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六つの希望 吉祥寺探偵物語 [読書・ミステリ]

吉祥寺探偵物語 : 3 六つの希望 (双葉文庫)

吉祥寺探偵物語 : 3 六つの希望 (双葉文庫)

  • 作者: 五十嵐貴久
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/01/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

元銀行員の川庄は現在バツイチ。
コンビニでバイトをしながら小学生の息子・健人を育てている。
その傍ら、いろんな伝手で持ち込まれる探偵依頼も引き受ける。
吉祥寺の街を舞台にしたパートタイム探偵のシリーズ、第3作。

ある日の正午前、川庄の働くコンビニに
フルフェイスのヘルメットを被った6人の客が入ってきた。

川庄は防犯上の理由でヘルメットを脱ぐことを求めるが
彼らは応じず、持っていたゴルフバッグからライフルを取り出す。

「今からこの店を占拠する」

川庄を含む5人の店員と40人近い客すべてを人質とした彼らは
自ら警察とマスコミにコンビニ・ジャックを通報し、
5つの要求を突きつける。

「武蔵野市長をここまで連れてくること」
「煙草 ”チェリー” 2カートン、マッカラン55年を1本、
 銀座千石屋の特上寿司6人前」
「新宿のスーパーマルヨシの元店長の一家をここに連れてくること」
「1964年、保土ケ谷に住んでいた安西美香という女性を探し出し、
 ここへ連れてくること」
「老人ホーム・緑風園の園長をここへ連れてくること」

 ちなみに ”マッカラン” とはスコッチウイスキーの銘柄らしい。
 アマゾンで値段を調べたんだが ”55年” は載ってない。
 ”18年” の700mL瓶で4万円くらいするから、
 ”55年” は遥かに高いんだろうなぁ・・・

さらに彼らは都内の5カ所の小学校に爆弾を仕掛けてあり、
午後6時までに要求が叶わない場合は爆発させると宣言する。

川庄の息子・健人は、放課後に話し合いがあるとこのとで
帰りは遅くなるといって家を出ていた。

ひょっとしたら健人の小学校が爆破されるかもしれない。
気が気でない川庄だが、犯人グループから指名されて
外部との応対などいろいろと雑用を言いつけられることに。

要求した寿司が届き、それを食うためにヘルメットを脱いだ犯人たち。
男4人に女2人、なんとみな60代後半から70代の年配者であった。

警視庁は犯人たちの要求のうち、可能なものから順次応えていく。
まず煙草・酒・寿司を届け、老人ホームの園長を連れてきて、と。

その中で、5つの要求は犯人グループのメンバーそれぞれが
一人が一つずつ求めていたものだと判明していく。
しかしメンバーは6人いる。
明かされない「6つめ」の内容は何なのか・・・

舞台となるのはコンビニの店舗内と、その前にある駐車場だけ。
これだけで文庫で350ページほどの物語を語りきってしまう。
しかし、ダレたり緩んだりすることもなく、最後まで緊張感が持続する。
このへんもたいしたもの。

犯人グループも、爆弾云々はともかく現場では紳士的。
リーダー格の男(途中で姓が ”宮田” と判明する)も冷静沈着で用意周到。
幾通りにもシミュレーションを行ったうえで実行に臨んでいるようだ。

本書の読みどころは、犯人たちの要求が一つずつ叶っていくところ。
要求したメンバーにとって、その内容は
決して長くはない残りの人生を
悔いなく生きていくために絶対に必要な、
そしてやむにやまれぬ事情から発しているものだった。

このあたり、私も老人の端くれなので、気持ちはよく分かる。
今までの人生に悔いがないと言ったら嘘になる。
これからでも、やり直せるもの、取り返せるものがあったら・・・
誰でも、一度くらいは考えたことはあるだろう。

銃を手に人質を取って立て籠もるなんて凶悪事件そのものなんだが
犯人グループ、とくに宮田の振る舞いが理性的かつ堂に入っていて
余裕すら感じさせるし、人質の扱いも極めて人道的。
犯人グループの女性メンバーからは、時に ”ほのぼの感” すら漂う。
この手のテーマを扱った作品では、珍しい雰囲気を醸し出している。

作者は「交渉人」というシリーズも持っていて、
その中で立て籠もり事件も描いている(『交渉人・籠城』)。
しかし同じテーマの事件を描いていても、真逆の作品に仕上げてくるなど
作者のストーリーテリングの才能、そして引き出しの多さに驚かされる。

まさにページを繰る手が止まらない。楽しい読書の時間を過ごした。

この作品、映像化されないかなあ・・・って切に思った。
どこかのコンビニでロケするだけで
ほとんどの場面は撮れてしまうので、低予算で製作できるだろう。
映画会社やTV局も手を出しやすいんじゃないかな。
うまく原作の雰囲気が再現できれば、
十分面白い作品になると思うんだけどなあ・・・
どこかが手を挙げないかなぁ・・・


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