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使徒の聖域 [読書・ミステリ]


使徒の聖域 (角川文庫)

使徒の聖域 (角川文庫)

  • 作者: 森 晶麿
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/09/18
  • メディア: 文庫

評価:★★


 2010年、女子高生だった美谷千尋(みたに・ちひろ)は、故郷の山口県で「ヒロアキ」という謎めいた男と知り合った。その異常な行動から、彼に興味を抱く千尋。
 そして2018年。心理カウンセラーとなった千尋は、自殺願望を持つ女子高生・今道奈央(いまみち・なお)と出会い、自殺サイトの存在を知らされる。
 その内容から、サイトの管理人の正体が「ヒロアキ」なのではないかと思い至るが・・・


 2018年、東京・練馬の図書館で出張カウンセラーをしている美谷千尋は、自殺願望を持つ女子高生・今道奈央と出会う。彼女はツイッターで〈首絞めヒロ〉というアカウントをフォローしていた。〈首絞めヒロ〉は、苦しまずに死ねる方法を知っているのだという。

 〈首絞めヒロ〉にあった『青天井の散歩者』というタグをクリックすると、自作の小説のようなものが。その内容から、千尋は8年前に知り合った「ヒロアキ」のことを思い出す。

 2010年、高校3年生だった千尋は予備校へと向かう途中、路上で後ろから突然、首を絞められてしまう。意識がなくなる寸前、その手が緩む。
 意外にも "犯人" の男は逃げずにそこへ留まっていた。彼は「マミヤヒロアキ、20歳の大学生」と名乗り、「警察に通報してもいいよ」という。他人事のように振る舞うヒロアキの中に、千尋は "狂気" を感じる。

 「ヒロアキを救わなければならない」と感じた千尋は、彼について調査を開始する。ヒロアキの家庭は、警官の父、専業主婦の母の3人暮らしだが、どうも不穏な雰囲気がある。
 そして千尋は、ヒロアキが2年前(2008年)に凶器を使った傷害事件を起こしていたことを知る・・・


 物語は2018年と2010年を交互に描きながら進行していく。

 驚くべきは2010年の千尋さんの行動力だ。ヒロアキの情報を得るために、彼の "婚約者" と名乗って出身高校へ乗り込んだり、"男娼"(おいおい)を斡旋する場所へ潜入したり(そこではかなり際どい行為を強要されたり)と、およそ普通の女子高生のすることではないことを、平然と行ってしまう。

 「いくらなんでもそれはないだろう」とも思うのだが、千尋自身も家庭内にかなりの葛藤を抱えた身であることから、ヒロアキに対しても一種の親近感を覚えていて、かなり切実に「放ってはおけない」と考えているようだ。
 とはいっても、それで彼女の行動を完全に理解できるわけではないし、納得するにはラストまで読まなければならない。

 2018年では、今道奈央に自殺を思いとどまらせるために、ヒロアキの行方を捜す千尋が描かれる。しかしその間にも、ヒロアキの自殺サイトを見たと思われる女性の他殺死体が発見される・・・


 サイコパス的な資質を持つ殺人鬼と、彼の犯行を止めようとする女性カウンセラーの話が進行していく。対立はしているのに、実は心の奥底ではつながっているような、一種のラブ・ストーリーとしても解釈できるような。
 そしてラストに至るのだが・・・

 ミステリであるので最後には "真相" が明かされる。いままで語られてきたこと、表面的に見えていたこと、それらには "裏" があって・・・という定番の展開なのだが。

 私はこのラストが好きになれません。どこがどうダメなのかを書くとネタバレになるので伏せますが、まあ、これは好みの問題なのでしょう。



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