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完全恋愛 [読書・ミステリ]

完全恋愛 (小学館文庫)

完全恋愛 (小学館文庫)

  • 作者: 牧 薩次
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/03/04
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

「第9回本格ミステリ大賞」受賞作。
作者の「牧薩次」とは、「辻真先」の別名義。
元々は作者のミステリシリーズに登場する作家兼探偵の名前なんだけど
本作はその作家が書いた作品、という体裁になっている。

「辻真先」と言うと、現在ではミステリ作家の方が
断然有名なんだろうけど、我々の世代からしたら
創成期の日本アニメにおける脚本家、という方が馴染みがある。

 「サイボーグ009」TVシリーズ第1作(なんと白黒作品!)の
 第2話「Xの挑戦」とか第16話「太平洋の亡霊」とか。
 今でもストーリーを憶えてるよ。

 50代の方だったら、wikiで「辻真先」を調べてみるといい。
 彼が関わったアニメ・特撮作品がいかに多かったか。
 そして、それらを私たちがいかに夢中になって観ていたか・・・

70年代に入ったあたりから少しずつ作家の比重が高まっていって、
とっくの昔に作家専業になってたと思ったんだけど
ホームページを覗いたら、今でも「名探偵コナン」とかの
シナリオを書いてたりするみたい。

閑話休題。


本作は、本庄究(きわむ)という男の生涯を、
3つの殺人事件を絡めて描いている。

昭和20年、空襲で家族を失った少年・究は
福島県で温泉宿を営む伯父に引き取られる。
そこで、やはり戦火を逃れてきた少女・小仏朋音(こぼとけ・ともね)と
運命の出会いを迎える。
その日から、朋音は究にとって "永遠の女性" となった。
やがて8月15日を迎え、温泉町にも進駐軍がやってくるが、
その中の米軍兵士の一人が殺される。

終戦後間もなく、朋音は一回りも年上の実業家・真刈夕馬に嫁ぎ、
彼の会社は戦後の混乱期の中、急成長を遂げていく。
そして、究もまた画家としての才能を開花させていくのだった。

昭和43年、真刈夕馬によって追い落とされた
浅沼興業の社長・浅沼宏彦が福島の山村で自殺を遂げる。
しかしその直後、彼の手元にあったはずのナイフが
遙か沖縄・西表島に滞在していた
朋音の娘・火菜(ひな)の胸を貫いていた。

そして昭和62年、ついに真刈夕馬が殺害される・・・


ただ一人の女性を、生涯をかけて愛し続けた男の物語。
究君が朋音さんに捧げる純愛には共感できるし、
それは彼女が世を去った後も変わることはない。

恋愛小説としてなら傑作だと思うのだけど
ミステリとしてはチョイ不満かなあ。

読んでいくと、いろいろ考える。
「きっとあの時の○○は△△だったに違いない」とか
「このキャラは、実は□□の◇◇じゃないのか」とか。

で、結果として、これがけっこう当たるんだなあ。
ミステリを読み慣れた人ならもちろんだけど
私が当てられるんだからたいていの人はお見通しだろう。

たぶん作者もそこまでは計算ずくで、「肉を切らせて骨を断つ」、
言い換えれば「80%までは見破れても残り20%で驚かせる!」
という算段だったと思う。
(大リーグボール2号のパターンだね・・・て、これ分かる人少なそう)

じゃあその残り20%がどうなのか。
確かに意外ではあるのだけど「そうだったのか!」感は希薄。
文中に伏線もきちんと張ってあって、フェアではある。
「そう言われればそうなんだろうな」とは思うけど、
私はあんまり驚きは感じなかったなあ・・・

いちばん不可能性が強い「西表島のナイフ事件」にしても、
真相はかなりあっけなくて、ガッカリ感のほうが先に立つ。

第3の事件のアリバイトリックにしても、
いくら伏線が張ってあったとは言っても、
これは反則技に近いんじゃないかなあ・・・


なんだか文句ばっかり書いてしまったが、
恋愛小説としてはとても良くできてると思う。
それに何と言ってもスゴいのは、
この作品を書いた時の作者が御年76~77歳くらいだったこと。
80歳近い人がこれだけの長編ミステリを書いたことがスゴい。
殺人事件を3つも入れて、それぞれ異なる趣向を凝らし、
作中でも40年以上の時間経過を描いている。
この筆力はやっぱり特筆に値するだろう。

「ガチガチの本格ミステリ」だと思って、
身構えて読むとちょいとアレなんだが
「ミステリ要素が豊富な恋愛小説」だと思って読むなら
とても楽しい読書の時間を得られる作品だと思う。


男なら、誰でも心の中に "永遠の女性" が棲んでいるだろう。
叶うことのなかった恋や、後悔に満ちた愛の思い出もあるだろう。
悲しみに張り裂けてしまった "心の傷" を持っている人も。

主人公・究くんの姿に、多かれ少なかれ
自分を重ね合わせる人もいることと思う。

私はどう重ねたか? それはナイショだ。
"思い出" は墓の中まで持っていく。それが男というものだろう。


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