。

一緒に踊りの練習に参加しているうち、篤史と彼女は
ある "約束" を交わすのだが、それを果たす機会が訪れないまま、
祭りの最終日を迎える前に彼女は姿を消してしまう。

篤史は未だ鮮明に覚えている。
姿を消す前日、練習場所の体育館の裏手で一人、
涙をこぼしていた彼女の姿を・・・


大学に入学して間もなく、同い年の従兄弟・多郎から、
地元・鯨井町のよさこいチームに誘われた篤史。

気が進まないながらも、「初恋の人との再会」という
淡い期待をもって参加を決断するが・・・

やんちゃなリーダー・月島、気配りのサブリーダー・三雲、
衣装デザインの志織、踊りに燃える綾乃。
そして女性と見まごうばかりの美形ながら、
超絶的なダンス・テクニックを誇るカジ。

肝心な "あの人" の消息はさっぱりつかめないが、
チーム・鯨井町に集う様々な人の
"よさこい祭り" にかける思いに包まれているうちに
篤史自身もまた祭りへ向けて熱い日々を送るようになっていく。


舞台は初夏から真夏で、とにかく熱い物語なのだけど
意外なほど爽やかな雰囲気でストーリーは進む。

個々のメンバーにも悩みがあったり、恋愛模様があったり、
複雑な生い立ちがあったりして、ページを追うごとに
すこしずつ各キャラクターの背景が明らかになり
それがまた感情移入を加速させる。

クライマックスの祭り本番のシーンでは、
いつのまにか私自身も、鯨井町チームと一緒に
高知の町を駆け抜けているような気持ちにさせられた。

鯨井町のチームはみごと入賞することができるのか?
"憧れの彼女" との再会は?
そして、4年前の "約束" を果たすことはできるのか・・・?

感動のラストまで、ページをめくる手が止まらない。


大崎梢の本職はミステリ作家だと思うのだけど
"あの人" の正体についても随所に伏線が仕込んである。
ただ、本書はミステリではないので、
作者自身も隠そうという意図はないようだ。
だって、とってもわかりやすいんだもの(笑)。

それでいて、篤史は全く気づかないもんだから
「なんでお前はわからないんじゃあ!」って
ヘッドロックをかましてやりたくなってしまうよ・・・・
まあそんな彼でも "可愛い" と思えてしまうんだから不思議だ(笑)。

この手の作品では「主人公は朴念仁」てのが定番なんですかねぇ・・・


とかく "青春小説" ってやつは、
モヤモヤしてたりドロドロしてたり(私の偏見です)
好きなジャンルではないのだけど、
素晴らしく心地よい読後感が味わえる本書は、
そんな偏見を吹き飛ばす快作だった。


最後に余計なことを書く。

本書を読んで、なんだか篤史のことが他人事に思えなかった。
それは、彼の幼少時の境遇が私のそれと微妙に重なるから。

私の両親も商売をしていて、特にお盆の頃は
一年で最も忙しい時期でもあった。
私たち兄妹の世話を焼くヒマすらなく、
夏休みの半分くらいは、母親の実家に預けられていたものだ。
もっとも、一人っ子の篤史と異なり私の場合は弟と妹が一緒だったが。

私にとって「夏」という言葉から連想される "原風景" は、
すぐ隣を川が流れてる農家(母の実家)の縁側に座り、
入道雲を眺めながらスイカをかじっている、というもの。
その横には2歳下の弟と3歳下の妹が座っていたはずだ。

篤史にとっての「夏」の "原風景" は何だろう。
"よさこい" の熱気か、"いずみさん" の涙か・・・


もう一つ余計なことを。

数年前、四国へ旅行に行き、高知へも立ち寄ったのだけど
残念ながら "よさこい祭り" の時期ではなかった。

本書を読んで、もう一度彼の地へ行ってみたくなった。
いつかこの目で、高知の人々がすべてを賭けるという
真夏の "祭り" を見てみたい。
そう思った。


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いわゆる天使の文化祭 [読書・ミステリ]

やっと来た週末なのに土曜日曜と
二日連続で遠出したもんで、もうくたくた。
昨日は東京の下町、今日は埼玉県西部の丘陵地帯。
知らない人から見たら何をしているんだと思うよなあ・・・

いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)

いわゆる天使の文化祭 (創元推理文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/12/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

某市立高校に通う葉山くんは、一人だけの美術部員。
演劇部の看板女優・柳瀬先輩を相方に、彼が巻き込まれる事件を
ユーモラスに描いた学園ミステリ連作。
探偵役は神出鬼没のOB・伊神先輩がつとめる。
早いものでこのシリーズも5巻目。

2学期開始早々に行われる文化祭に向けて準備が進む市立高校。
ところが夏休みも終わろうという頃、登校した生徒が目撃したのは
部室をはじめ、学校中に無数に張りまくられた
謎の "ペンギンの天使(?)" の紙。

そして異変はさらに続発していく。
化学室の薬品庫に何者かが侵入し、学校のホームページは改竄され、
重大事件の発生を怖れる学校側は、
文化祭の一部中止すら検討を始める。

何とか文化祭までに犯人を見つけ出さなければならない。
例によって柳瀬先輩と一緒に事件に首を突っ込み、
犯人探索の任を負う羽目になった葉山くんの奮闘ぶりが描かれる。

目的の見えない犯人を捜すミステリとしての趣向も良く出来てるが
何よりも文化祭の準備に没頭する高校生たちの思いが熱い。

しかし期限までに犯人が見つからなければ、
彼ら彼女らの頑張りも水泡に帰してしまうかも知れない。
焦燥と苦悩に苛まれる葉山くん、シリーズ最大の危機である。


物語は葉山くんと、吹奏楽部の一年生・奏(かなで)さん、
二人の視点から綴られていく。
そして各章の終わりに、誰かの回想シーンが挿入される。

高校生活を舞台にしたライトなミステリ・シリーズなんだけど
今回は意外な大技が仕込まれていて、300ページを超えたあたりで
「ええ~っ」って声を上げそうになってしまった。
いやあ、なるほど、そういうことだったんですねえ。
参りました。たいしたものです。

特に今回感じたのは、柳瀬先輩の半端ではない高性能ぶり。
(何がどう高性能なのかは読んでもらうしかないんだが)
そして年下の葉山くんのことがお気に入りと、ホント不思議な人だ。

当の葉山くんも今回はなんだかスゴいモテモテぶり。
それでいて、本人はそれに気づかない朴念仁ってのも
この手の話のお約束なのかもしれないけどね。


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英国パラソル綺譚 アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂う [読書・ファンタジー]

アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂(うれ)う (英国パラソル奇譚)

アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂(うれ)う (英国パラソル奇譚)

  • 作者: ゲイル・キャリガー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/04/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

吸血鬼や人狼やゴーストなどの<異界族>と、人間とが共存している
パラレルワールドの19世紀イギリスを舞台に、
<異界族>の力を封じることができる
<反異界族>の女性・アレクシアの冒険を描いたシリーズの第4作。
全5巻なので、いわゆる "ラス前" ですね。


夫婦の危機を乗り越え、前作ラストで
無事に元の鞘に収まったアレクシアとマコン卿。

お腹の子も順調に大きくなって8ヶ月を迎えた頃、
未知の "異能者" の誕生を怖れる吸血鬼たちの攻撃を躱すため、
アレクシアたちは一計を案じ、アケルダマ卿の隣の屋敷へ引っ越す。

しかしそこに消滅寸前のゴーストが現れ、
何者かが女王の暗殺を画策していることを告げる。

かくして<陰の議会>の<議長>でもあるアレクシアは
女王陛下の暗殺を阻止すべく、密かに探索をはじめるのだが・・・

 ちなみに、表紙で彼女がメイド服みたいなのを着ているのは、
 家政婦として捜索先の屋敷に潜入しようとしているところ。

なにせ大きなお腹を抱えた身。
とても颯爽とはいかず、よたよたとしか歩けないのだけれど
そんなことくらいで彼女の行動力が制限されるわけがない。

臨月近い身でありながら
飛行船で飛び回るは、パラソル片手に立ち回りはするは、
凸凹道を馬車で激走するはで、読んでる方が心配になってしまう。
いつ破水するか、もう全編通してハラハラし通しである。

妊婦が主役のアクション小説というものを初めて読んだなあ・・・
なーんて思っていたら、終盤近くになって突如、
物語は予想の斜め上の方向への大暴走を開始する。

ここから先は書きたいんだけどネタバレになりそうだから自粛。

 でもこの展開、欧米の人より日本人の方が絶対ウケがいいと思う。
 ていうか、これ絶対、日本のアニメ&特撮の影響が入ってる。

自粛とはいいながら、でもこれだけは書いておきたい。

夜のロンドンを舞台に、史上最強の妊婦(笑)アレクシアが
シリーズ最大にして最凶の "敵" と激突するクライマックスは必読だ。

もっとも、繰り広げられるのは毎度お馴染みのドタバタ劇。
読んでるほうはニヤニヤ笑いが止まらない。
もちろん、物語中のキャラたちは必死なんだけどね。

ラストは、アレクシアが出産するところで終わるのだけど、
これまたトンデモないところで生まれたこの赤ちゃん。
もう波瀾万丈の人生は約束されましたねえ・・・


さて、このシリーズも次巻でいよいよ完結。
間を開けずに、続けて読む予定。


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小椋佳 余生あるいは一周忌コンサート [日々の生活と雑感]

今日は(もう昨日か)大宮ソニックシティ大ホールで行われた
小椋佳のコンサートに行ってきた。

ogurakei.jpg

変わったタイトルなんだけど、由来はコンサートの中で説明があった。
小椋さんは来年1月で72歳とのことで
昨年9月にNHKホールで4日連続の "生前葬コンサート" を開いた。
その一年後だから "一周忌 "なんだと。

ところで、コンサートに行くほど小椋さんのファンだったのかと
問われたら、残念ながら「それほどでも」と答えるしかない。

遙か昔の学生時代、LPの2~3枚は買った覚えはあるし
ギターで1~2曲くらいは練習したこともあるし
職に就いてからは「夢芝居」はカラオケでよく歌ったし
OVA版の「銀河英雄伝説」のEDを歌ってたのもよく知ってるけど、
わざわざコンサートに行くほどの熱心さは持ち合わせていなかった。

じゃあなんで行ったのかというと、
それはかみさんが行きたがったから。

新聞の広告だかでこのコンサートを知り、「あたし観に行きたい」と
宣ったのがゴールデンウィークの頃だったかなあ・・・
ネットで二人分の予約を取り、コンビニで料金を払って
(いやはや便利な世の中になったもんだ)
チケットを受け取ったのが5月末頃。

ああ、それなのに・・・

運命というのは非情なもので、
10月に入って突然、かみさんを病魔が襲った。

幸い現在はヤマを超えて快方に向かっているのだが、
医師からは「とにかく休み、静養せよ」とのご託宣。

来週後半には仕事に復帰できそうなんだけど
現在はまだ療養中で、コンサートに行くのは難しい状態。

じゃあやめようかなとも思ったのだが
「もったいないからあなただけでも行ってきて」
と言われたので、今日の行動となった次第。

つまりコンサートの間、私の隣はずっと空席だったわけである。


肝心のコンサートだけど、内容はとっても良かった。

16:30開場、17:00開演。ほぼ満席の状態だ。
ヤマト映画のお客さんたちもいいトシだったが、
今日のコンサートの客層は、さらに10歳くらい上かな。
あと女性が多い。半分くらいを占めていそう。

二部構成で、第一部は「しおさいの詩」から始まり、
初期のヒット曲を中心に10曲ほど。
白い衣装は、"一周忌" らしく "死に装束" のつもりかな(笑)。

小椋さんはコンサート中のトークでは
けっこう毒舌を吐くという噂を聞いてたけど、
比較的高年齢の観客に対して
「みなさん、雨が降らなくても風が吹かなくても
 足元が怪しい中、来て頂きありがとうございます(笑)」
と来たもんだ。でもまあそれくらいだったかな。
小椋さんも歳をとって丸くなったのかも知れない。

第一部の最後は児童合唱団と熟年(失礼!)の女声合唱団が登壇して〆。


休憩時間になったら観客の半分くらいが一斉に立ち上がって
お手洗いに行ったのは笑ったが、自分も行ったので人のことは言えない。


第二部の前半は音楽劇(?)か。衣装もスーツに着替えて登場。
小椋さんがナレーション、若い女性のアーティストがお二人登場して
(なんと片方は小椋さんの次男の嫁さんだという。)
少年二人を演じ、合間に歌が入るという構成。
この歌なんだが、自らの持ち歌に劇に合わせた歌詞を載せた
"替え歌" になってる。
私が聞きたかった「歓送の歌」と
かみさんが聞きたがってた「さらば青春」もここで歌われた。
もちろん違う歌詞で。ちょっと残念だったかな。

第二部後半はまたまたヒットメドレー。
「夢芝居」「シクラメンのかほり」「愛燦燦」などが続き、
最後は熟年の男声合唱団を従え、「山河」で〆。
これ、五木ひろしの歌で聞いたなあ・・・

緞帳が下りたあとも鳴り止まない拍手でアンコール。
「もう72になるんですから・・・」ってぼやいてたけど
結局3曲も歌ってくれて、
最後までサービス精神旺盛な小椋さんでした。

終わってみれば8時前。
休憩時間を差し引いても2時間半近く。
小椋さん、バックバンドの皆さん、
そしてご一緒した観客の皆さん、お疲れ様でした。


人生は一度きり。喜びも苦しみもあるけれど
人生を楽しむことが出来るのは生きていればこそ。

やっぱりかみさんと一緒に来たかったなあ・・・次回は必ず!

二人で健康に気をつけて長生きをして、
たくさん楽しもうと決意した日だった。


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Shadow 闇に潜む真実 ミステリー傑作選 [読書・ミステリ]

ここのところ、プチ放置状態だったんだけど、
何せ9/29から昨日(10/10)まで12日間、
休み無しで働いていたもんで。

今日になって、やっとまる一日の休みがとれた。
さあ、本読むぞーって意気込んでたんだが
午後になってちょいと昼寝するつもりで横になったら
3時間くらい爆睡してしまった。

そんなわけで、なかなか進まない読書の予定だが
それでも何冊か読み終わった本が溜まったので
ちまちまと書いていこうと思う。


 


Shadow 闇に潜む真実 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

Shadow 闇に潜む真実 ミステリー傑作選 (講談社文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/14
  • メディア: 文庫



評価:★★★

2010年に発表されたミステリ短編から選ばれた12編を
2分冊で文庫化した、その後半分。


「人間の尊厳と八〇〇メートル」(深水黎一郎)
 短編集で既読。
 バーで飲んでいた主人公の前に現れた謎の男が
 「人間の尊厳のために私と800m競争をしよう」と言い出す。
 「なぜ走らなければならないのか」あれこれ理由を挙げ、
 あげくの果てには量子力学(笑)まで持ち出して説得にかかる。
 ここの "屁理屈" がまた面白いんだが
 男の正体と目的が明らかになったあとにさらにもう一段驚かせる。
 いやあよくできてる。
 第64回(平成23年度)日本推理作家協会賞短編部門受賞も納得。

「本部から来た男」(塔山郁)
 コーヒーチェーンの本部社員・春山は、支店の社員から呼び出される。
 アルバイトの女の子が無断欠勤しているので、
 彼女のアパートまで一緒に行ってほしいと・・・
 単純な話かと思っていたら、二転三転して意外な結末へ。

「原始人ランナウェイ」(相沢沙呼)
 謎の少女・マツリカを探偵役とするシリーズの第一作とのこと。
 学校近くの廃ビルでマツリカと知り合った高校生・柴山は
 高校に古くからある伝説の "全裸で走る原始人" を探す羽目になる。
 "原始人"という突拍子もない存在から、意外な過去が導き出される。
 なかなか面白そうなシリーズだけど、マツリカさんはドSだねえ。
 続編を読めば彼女の生い立ちなんかも明らかになるのでしょうか。

「義憤」(曽根圭介)
 子持ちの若い母親ばかりを狙うシリアルキラーに襲われた堀田智恵。
 彼女は難を逃れたものの、幼い息子は殺されてしまう。
 事件を追う刑事の"僕"と、相棒の結城麗子。
 麗子自身も、障害を持つ8歳の息子がらみの "黒い噂" をもっていた。
 うーん、ミステリ的には良く出来ているんだろうけど
 あまりにも悪意に満ち満ちていて、この手の話は苦手です。

「殷帝之宝剣」(秋梨惟喬)
 短編集で既読。
 武者修行中の許静は、旅で知り合った主従・半房と蔡を伴い
 山中の修行場・紫雲観へ赴くが、そこには
 天下に名を知られた武人たちが集っていた。
 しかし、その中の一人、破剣道人が首を切られて殺される。
 紫雲観は山奥深く隔絶した場所で、
 外部からの出入りはありえなかった・・・
 いわゆるひとつのチェスタトンですかね。

「橘の寺」(道尾秀介)
 短編集で既読。
 リサイクルショップ・カササギ店長・華沙々木(かささぎ)くんと、
 店員の "僕" こと日暮(ひぐらし)くん。そして中学生・菜美ちゃん。
 この3人が出会う事件を綴った連作短編集の最終編。
 黄豊寺の住職に誘われ、ミカン狩りに来た3人だが
 突如降り出した豪雪によって寺に一泊する羽目に。
 しかしその夜、寺に泥棒が入って・・・
 強欲さばかりが目立っていた住職の意外な一面が明らかになる一編。
 初読の時もそうだったが、今回もラスト5ページで
 涙腺が崩壊してしまった。いやあ、反則だよあれは。


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