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探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線 [読書・ミステリ]


探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線 (幻冬舎文庫 ひ 21-3)

探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線 (幻冬舎文庫 ひ 21-3)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2023/11/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 名探偵一家の娘、綾羅木有紗(あやらぎ・ありさ)。10歳にして探偵を名乗る。エプロンドレスに身を包み、なんでも屋の橘良太(たちばな・りょうた)を従えて、難事件解決に奔走する。
 シリーズ3作目にして最終巻。

* * * * * * * * * *

 溝の口に住む名探偵・綾羅木孝三郎(こうざぶろう)は事件を追って日本中を飛び回っている。その間、一人娘・有紗のお守り役を仰せつかるのが、なんでも屋の橘良太。
 父親不在の時に起こった事件を有紗&良太のコンビが解決していくシリーズ、第3巻。
 ちなみに有紗の母・綾羅木慶子は世界的名探偵。いつも世界中をまたにかけて走り回っているので、本編には一度も顔を出してない(笑)。


「第一話 便利屋、クリスマスに慌てる」
 クリスマスを過ごすために北関東の山中にある別荘に来た孝三郎と有紗、そして良太。
 孝三郎の代理として、別荘地の滞在客・高田浩輔(たかだ・こうすけ)と共に、高名なミステリ作家・鶴見一彦(つるみ・かずひこ)の別荘を訪問した良太。しかし玄関をノックしても反応がない。リビングの窓から中を覗いた二人は、鶴見が死んでいるのを発見する。現場は内部から施錠された密室状態だったことから、自殺と思われたのだが・・・
 孝三郎が本シリーズで初めて推理を披露するシーンがあるのだが、真相に至るのは有紗。犯人が弄したトリックの一部には、ちょっと無理っぽいものもあるのだが、まあご愛敬の範囲に収まるかな。


「第二話 名探偵、金庫破りの謎に挑む」
 資産家・芝山有三(しばやま・ゆうぞう)が殺された。現場にあった金庫が開けられ、芝山家に代々伝わる年代物の掛け軸が盗まれていた。
 容疑を掛けられた有三の娘婿・下村洋輔(しもむら・ようすけ)は、無実を証明してもらおうと孝三郎のもとへやってくるが、他の事件で出かけていて入れ違いに。
 代わりに下村の依頼を受けた有紗は、良太と下村とともに、以前から掛け軸を欲しがっていたという古物商・正木照彦(まさき・てるひこ)の店を訪れる。するとそこには盗まれた掛け軸が・・・
 犯人が容疑を逃れるために弄したトリックはよくできてる。いささか面倒だけど、金のためならこれくらいの手間はかけるかな。


「第三話 便利屋、消えた小学生に戸惑う」
 良太は有紗の同級生・宮園梨絵(みやぞの・りえ)から人捜しを頼まれる。公立の中央小の生徒で、腰まである長い髪の女の子だ。梨絵を不審者から救ってくれたのだという。
 良太が通う飲み屋『あじさい』のママさんの娘・美乃里も中央小に通っていた。近頃、不審者が出没していると聞いて、ママさんは美乃里のボディガードを良太に依頼する。
 翌日、良太は下校してくる中央小の児童たちを眺めていたが、梨絵の恩人らしき子は見つからない。仕方なく良太は美乃里のボディガードに切り替えて、彼女の後をついていくことに。
 しかし十字路を曲がった美乃里に続いて曲がったところ、彼女の姿が消えた。道の両側には高いブロック塀が続き、戸口の類いは一切ないのに・・・
 人間消失トリックは盲点をついたもの。それと不審者の目的と見つからない恩人がひとつの流れにつながるのは流石に上手い。


「第四話 名探偵、溝の口を旅立つ」
 壁のペンキ塗りを頼まれた良太は坂口家を訪れた。しかし依頼主の順三(じゅんぞう)は、密室状態の家の中で浴室に沈んで死んでいた。警察は単純な溺死と判断したが、納得できない有紗は良太と共に坂口家へやってくる・・・
 この手の密室トリックは絶滅したかと思ってたけど、使いようはあるものだね。


 第四話の最後で、孝三郎と有紗は母・慶子のいるイギリスへ旅立ってしまう。長ければ数年間の滞在になりそうということで、このシリーズもここで打ち止めとなる。
 でもまあ、ひょっとすると成長した有紗による新シリーズが始まる可能性もゼロではなさそう。その日までしばしのお別れかな。



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機巧のイヴ 帝都浪漫篇 [読書・SF]


機巧のイヴ 帝都浪漫篇 (新潮文庫 い 130-3)

機巧のイヴ 帝都浪漫篇 (新潮文庫 い 130-3)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 人間そっくりの機巧人形(オートマタ:アンドロイド)・伊武(イヴ)を主役とした和製スチームパンクSFシリーズ、第3巻。
 前作『新世界覚醒編』から25年後の日下国(日本国)、女学校の生徒となった伊武と親友・ナオミの前にひとりの男が現れ、波乱の物語の幕が開く。

* * * * * * * * * *

 前作から25年後の通天12年(1918年)、伊武は帝都で女学校の生徒となっていた。"通天" というのは作中に登場する架空の年号で、"こちらの世界" の「大正」に相当する。だから伊武の世界でも浪漫とモダニズムの時代だ。

 伊武と並んで本作のダブル主役を務めるのはナオミ・フェル。世界的な企業であるフェル電器産業の社主マルグリッド・フェルの一人娘にして、女学校における伊武の親友だ。

 マルグリッドは前作の後、機巧人形の研究のために伊武を連れて日本へ移住、一時は結婚して娘を儲けたもののその後離婚、シングルマザーとしてナオミを育ててきた。
 ナオミの父親については、本作の中盤以降で物語に登場してくる。

 前作では少年だった轟八十吉(とどろき・やそきち)も既に四十代。帰国後に始めた工務店を大企業へと育て上げ、実業家として成功を収めている。
 一方で伝統的な武術・馬離衝(バリツ)の師範でもあり、教え子が多く警察官となっているので、警察組織へも一定の影響力を持っている。
 表向き、伊武は彼の "養女" となっているので、彼女の "戸籍名" は「轟伊武」である。


 物語の序盤は、まさにマンガ『はいからさんが通る』(大和和紀)の世界だ。
 女学校への通学に、人力車(専用車夫付き)の送迎を受けるナオミ、颯爽と自転車を駆る伊武。二人の学生生活が描かれていく。

 ある日、少女雑誌の表紙絵などを描いている姫野青児(ひめの・せいじ)画伯が女学校近くにある猫地蔵坂ホテルを定宿にしているという話を伊武から聞き込んだナオミは、彼に会おうとホテルに押しかける。

 ナオミはそこで林田馨(はやしだ・かおる)という男に出会う。彼は無政府主義者の活動家で、常に特高(特別高等警察:思想犯を追う)の監視/尾行を受ける身だった。
 林田の醸し出す "危険な雰囲気" に惹かれたのか、ナオミは彼のもとへしばしば顔を見せるようになる。ナオミの "初恋" が進行していくのと並行し、物語には次第に戦争が陰を落とし始める。

 そして帝都を大震災が襲い、それをきっかけに悲劇が起こる・・・というところで前編が終了。
 後編は10年後の1928年へ飛び、舞台は大陸、如州(にょしゅう)へ移る。

 如州は "こちらの世界" でいうところの満州国に相当する。そして後編のキーパーソンとして活躍するのは遊佐泰三(ゆさ・たいぞう)。
 彼は前編では憲兵隊大尉として登場し、後編では大陸の映画会社・如州電影協会理事長として再登場する。この経歴から分かるように、彼は "こちらの世界" での「甘粕正彦」がモデルだろう。

 後編では伊武も意外な役どころで登場し(なにせ彼女は歳をとらないから)、終盤では驀進する大陸横断鉄道(シベリア鉄道)に複葉飛行機が舞い、一大冒険活劇が展開する。


 物語は本巻で一区切りとなるが、謎のいくつか(それもけっこう大きなもの)は残されたまま。
 ラストシーン近く、機巧人形の起動/停止(覚醒/休眠)について、マルグリッドは "ある仮説" に到達するのだが、これが正しいなら、いつか再び伊武の物語は書かれるだろう。

 彼女自身は少女のまま、周囲の人々の世代だけが入れ替わっていく。このシリーズは伊武の物語であるのと同時に、彼女と関わりを持った人たちの物語でもある。次の時代に彼女を取り巻くのはどんな人たちなのか。

 私もぜひ伊武さんの "その後" が知りたい。そしてそのときは、"宿題" もしっかり解決してもらいたいものだ。



タグ:SF
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汚れた手をそこで拭かない [読書・ミステリ]


汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

汚れた手をそこで拭かない (文春文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/11/08

評価:★★★


 些細なきっかけから深みにはまったり、心の闇に飲まれて、日常生活が蝕まれていく。そんな "事件" を描いたミステリ5編を収めた短編集。
 第164回直木賞候補作。

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「ただ、運が悪かっただけ」
 アンソロジー『ベスト8ミステリーズ2017』(講談社文庫)で既読。
 末期ガンで余命半年を宣告された十和子は、夫と共に自宅で最後の時間を過ごしている。その夫は昔から、年に数回うなされることがあった。
 「何か抱えているのなら、話して」十和子の呼びかけに応じて、夫の昔語りが始まる。
 夫が工務店で大工見習いとして働き始めた5年目、中西という客がやってくる。ちょっとした仕事でも過剰なサービスを要求する男で、どこへ行っても文句をつけるクレーマーとしても有名だった。
 そんな中西から「電球がつかないぞ」とのクレームが。夫が脚立を持って電球交換に赴くが、その帰りに「その脚立を売れ」と言い出す。電球交換でいちいち大工を呼んで金を払うのがもったいないらしい。
 中古の脚立を買い取った中西だったが、その半年後、彼はその脚立から落ちて死んでしまう。警察によると、脚立の留め具が壊れていたらしい・・・
 知らなかったとは云え、欠陥品を売ったと思って罪悪感に苦しめられていた夫。十和子は、夫の話から "ある推論" を紡ぎ出す。
 夫を残して去りゆく妻の「だから、あなたのせいじゃなかった」という台詞が、たまらなく胸に沁みる。


「埋め合わせ」
 夏休みの小学校。教師の千葉秀則(ちば・ひでのり)は排水栓を閉め忘れ、プールの水を空にしてしまう。明日はプール教室がある。あわてて水を入れ始めるが、水道料金に異常が見つかれば責任問題だ。管理職からの詰問、教育委員会からの呼び出し、そして戒告処分が待っている。
 秀則は、なんとか第三者に責任を押しつけようと画策を始めるのだが、同僚の五木田が怪しみ始めたようだ・・・
 学校がプールの水管理をしくじって高額請求される、ってニュースは毎年のように報道されるが、たしかに当事者はたまったものではないだろう。
 五木田を探偵役にした倒叙ものミステリとも読めるが、この結末は予想を超えた。


「忘却」
 武雄と妻の老夫婦が暮らすアパートの隣人・笹井が熱中症で死亡した。エアコンをつけずに昼寝をしていたらしい。それを聞いた武雄は狼狽してしまう。
 10日ほど前、武雄のもとへ〈電気料金未払いによる送電停止〉の案内が届いていたが、それは笹井宛てのもの、つまり誤配だった。笹井に渡さなければと思いつつ、武雄も妻もついつい忘れてしまっていたのだ。ひょっとして、笹井が死んだのは武雄たちのせいではないのか・・・
 物語はこの後、意外な事実が判明して幕となるが、間接的に他人を死に追いやってしまったかも・・・って思うのは恐怖だろう。


「お蔵入り」
 ベテラン俳優・岸野紀之(きしの・のりゆき)を起用した映画を撮影していた監督・大崎祐也(おおさき・ゆうや)は、作品の出来に手応えを感じていた。これは傑作になる。
 しかしプロデューサーの森本毅(もりもと・たけし)から、岸野に薬物使用の噂があることを告げられる。もし事実なら映画は公開できなくなってしまう。
 その夜、ホテルの一室で岸野を問い詰める大崎たち。岸野は疑惑をあっさり認め、さらには「やめられない」と開き直ってしまう。その態度に激高した大崎は思わず彼を部屋のベランダから突き落としてしまう。
 大崎たちは岸野の転落死を事故に偽装し、映画のお蔵入りを回避させようとするが・・・
 上手くいくかと思われた大崎たちの隠蔽工作が、意外なところから瓦解していく。この話の教訓はなんだろう。"過ぎたるは及ばざるがごとし"、かな。


「ミモザ」
 趣味で書いていた料理ブログが話題となり、人気料理研究家となった荒井美紀子(あらい・みきこ)。その著書のサイン会で再会したのは、かつての上司・瀬部庸平(せべ・ようへい)。美紀子は9年前、妻子ある瀬部と不倫関係にあった。
 現在は結婚して夫がある身でありながら、美紀子は瀬部の誘いに応じてバーに行ってしまう。瀬部は仕事を辞め、妻とも別れたという。そして金の無心を切り出す。
 そんな瀬部の態度に幻滅してしまった美紀子だが、かつての相手を見返してやるつもりで30万円渡してしまう。しかしそれが過ちの始まりだった・・・
 順風満帆だった人生が、かつての不倫相手と関わったために、坂道を転げるように崩壊していく恐怖。ラストはこの上なく苦い。



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SF作家 山本弘さん ご逝去 [日々の生活と雑感]



 去る3月29日、SF作家の山本弘さんがお亡くなりになりました。享年68。
 作家として小説を書かれていたのはもちろん、漫画原作やアンソロジー編集、ゲームデザイナーとして幅広く活躍しておられました。

 なかでもオカルトや疑似科学、陰謀論などを扱った、いわゆる「トンデモ本」を研究する「と学会」初代会長を務めていたのが印象に残ります。
 その手の本を正面切って大真面目に批判するのではなく、軽快に笑い飛ばしてしまおうという「トンデモ本の世界」シリーズは、一時期私の愛読書でした。


 SF作家としても多くの傑作を残されました。私にとってのベスト3を挙げるなら、『アイの物語』、『MM9』シリーズ、『地球移動作戦』。次点で『プロジェクトぴあの』かな。

『アイの物語』は、アイザック・アシモフとは異なったアプローチで人類とロボットの関わりを描いた連作短編集で、その中の一編「詩音が来た日」は、涙腺が崩壊してしまう感動作。

『MM9』シリーズは、「怪獣」が実在し、"自然災害" 化している世界での、人間たちの戦いを描いた連作集。特に第3作『MM9 -destruction-』では、ゴ○ラ(を模した怪獣)とガ○ラ(を模した怪獣)がタッグを組み、それにウ○ト○マン(を模した生命体)が加わって、侵略者が差し向ける宇宙怪獣軍団を迎え撃つという、特撮ファンなら鼻血を流して狂喜乱舞するようなドリームマッチが展開する。

『地球移動作戦』は、往年の東宝特撮SF映画の傑作『妖星ゴラス』を未来世界に置き換え、ハードSFとしてリメイクしたもの。
『プロジェクトぴあの』は、この作品で地球を動かす方法として登場する超光速粒子タキオンを用いた推進システム ”ピアノ・ドライブ” を開発した天才科学者・結城ぴあのの少女時代の物語。

短編にも傑作はあるけど、ピカイチは「奥歯のスイッチを入れろ」(『シュレディンガーのチョコパフェ』収録)だね。「600万ドルの男」と「エイトマン」と「サイボーグ009」を合わせたような作品。「誰がために」(1979年のアニメ『サイボーグ009』主題歌)を脳内BGMにして読むと、これも泣ける泣ける。


 6年前に脳梗塞を患い、リハビリをされていたのは知っていましたが、まさかこうなるとは。私と3歳しか違わない。あまりにも若すぎるとしか云えない。

 私も還暦を迎えたあたりから、同世代の友人・知人の訃報を聞くようになったけど、これが「トシをとる」ってことなんだね。哀しいけれど。

山本弘さん、いままで多くの作品で楽しませてくれてありがとうございました。
合掌。


タグ:SF
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幽世の薬剤師5 / 6 [読書・ファンタジー]


幽世の薬剤師5(新潮文庫nex)

幽世の薬剤師5(新潮文庫nex)

  • 作者: 紺野天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/10/30
幽世の薬剤師6(新潮文庫nex)

幽世の薬剤師6(新潮文庫nex)

  • 作者: 紺野天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/02/28

評価:★★★☆


 異世界・幽世(かくりよ)へとやって来た薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)と、怪異を祓う巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)を主人公としたファンタジー。
 幽世を創り出した「国生みの賢者」・金糸雀(カナリヤ)が原因不明の病に倒れた。空洞淵と綺翠は人魚の伝説が残る村へ赴く。そこでは、人魚の肉を口にして不老不死を得たはずの一家が次々と怪死していた・・・

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 第5巻と第6巻は、物語が連続しているのでまとめて記事にする。


『幽世の薬剤師5』

 幽世を創り出した「国生みの賢者」・金糸雀(カナリヤ)は、不老不死の八百比丘尼(やおびくに)だった。しかし彼女は原因不明の病に倒れてしまう。

 そのとき、薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)と巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)の前に現れた「白銀の愚者」・月詠(つくよみ)は、"東の漁村" へ向かえという。金糸雀を治療するヒントがそこにあると。

 二人が赴いた琵国(びくに)村に暮らす青蓮(せいれん)家は、かつて人魚の肉を口にして不老不死となり、300年の時を生きてきた一族だった。しかし半年ほど前から、彼らの中で次々と怪死する者が出ているという。

 青蓮家を訪れた二人は、現当主の重吾(じゅうご)は既に人事不省状態、さらにその妹の茉奈(まな)も、一人では歩けないほど衰弱していることを知る。

 一家の過去や村の調査を進めていった空洞淵は、やがてある "結論" にたどりつく。彼の推理と医学の知識は、青蓮家の人々に起こった症状を合理的に説明していく。
 このあたりの展開は、いささか専門的な内容を含むのだが、一般人にも充分に理解できるように語られていく。その当たりは流石に上手い。

 しかしその結論は「空洞淵の手には負えない」ことをも意味していた。だが、彼の目前で、あり得ないことが起こってしまう。
 そして空洞淵と綺翠の前に現れた月詠は、意外なことを告げる・・・


『幽世の薬剤師6』

 このシリーズに於いて、さまざまな怪異・謎の病が登場してきたが、その裏には月詠の暗躍があった。いわばすべての事件の "黒幕" 的存在だったのだが、ここにきて彼女の目的が明かされる。

 彼女のいままでの行動は、姉・金糸雀を救うためにあったこと、そのために空洞淵を幽世に連れてきたこと。そして今、すべての準備が整い、月詠の目論見通りに金糸雀は救われることになったのだが・・・


 この後の展開はネタバレになるので書かないけど、これくらいはいいかな。
 6巻の終盤では、過去の巻に登場した様々なキャラクターが総登場する。みな、"ある願い" を胸にして。さながらカーテンコール状態である。


 そして本巻を以て「第一部完結」となる。つまりストーリーにひと区切りはつくが、物語としてはまだ続いていく。
 今夏には第二部開始とアナウンスされてるので、あまり待つことなく、また二人に会えそうだ。



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