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公正的戦闘規範 [読書・SF]

公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA)

公正的戦闘規範 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 藤井 太洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/08/31
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ネットとIT技術の進歩が社会を革新していく近未来を描いたSF短篇集。

「コラボレーション」
インターネットが崩壊し、接続すべてに認証が必要な
〈トゥルーネット〉という新しいネットワークに置き換わった近未来。
しかし旧インターネットの残骸も生き残っていて、旧型のサーバの中で
”ゾンビ・サービス” と呼ばれるプログラム群が未だに稼働している。
主人公は、その中にかつて自分が作った〈ソーシャルペイ〉という
簡易決済システムを発見するが・・・
本書の内容とは全く違うのだが、日々ネットの中を飛び交っている
メールマガジン(ほとんどは広告だろう)は、ユーザーが亡くなっても
そのままメールを延々と送り続けるんだろうか、とか考えてしまった。
日本で一般人がインターネットを使えるようになって20年以上が経つ。
絶対、何パーセントかのユーザーは解約せずに死んでるよねぇ・・・
それとも、受信されない状態が続くと自動的に送信をやめるのかな。

「常夏の夜」
甚大な台風被害を受けたフィリピンのセブ島。
支援物資や復興資材を運ぶドローンが大量に投入されたが
最適な配送ルートの作成が自動化できないでいた。
いわゆる ”巡回セールスマン問題” だが、
これを主人公たちがAIを用いて解決しようとする話。
wikiで見てみたら、難しそうな用語がたくさん並んでいて
これを計算機的に解くのはとてもムズカシいらしい。
本作の中では画期的な方策が見つかるのだが、現実はどうなのだろう。

「公正的戦闘規範」
舞台は近未来の中国。国境周辺では未だに少数民族弾圧が続いている。
一般庶民が遊んでいるスマホ・ゲームが、
対テロ制圧戦に意外な形で利用されているというアイデアもすごいが、
人命を守るために自動化・無人化が進む戦場が、かえって
戦争の理不尽さを増幅させていく、というのにも納得してしまった。
戦争とITが結びつくとこうなっていく、という見本の一つだろう。
表題の ”公正的戦闘規範” とは、その戦場に
”人間” を取り戻すためのルール、という設定なのだが
それによって戦争がなくなることも、減ることもおそらくないだろう。
さて、どちらがいいのか。

「第二内戦」
アメリカがIT技術を駆使した革新的な「合衆国」と、
人工知能を禁止した保守的な「自由領邦」に分裂した世界。
(それ以外にも、この2つの国にはいろいろな違いがあるのだけど)
「合衆国」の私立探偵のハル・マンセルマンは、
アンナ・ミヤケ博士と共に「自由領邦」へ潜入することに。
彼女の開発したAIが「領邦」内の証券取引所で使用されているらしい。
本作が発表されたのは2016年11月で、トランプ政権発足の2か月前。
本作では、その後のアメリカ社会の分断を予測したような、そして
さらにエスカレーションしたような世界を描いている。
技術の進歩や利用を禁じても、人間がそれを捨て去ることは
すくなくとも自発的に捨てることはないのだろうなぁ・・・
と今さらながら思う。

「軌道の環」
本作だけ時代は遠未来。人類は木星圏まで生存域を広めている。
木星大気内で働く女性ジャミラは、事故に遭遇して生命の危機に瀕するが
地球へ向かう宇宙船に救われる。しかしその船の目的は・・・

IT技術の超絶的な進歩と、それによって変貌する近未来を描いた作品は
往々にして悲観的な結末を迎えるものが多いように思うのだけど
本書収録のほぼすべての作品が、ハッピーエンドとは言わないまでも、
明るい未来を予想させたり、希望を感じさせるラストを迎える。

 「公正的戦闘規範」だけはちょっと微妙だが・・・

リアルな将来を予想するなら、AIの進歩によって仕事を奪われるとか
なかなか楽観的になれないのが本当のところかも知れないけど
フィクションの中だけでも明るい未来が見たいし、
テクノロジーと上手く折り合いをつけて
生きていく(生きていける)人類でありたいよねぇ・・・。


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