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いちばん初めにあった海 [読書・ミステリ]


いちばん初めにあった海 (幻冬舎文庫)

いちばん初めにあった海 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 加納朋子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/09/01
評価:★★★★

 中編ミステリ「いちばん初めにあった海」「化石の樹」の2作を収録。
 この2つは関連していて、「いちばん-」の中で残った謎の真相が「化石-」の中で明かされる。
 内容にはけっこう重いものもあるのだけど、ラストには ”救い” と ”希望” が提示される。これは作者ならではの持ち味だろう。だから、途中の展開は辛いのだが、読後感は素晴らしく良い。


「いちばん初めにあった海」

 主人公は堀井千波という20代の女性。1DKのアパートで一人暮らしをしているが、住民たちの生活騒音に耐えかねて引っ越しを決意、荷物整理を始めたところ、読んだ覚えのない1冊の本を見つける。そのページの間には未開封の封筒が。それは千波宛ての手紙だった。差出人は ”YUKI”。その文面の中には「私も人を殺したことがある」という記述が。

 物語は、現在の千波と、高校時代の千波を交互に語っていく。

 高校生だった千波のクラスに転校生が入ってきた。彼女の名は結城麻子(ゆうき・あさこ)。読者はこの時点で ”YUKI” が彼女であることを知るが、同時に、現在の千波は高校時代を含め、記憶の一部を失っていることも判明する。

 麻子はどういう経緯で ”YUKI” の手紙を書くのか、なぜ千波は記憶を失っているのか、そして高校から現在までの間に、千波に何が起こったのか。
 そして「私 ”も” 人を殺した」とはどういう意味なのか・・・


「化石の樹」

 主人公は、大学を卒業したものの、定職に就かずに植木業者でアルバイトをしている青年。物語は彼の一人称で進むが、どうやら彼は目の前にいる女性に向かって語りかけているらしいことが分かってくる。

 彼が働いている植木業者の主・サカタさんは、弱っている金木犀の ”治療” のため、根本付近を調べると、そこにあるうろにはコンクリートが詰まっていた。コンクリを取り除くと、そこには子どものおもちゃと思われるものがたくさん詰まっており、さらにその中には厳重に梱包されたノートが一冊。

 それは、かつてその金木犀が植えられていた保育園で働いていた保母さんの手記だった。そこには園内で起こった ”ある事件” が記録されていた。

 その手記を読んだ青年は、その ”事件” を調べ始める。彼の辿り着いた真相は ”事件” そのものの様相を変え、本書の物語は素晴らしいエンディングへと向かっていく。


 2作を通して読むと、登場人物の哀しみ苦しみに胸が痛むが、このラストで救われる。読者は微笑みを以て本を閉じることができるだろう。



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