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穂足のチカラ [読書・SF]

穂足のチカラ (新潮文庫)

穂足のチカラ (新潮文庫)

  • 作者: 梶尾 真治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/12/24
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

海野家はどん底だ。

祖父・海野十三郎(とみお)は痴呆の症状が進み、
その息子・浩は営業のノルマがこなせずリストラを待つばかり。
浩の妻・月代はパチンコにのめり込んでヤミ金融からの取り立てに脅え、
孫娘の七星(ななせ)は父親不明のシングルマザーになり、
その弟の太郎は不登校のひきこもり、たまに外出するといじめに遭う。

しかし、三歳になる七星の息子・穂足(ほたる)は、
家族みんなから愛されてすくすくと育っている。
というか、穂足のおかげで一家は
かろうじて離散せずに済んでいる、というべきか。

その穂足が事故に遭う。
頭を打って意識不明になってしまったのだ。

しかし、意識のない穂足の身体に触れたとたん、家族に奇跡が起こる。
崩壊寸前の海野家にとって、小さな救世主となった穂足だが、
そのチカラはやがて家族を超えて人々を変えていく・・・


どんなことが起こったのかはここではいちいち書かないが、
要するに家族それぞれが、自分を悩ませるものを克服するチカラを
発揮するようになったのだ

ここまでだったら、藤子・F・不二雄の "すこし・不思議" な話、
で終わってしまうんだが、当然その後の展開がある。


私は読みながら後半の展開を予想してみた。

突然授かったチカラで万事うまく行く方向で解決するかと思いきや、
それでは話がうますぎるので、
土壇場でそのチカラが無くなってしまい、
最後は家族一人一人が自分自身のチカラを振り絞って
ナントカ乗り切っていく・・・
なーんてなるんじゃないかなあ、って思ってたんだが、
流石にプロ作家さんだけあって、素人の予想の斜め上を行きましたねぇ。

ただ、その結末についての私の感想は
「なんとなくすっきりしないので好きになれない」

なぜすっきりないしのか、
なぜこの作品に対する評価が今ひとつなのか、
その理由を以下に書く。

この先はネタバレになると思うので、
本書を未読の方で、これから読もうという方はご遠慮下さい。

穂足のチカラは、人知を越えた高次の存在、
"世界の創造者" というか "大宇宙の意思" というか
要するにそういうものがもたらしたもの。

海野家の人々はそれを知っても、厭がることなく受け入れる。
(まあ実際は、受け入れざるを得ない立場なのだけどね)
そして彼らを通して穂足のチカラは広まっていき、
やがて人類は、平和で幸福な世界を手にすることができるようになる。


人間自ら変わるのではなく、何か大きくて強いものがやってきて
それがすべて良い方に変えてくれる。
それに唯々諾々と従ってしまう人間たち。

でもそれって、すごく私には抵抗があるんだよなあ。
なんだか「人間の尊厳」ってどこにあるんだって思いになる。

古くはジャック・ウイリアムスンの「ヒューマノイド」や
最近では山本弘の「去年はいい年になるだろう」とか
そういう "高次の存在" に抗う話を昔から読んできた身としては。
SFって、そういう "人間以上のもの" に立ち向かい、
(最終的に勝つか負けるかは別として)
乗り越えようとする人々を描くことも
重要なテーマのひとつとする文学ジャンルだ、って思ってきた。

私の勝手な思い込みなのかも知れないんだけどね。

石ノ森章太郎の「サイボーグ009・天使編」だってそうだったし、
山田正紀の「神狩り」もそうだし、
小松左京の作品にもそういう作品はたくさんあった。


でも、そう思う一方で、
「そもそも人間に尊厳なんてたいそうなものがあるのか?」
って疑問も湧いてくるんだなあ。

21世紀になっても国家・宗教・民族間とかで争いの絶えない人間。
同じ国の中だって、平気で人を殺める人間が毎日のように現れてくる。


梶尾真治も今年で67歳くらいになる。
これまで67年間生きてきて、彼は、そういう "人類というもの" に
希望を持てなくなったのかも知れない、なんて思ったりする。
結局のところ、何十年何百年経とうと人間は進歩しないものなんだ、って。


だからこそ、フィクションの中だけでも
平和になった人類世界を描きたくなったのかも知れない。
誰にもたらされたものであろうと、結果が良ければいいじゃないか・・・


そう考えると、いちがいにこの物語の後半の展開を
否定できない気もしてくる。
「なんとなくすっきりしない」のはこのあたりが理由。


まあ、あくまでも、これは私の妄想。
他人の頭の中をうかがい知ることは、
超能力者でも無い限り不可能だからね。


長いばかりでまとまりのない文章ですみません。
私の乏しいアタマではこのへんが限界のようです。


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mojo

makimakiさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2014-03-13 02:03) 

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