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アンデッドガール・マーダーファルス4 [読書・ミステリ]


アンデッドガール・マーダーファルス 4 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 4 (講談社タイガ)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/07/14

評価:★★★☆


 吸血鬼・人造人間・人狼などの怪物や日本の妖怪たちが公然と(一部は世間から隠れて)跋扈し、それに加えて、多くの名探偵たちや怪盗、犯罪者たちも実在しているというテーマパークみたいなパラレルワールドが舞台。

 時は19世紀末。産業革命から100年、科学文明を得た人類は次第に勢力範囲を拡大しヨーロッパ各地に潜む怪物たちを排除しつつあったが、それでも ”人外の存在” が関わる事件は起こっていた。

 そんな ”怪物事件” を専門に請け負う探偵・輪堂鴉夜(りんどう・あや)、彼女の助手兼下僕の真打津軽(しんうち・つがる)、そして鴉夜に仕えるメイドの馳井静句(はせい・しずく)の3人組が、異形の怪物や犯罪者に立ち向かうシリーズ、第4作。
 今回は短編5作を収録。うち4編は本編開始前の話で、各キャラたちの過去が語られていく。


「知られぬ日本の日本の面影」
 三人組が渡欧する前の話。
 鴉夜と津軽が出会い、契約を交わした翌朝。3人は一人の外国人に声を掛けられる。男は小泉八雲(こいずみ・やくも)と名乗り、帝国大学で英文学を教えているという。
 八雲の教え子・田部隆次(たなべ・りゅうじ)にはとよ子という許嫁がいたが結核で病死したため、せんという女性を娶った。夫婦仲は良好だが、隆次が関西へ旅行したおり、家にいたせんの周囲で声が聞こえたという。
『おまえはあの人にふさわしくない』『出て行け』
 これはとよ子の "霊" なのではないか? 八雲は二人の用心棒を雇ったが、どちらも首を切断されて殺されてしまった・・・
 3人組が引き受けた最初の事件。幽霊騒動の裏に潜むのは意外な事実で、犯人にはこの時代ならではの動機と、歴史ミステリな側面も。そして3人が日本を発つシーンで締め。


「輪(まわ)る夜の彼方へ流す小笹船」
 藤原純友(ふじわらのすみとも)が瀬戸内の海賊退治に乗り出していた頃、浜に漂着した難破船から一人の赤子が見つかる。彼女を拾い、養育したのは蘆屋道満(あしやどうまん)、播磨国に住まう高名な陰陽師だ。年齢は不詳だが、外見は若い女性だ。
 幼女は鴉夜と名付けられて成長していく。12歳になったとき、道満に連れられて都へ上り、安倍晴明(あべのせいめい)と出会うのだが・・・。
 鴉夜の出自、そして不老不死の身体となった経緯が語られる。特に彼女の肉体を変化させた技術の出所には、驚くとともに納得。たしかに、そういう世界だったよね、ここは。


「鬼人芸」
 維新の後、明治政府は "怪奇一掃" を掲げて《鬼殺し》と呼ばれる特設部隊を結成した。狐狸妖怪や天狗・鬼等の規格外生物、いわゆる"怪物" 殺しを専門に請け負う連中だ。複数あるグループの中に、津軽が所属するものもあった。
 いずれも凄腕の仲間たちとともに "駆除" にあたっていたある日、謎の2人組に遭遇する。一人は杖をついた老人。そしてもう一人は両手にナイフをもつ若い男で、瞬く間に仲間たちを殺戮、津軽も囚われの身となってしまう・・・
 津軽が "鬼の力" を身につけるに至った、壮絶な体験を描く。


「言の葉一匙、雪に添え」
 鴉夜が首だけの存在となったときのエピソード。
 彼女が14歳で不老不死となり、幾星霜。956歳となった彼女は信州の山奥で隠棲していた。側に仕えるは馳井家の者たち。その一人である静句は、日常の仕事に加え、武術にも励む日々。
 300年前から続く馳井一族と鴉夜の暮らしは、いつまでも続くかと思われた。ある雪の日に、謎の2人組が現れるまでは・・・


「人魚裁判」
 ノルウェーの古都、トロンハイム。そこである裁判が開かれる。
 地元の名士ラーシュ・ホルトが殺害された。検事に相当する審問官はエイスティン・ベアキート。子爵家長男にして陸軍省の若手ホープ。そしてラーシュの親友でもある。
 そして被告として法廷に引き出されてきたのは、人魚。〈異形裁判〉と呼ばれてはいるが、実際は公開怪物駆除だ。なぜなら ”怪物” の弁護に立つ者などいないからだ。
 しかし今回は違う。人魚の弁護をしようと立候補した者がいたのだ。それは鳥籠の中に入った、首だけの少女だった・・・
 法廷での鴉夜の弁論はきわめて論理的で、エイスティンの理屈を突き崩してゆく。本書の中でもっともミステリ度が高い。怪物が跋扈する世界だが、そこで展開される推理は現実に即したものできっちりと腑に落ちる。
 このあたりを読んでると、作者が鮎川哲也賞でデビューしたミステリ作家であることを思い出させる。


 鴉夜と津軽の間で交わされる漫才のような掛け合いは、このシリーズの名物(?)だったけど、巻数も重ねたせいか本書ではさらに磨きがかかっているようで、長年連れ添った熟年の夫婦漫才みたいな風格さえ漂う。これでは、横で見ている静句さんが心穏やかでないのもわかろうというもの(笑)。

 次章のタイトルは『秘薬』となるらしい。特殊な世界設定、登場人物の多さ(しかもそのほとんどが超有名キャラ)、しかもそれを活かした 事件 / 物語展開 を設定しなければならないのだから、書く方はたいへんだろう。
 作者さんは他のシリーズも抱えているので時間はかかるかも知れないけど、期待して待ちましょう。



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