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光圀伝 [読書・歴史/時代小説]

光圀伝 (上) (角川文庫)

光圀伝 (上) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/06/20
  • メディア: 文庫




光圀伝 (下) (角川文庫)

光圀伝 (下) (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/06/20
  • メディア: 文庫



評価:★★★★


徳川御三家の一つ、水戸家第2代藩主・光圀の生涯を描いた一代記。
文庫で上下巻合わせて1000ページを超える大長編ながら
途中でダレることもなく最後まで面白く読めた。


冒頭、67歳の光圀が家老・藤井紋太夫を
自ら手に掛けるところから始まる。
老境に至った光圀がなぜ忠臣の命を奪ったのか。

この謎を "つかみ" にして、次章より時系列を巻き戻し、
この "天下の副将軍" の生涯が綴られていく。

光圀は同母兄・頼重を差し置いて世子(世継ぎ)に定められた。
その理由はわからない。父も、重臣達も黙して語らず。

本来、自分の手に入るものではないものを手にした。
兄が受け継ぐべきものを自分が奪った。
自分は重大な "不義" を犯している・・・
これが彼の前半生を支配する "業" となり、
この不義を正すために、光圀は煩悶し続けることになる。

十代の頃はいわゆる "傾き者" 。
仲間とつるんで悪さをしたり、飲む・打つ・買うの三拍子揃った
立派な(?)不良少年ぶり。
しかし不良仲間にはめられ、浮浪者を一人斬り殺してしまう。

その現場で出会った浪人・宮本武蔵に導かれ
沢庵和尚、山鹿素行といった人物と知り合う。
これが、光圀が文人として生きていくきっかけとなる。


物語は、徳川の治政が次第に盤石となっていく時代を追いながら
光圀が "暴れ馬" から "水戸の獅子"へと
成長していく様子を描いていく。


上巻ではさまざまな人々との出会いがある。
生涯の友、志を同じくする仲間、忠実な臣下たち。
そして何より、光圀が生涯愛し続けることになる正室・泰姫。

しかし下巻に入ると一転して、立て続けに別離を経験する。
友を、同志を、そしてなにより家族との哀しい別れが続く。
しかし光圀はそれらを乗り越え、歩みを止めることはない。
そして最後に、冒頭の藤井紋太夫殺害シーンへと戻り〆となる。

 「天地明察」でも、中盤あたりで号泣したなあ・・・
 あ、安井算哲(渋川春海)もちょい役で下巻に登場してる。
 このあたり、水戸家から見た改暦の様子が窺えて面白い。
 しかし算哲も光圀も、すんごい愛妻家だよなあ・・・

 NHKの大河ドラマなんかもそうだけど、
 ある人物の生涯を描いていくと
 終盤近くはどんどんキャラが死んでいくよねえ・・・

 閑話休題。


武家社会が舞台なので、メインキャラのほとんどは男性。
しかしながら、中盤より登場する二人の女性キャラが
群を抜いて素晴らしく、作中で燦然と輝いている。

一人目は、近衛家から光圀の元へ正室として嫁いできた泰姫。
17歳にして文芸諸事に秀で、その博覧強記ぶりで
光圀をはじめ水戸家の人々を驚かせるが
それより何より器の大きさが違いすぎる。
光圀の抱く野心はもちろん、悩みまでもすべて受け入れ、
最大の理解者であり協力者であり同志となり、
そして時として母のようなおおらかさで包み込む。
光圀は、初めて逢った婚礼の夜から、
彼女の魅力の虜となってしまう。10歳も年下なのに(笑)。
この夫にしてこの妻あり。
"獅子" の奥方は彼女のような人でなくちゃ務まらないよ・・・

そしてもう一人は、侍女として京から
泰姫とともにやってきた左近。
水戸家の独身男性の視線を一身に集めるような美貌ながら
とてつもない堅物で、その性質は無愛想にして不器用。
でもこの不器用さがしばしば笑いを誘って、
彼女を実に愛すべきキャラにしている。いやあ左近可愛いよ左近。
口数も少ないながら、その発言はしばしば物事の本質を突く。
しかし、決して侍女としての分を超えることはなく、
生涯、泰姫への忠誠を貫いていく。


フィクションの要素はもちろん含んでいるのだろうが、
おそらくかなり史実に沿って描かれているものと思う。

光圀は生涯のほとんどを江戸と水戸で過ごす。
だから日本中を世直し行脚することはない。

スケさんカクさんも出てくるが、こちらは
肉体労働ではなく頭脳労働系。

八兵衛は出てこないが小八兵衛なる人物が出てくる。
もっとも、役回りは風車の弥七に近いかな。

戦国の世ではないから、派手な合戦シーンも無い。
でも、幕閣や大奥の "権力者" たちが、将軍の威光を笠に着て
横車を通そうとすると、公然と反駁し立ち向かっていく。
そういう意味では立派に "正義の味方" もしている(笑)。


人の価値は「どれくらい生きたか」ではない。
「どう生きたか」そして「死して後、何を残せたか」。
作中、多くの人々が亡くなっていくが、
彼ら彼女らがどう生き、何を残したか。
それが本書のテーマであり最大の読みどころだろう。


「天地明察」と比べるとやや取っつきにくいかも知れないが
(実際、かみさんは冒頭の紋太夫手討ちのシーンで挫けた。)
物語に没入してしまえば、光圀の強烈な個性にぐんぐん引き込まれて
楽しい読書の時間を過ごすことができるだろう。


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mojo

あきえもんさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-07-25 00:44) 

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