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錬金術師の密室 [読書・ミステリ]


錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 紺野 天龍
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/02/20

評価:★★★★


 錬金術師フェルディナンド三世は、「不老不死」を実現したと発表、公の場でそれを実演してみせることに。しかしその公開式前夜、彼の死体が発見される。現場は三重の密室の中。
 公開式に招かれていた錬金術師テレサと青年軍人エミリアは殺人の容疑をかけられることに・・・。
 ファンタジー世界で展開される本格ミステリ、シリーズ第1作。


 作品の舞台となる異世界は、動力としては蒸気機関が主力と、こちらの世界でいうところの19世紀くらいの技術レベルかと思われるが、一番の特徴は、元素の変換(鉛を黄金に変えるなど)を可能にする "錬金術" が実在していること。

 主人公エミリア・シュヴァルツデルフィーネは、アスタルト王国の新任少尉。彼が辺境の任地から首都に呼び戻されるところから本編は始まる。
 新たな配属先は軍務省錬金術対策室。そして彼の上司となるのはその室長を務めるテレサ・パラケルスス大佐。スタイル抜群(笑)な若い女性で、それに加えて世界に7人しかいない錬金術師のうちの一人だ。

 エミリアの最初の任務は、水上蒸気都市トリスメギストスで行われる ”神秘公開式” に招待されたテレサの付き人兼お目付役だ。

 トリスメギストスは大企業メルクリウス・カンパニーが支配する地。そしてメルクリウスが擁する錬金術師がフェルディナンド三世だ。
 彼は、元素変換よりもさらに上位の "技術" である「不老不死」を実現したと発表し、公の場でそれを実演してみせることになった。それがこの神秘公開式だ。

 しかしその式の前夜、フェルディナンド三世の惨殺死体が発見される。現場は彼の研究室で、そこに至るには守衛がいる三つの関門を超えなければならない、文字通り三重の密室の中。

 そして捜査を始めた警察は、テレサとエミリアを容疑者として拘束してしまう。不可能犯罪を実行できるのは錬金術師しかいない、という論法だ。
 2人は自らの身の潔白を証明するため、事件の捜査を始めることに・・・


 ファンタジー世界で、魔法やら錬金術やらというと、何でもありになってしまうんじゃないかと思いきや、そこはきちんと設定されている。
 錬金術をはじめ、”こちらの世界” にない技術については「何ができるか」「何ができないか」「どこまでできるのか」が厳密に明らかにされる。
 作中にはホムンクルス(人造人間)も登場するが、これについてもきちんと設定が記述されているなど "何でもあり" にならないように配慮がされている。

 もちろん、わざわざ異世界を舞台に選んだのだから、上記のような実在しない技術・物体を使ったトリックも「あり」なわけだが、これもきちんと設定に乗っ取って展開される。
 架空の技術・架空の物体を使ってロジカルに推理する、というのが本作の特徴なのだが、上述のように、ミステリ的には "フェア" な作品と言えるだろう。


 もうひとつ特徴を上げれば、キャラ設定も面白い。
 ワトソン役となるエミリアは基本的には真面目人間で、対するホームズ役のテレサは享楽的で大酒飲みでだらしない。
 まあこれくらいならよくある設定なのだけど、実は2人とも、内に大きな秘密と事情を抱えていて、これが終盤近くになって明らかになる。

 密室トリックについてはラスト近くで解明されるのだが、そのあとにさらにもうひと捻り。架空の特殊設定のもとで、多重解決をもやってしまうという、なかなかに手の込んだ作り。

 文庫カバーの著者紹介では、作者は2018年にデビューしたとあるが、本書は2020年の刊行。wikiでみてみたら、単著としては3冊目らしい。3冊目にして、既になかなか堂に入った書きっぷりなので、かなり筆力のある人とお見受けする。
 シリーズ2作目「錬金術師の消失」も手元にあるので、近々読む予定。



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