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アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実 [読書・ミステリ]


アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実 (角川文庫)

アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実 (角川文庫)

  • 作者: 松岡 圭祐
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/11/20

評価:★★★★


 昭和4年(1929年)。アルセーヌ・ルパンは55歳。かつて拉致され、行方不明となっていた息子が日本にいるとの情報を得て、客船で横浜へ上陸する。
 その頃、東京では黄金の仮面をつけた怪盗が跳梁していた。その解決に駆り出されたのは、洋行帰りの青年探偵・明智小五郎。
 東西ミステリの二大スター、夢の競演だ。ゲストキャラも豪華。ルパン、明智それぞれに縁の深い "あの人たち" が登場するというファンサービスぶり。


 はじめに書いておくけど、江戸川乱歩に『黄金仮面』(初出は1930年)という長編がある。もしそちらを既読ならば、そのまま本書を読んでOK。楽しい読書体験が待っているだろう。

 「大昔に読んだけど、内容はほとんど忘れちゃったよ」はい、私もそれ。あらすじは全く記憶になかった(さすがに黄金仮面の正体だけは覚えてたが)。まあでも、全部忘れていても大丈夫。

 つまり『黄金仮面』を未読でも本書は充分に楽しめるということ。時間に余裕があれば読んでからでもいいけれど、なにぶん古い作品なのでねぇ。好みは分かれるところかと。

 閑話休題。


 1927年。53歳を迎えたルパンだが、いまだ怪盗として腕を振るっている。
 コート・ダジュールの古城で開かれたパーティーへ潜入、貴婦人たちの身につけた宝飾品を "頂戴" している中、20歳ほどの東洋人女性と知り合う。
 彼女の名は大鳥不二子(おおとり・ふじこ)。軍需企業・大鳥航空機を経営する大鳥喜三郎(きさぶろう)の娘だった。

 城内の金庫から目当てのお宝を奪って退散する途中、ルパンは4人の賊が不二子を連れ去ろうとするのを目撃する。
 すかさずそこへ割って入るルパン。年齢を重ねた身で苦戦する(笑)も、なんとか不二子を救い出す。しかし同時に盗難も発覚してしまい、這々の体で古城を抜け出すことに。

 不二子を襲ったのは、窃盗団マチアス・ラヴォワの一味だった。しかし彼女を拉致しようとした目的は不明だ。

 ルパンは20歳の頃、最初の結婚をした。妻クラリス・デティーグは出産した後に亡くなり、失意のルパンをさらに悲劇が襲う。残された息子ジャンがカリオストロ伯爵夫人ジョセフィーヌ・バルサモによって誘拐されてしまったのだ。
 以来、ルパンはジャンを探し続けていたが未だに手がかりを得ていなかった。そこへ、ジャンと思われる人物が日本にいるという情報がもたらされたのだった。

 このあたり、読んでいて「おいおい、いくらなんでもそれはないだろう」って思ったんだが、まあこういう想像も楽しいんじゃなかろうか。

 舞台は2年後、1929年の日本へ。東京では金色の仮面をつけた怪盗が跳梁、有名な美術品の盗難が相次いでいた。横浜に着いたルパンはそれを知り、その正体はラヴォワの一味だと睨む。

 日光・中禅寺湖畔に建つ鷲尾侯爵の別邸。そこを訪れたのはフランス大使ルージェール伯爵。侯爵の収集した美術品を見るためだ。しかし屋敷の近くに黄金仮面が現れたとの目撃情報が。
 浪越警部を中心に警官隊が警護する中、侯爵の娘・美子が浴室で殺害されてしまう。さらに美術品も盗まれ、現場には "A・L" という署名が残されていた。

 一方、日本に来たルパンだが、西洋人はよく目立つ。そこで、サーカスの団員・遠藤平吉(えんどう・へいきち)の協力を得て(というよりは無理矢理、彼の住み処へ転がり込んだという方が正しいが)、東京の市井に潜んで活動を続けることに。

 遠藤平吉という名にピンときたなら、なかなかの乱歩ファンだろう。ルパンは、サーカスでの劣悪な待遇にくすぶっていた平吉に、手先の技術や変装など、"怪盗" としてのスキルを伝授していく。なるほど、○○○○○○はルパンの薫陶を受けていたのだね。
 本作中での平吉は、ルパンの ”助手” 的な立ち位置で活躍することになる。


 ルパンを騙る黄金仮面の一味。ルパンに対して激しい敵愾心を燃え上がらせる明智。しかし当のルパンからすれば濡れ衣だ。
 物語の前半では、激しく対立する二人だが、後半に入ると一転、すべてを仕組んだラヴォワたち、さらにはその背後にいた "黒幕" の野望を粉砕すべく、共闘することになる。

 ラヴォワたちの真のターゲットは大鳥航空機。その社長の娘である不二子も狙われることに。
 ルパンは2年前の出会い以来、不二子に想いを寄せていた。親子ほども年の差があるが、ルパンにとっては関係ない。
 不二子を巡る激しい争奪戦が繰り広げられる。ラヴォワたちの陰謀が成功したら多くの人命が失われてしまう。ルパンと明智はそれを阻止すべく、地を駆け空を翔る。

 そして、女性キャラは不二子さんだけじゃない。明智の助手・文代さんは18歳の美少女として登場する。
 出番自体は多くないけれど、物語の終盤では、絶体絶命の危機に陥った明智とルパンの元へ、颯爽と駆けつける姿が描かれる。これなら明智が惚れてしまうのも無理はない。ルパンが文代に手を出さないか心配する明智が楽しい(笑)。


 ミステリと云うよりは日本を舞台にした "ルパンの大冒険" といった趣き。時系列的にはルブランの原典である『ルパン最後の事件』のさらに後、ということになるようだ。
 行方不明になっていた息子の消息をはじめ、原典で描かれた数々の事件の矛盾点や疑問点なども綺麗に整理されているなど、作者の思い入れは半端ではないのが窺える。

 そして、もともと江戸川乱歩の作品にはツッコミどころが多いのだが(おいおい)、原典の『黄金仮面』での矛盾点も解消されているのは流石としか言い様がない。

 さらに、昭和4年という時代背景・世界情勢も物語に大きく関わってくるなど、時代小説としてもよくできているのには脱帽だ。

 子どもの頃、少年探偵団やルパンの活躍に胸を躍らせた人にはたまらない作品になっていると思う。
 もちろん、そうではなかった人でも充分楽しめるエンタメ作品だけどね。



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