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オニキス -公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子- [読書・ミステリ]


オニキス―公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子―(新潮文庫nex)

オニキス―公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子―(新潮文庫nex)

  • 作者: 古野まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/10

評価:★★★☆


 超大富豪にして日本皇室と英国王室の血を引く西有栖宮綾子(にしありすのみや・あやこ)。その肩書きは警察庁監察特殊事案対策官。司法権力掌握を目論む検察庁の裏組織〈一捜会〉が引き起こす警察の重大不祥事に介入し、極秘かつ迅速に解決していく。


 主人公メアリは皇族を母に、英国王の親族を父に持つ。正式名はメアリ・アレクサンドラ・綾子・ディズレーリ。"超" がつく資産を持ちながら、警察庁長官直属の監察特殊事案対策官の肩書きで、階級は警視正。

 タイトルの "オニキス" とは黒瑪瑙(くろめのう:宝石の一種)で、メアリの黒い瞳の形容詞として作中に登場する。

 検察庁裏組織〈一捜会〉は、警察の威信を地に落とし、司法権力を一手に握らんと全国の警察組織に様々な陰謀を仕掛け、"重大不祥事"を引き起こしている。

 箱崎警察庁長官の勅命によって、その "重大不祥事" を極秘裏かつ迅速に解決していくことがメアリの使命。そしてそのために彼女が執る手段は、奇想天外だ。


「第1章 消えた八五七三万円を追え」
 I県警中央警察署の署内から、拾得物として保管していた現金8573万円が消えるという事件が起こる。警察署故に外部犯の可能性はなく、容疑は総数361名の署員全員にかけられた。
 事件発生は極秘とされたが、マスコミに漏れるのは時間の問題。メアリは44時間と時限を切り、361人中360人の容疑を晴らして犯人を絞り込んでみせると宣言する・・・
 「犯人ではない」という証明は「犯人だ」という証明よりも桁違いに困難、というかおよそ不可能だ。いわゆる "悪魔の証明" というやつだから。しかしメアリは有り余る財力によってそれを可能にしてみせる。
 いやはやこれには驚いた。よく "現ナマで顔をたたく" というが、彼女がやるのはまさにこれ。でも、ここまで徹底してやってみせられると、清々しささえ感じてしまう。


「第2章 "警察に不祥事なし"」
 O県警鹿川(しかがわ)署は山間の僻村にある小さな警察署。しかしそこの署長が、署内で不倫相手とお楽しみ中に腹上死(おいおい)してしまうという事件が起こる。
 不倫相手は〈一捜会〉に買収された署員で、さらに検察庁長官の懐刀・鬼塚検事が現地へ向かっているという。このままでは事件が明るみに出るのは時間の問題だ。メアリたち対策官一行は一足先に現地へ飛ぶ。
 鬼塚検事が鹿川署に到着したとき、署内はもぬけの殻。さらに村人の姿もない。代わりに自衛隊員が展開し、村を外部から封鎖しようとしていた。〈ハーキュール・ポイロットブルク出血熱〉なる高致死性のウイルスのアウトブレイクが起こっているとのこと。そして数時間後には、在日米軍の焼夷弾攻撃で村が焼き払われるのだという・・・
 いやあこれもスゴい。一人の人間の不祥事を隠すのにここまで壮大かつ徹底的なペテンを打つのは。ワケのわからない事態に翻弄される鬼塚検事が、だんだん可哀想になってくる(笑)。


「第3章 あの薬物汚染を討て」
 L県警察本部前で警察本部長が爆弾テロに遭う。現在L県警内部で薬物汚染が進んでおり、薬物乱用・薬物依存の状態にある者は現在67名。これは全警察官の1%におよぶ。テロに遭った警察本部長は薬物汚染の調査のために2週間前に赴任してきたばかりだった。
 箱崎長官の命でL県に赴いたメアリは、薬物汚染の元凶と思われる人物に対して罠を仕掛けるのだが・・・
 張本人を割り出す方法がまるっきり違法で、これでいいのかとも思うのだが、この手のエンタメにリアリティを求めるのは野暮というものだろう。違法薬物に関しては囮捜査も許されてるし(えーっ)。


 ミステリ要素なんてどこにあるのかと思われそうだが、要所要所でメアリの推理がきっちりと "犯人" を追い詰めていく。もっとも、読んでいると彼女の立ち位置は "探偵" というよりは "必殺仕事人" に近いように思えるが(笑)。

 メアリの力の "源泉" は、まず無尽蔵の資金。父親の有り余る資産は使い放題。数十億単位の現金を右から左へ動かすことなど造作もない。
 そして権力。警察に対してはもちろんだが、裏社会との取引も厭わず、清濁併せ飲むこともできる。
 自衛隊や在日米軍の司令官ともツーカーの仲で、必要とあらば彼らを手足のように自由自在に使いこなす(おいおい)。
 彼女とその部下たちの移動は自家用オスプレイで。その格納庫には10トン分の現金(!)が積み込まれ、今日も日本各地を駆け巡る・・・

 『水戸黄門』をベースに、あるときは『富豪刑事』、あるときは『コンフィデンスマンJP』、そしてまたあるときは『必殺仕事人』。
 そしてもちろん天才的な頭脳をも兼ね備えたメアリはスーパーヒロインだ。

 あまり深く考えず(笑)、頭を空っぽにして読めば、楽しい読書の時間が過ごせるのは間違いない。2巻も出ていて手元にあるので近々読む予定。



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