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満月の泥枕 [読書・ミステリ]

満月の泥枕 (光文社文庫)

満月の泥枕 (光文社文庫)

  • 作者: 秀介, 道尾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/08/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・凸貝二美男(とつかい・ふみお)は35歳。
5年前まではペンキ屋を営んでいたが、一人娘のりくを
”ある事故” で失って以来、刷毛を持つことができなくなってしまう。
妻は去り仕事も失い、荒れた生活を送った二美男は、とうとう
夜逃げをする羽目になり、物語の舞台となる池ノ下町に流れてきた。

そんな二美男だったが、病死した兄の一人娘・汐子(しおこ)を
引き取ることになり、「コーポ池の下」という安アパートの一室で
1年前から二人暮らしをしている。

りくと同い年の汐子に、ついつい亡き娘を重ねて見てしまう二美男だが
当然ながら汐子ちゃんはそんな目で見られることを嫌がる(当然だね)。

ある夜、三国公園で泥酔して眠り込んでいた二美男は、ふと目を覚まし、
白髪の老人がもう一人の男と連れだって、
公園内にある玉守池の方へ歩み去るのを目撃する。
その後、叫び声と共に何かが水に落ちたような音が・・・

二美男は、白髪の老人が近所で剣道場を開いている師範、
嶺岡道陣(みねおか・どうじん)ではないかと思い当たるが、
その二美男のもとへ道陣の孫・猛流(たける)が訪ねてくる。
彼は小学4年生。汐子の同級生でもあった。

猛流は語る。祖父の道陣が行方不明になっており、
それは伯父の将玄(しょうげん)が殺したのだ、と。

もしそうなら道陣の遺体は玉守池に沈んでいるはず。
しかし広大な池を捜索するのは少人数では不可能だ。
二美男は、1年後の「三国祭り」を利用して、
玉守池から遺体を見つけ出そうというとんでもない計画を思いつく・・・

主人公の二美男がとにかくダメなオッサン。
汐子の保護者でありながら、喧嘩はするし酔って公園で寝てしまうし。
その日暮らしで将来の展望なんてモノは欠片もない。
しかし、そうなった理由が理由なので、彼の行動を責める気には
なかなかなれず、同情的に見てしまう。
周囲の人たちを巻き込んで悪巧みをするなど
変なところでリーダーシップを発揮するので、
物語の主人公としてはちゃんと機能する人(笑)。

登場するキャラも個性的。

大阪育ちの関西弁で、シャキシャキ喋る汐子ちゃんは元気いっぱい。
自分はりくの代わりにはなれないとはっきり言い切るなど
二美男よりよほどしっかりしている。

二美男が夜逃げする際に知り合った女性・奈々子は、なぜか彼のことを
いろいろ気にかけて世話をしてくれるマドンナ的存在だが
二美男のほうが気後れしていて一向に仲は進展しない。

彼女もまた二美男とともにドタバタ騒ぎに巻き込まれていくが
もっぱら汐子ちゃんのお姉さんというか保護者みたいで
メインヒロインはあくまで汐子ちゃん。

猛流は剣道を生業とする家の子とは思えないようなひ弱な体型ながら
終盤に展開される大活劇では奮闘するところを見せる。

二美男が計画に巻き込むのはこの3人に加え、
「コーポ池の下」に住まう人たち。
様々な理由で社会からドロップアウトしかかっている面々が
彼らなりの理由で二美男の計画に関わっていく。

 この住人たちもユニークなキャラが揃っていて
 各人を主人公にスピンオフの短篇が書けそうだ。

「三国祭り」当日に二美男が引き起こした大騒ぎから始まり、
汐子・猛流・奈々子に「コーポ池の下」住人を加えた
総勢10人以上の大人数によるドタバタ劇が進行する。

物語はこの後二転三転、なぜか彼らをつけ狙う謎の組織まで登場し、
二美男たちはなぜ追われているのかも分からないまま、
ジェットコースターのような事態の変化に翻弄されていく。

メインの物語と並行して、汐子の身の振り方も二美男を悩ます。
かつて夫(二美男の兄)と娘(汐子)を捨てて出て行った
生みの母・晴海(はるみ)が現れ、汐子の引き取りを申し出たのだ。

りくを失った二美男にとって、汐子は生きがいになっていたが
再婚して裕福な生活を送っている晴海のもとで暮らした方が
汐子の幸せではないのか・・・

ラストに至り、玉守池の遺体騒ぎに始まった事件を巡る謎は
すべて解明され、八方丸く収まって解決するが、
登場人物たちの人生は事件の後も続いていく。

汐子の選択、二美男と奈々子の仲、そして「コーポ池の下」の住人たち。
短篇でも良いから彼ら彼女らのその後が知りたいなあ。


nice!(3)  コメント(3) 
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mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-11-12 02:19) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-11-12 02:19) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-11-12 02:20) 

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