吸血蛾 [読書・ミステリ]
評価:★★
横溝正史・復刊シリーズの一冊。
横溝正史の作品の特徴として「怪奇性」が挙げられるが、本書はその極致とも言えるかと思う。ただ、あまりにも猟奇的すぎて、横溝正史というよりは江戸川乱歩の雰囲気に近いと思う。
狼のような牙で乳房をえぐり取られた死体とか、切断された脚が浅草の劇場の舞台上に現れたり、アドバルーンにぶら下げられて空中浮遊するとか、本書の中で描かれるのはまるっきり江戸川乱歩の世界で、そのうち明智小五郎や怪人二十面相が出てきそう。あ、二十面相は人を殺さないんだよね。
ちなみに、私は江戸川乱歩も好きですよ(笑)。
死者の数も、横溝作品中でトップを競えるくらい大量に出る。金田一耕助も殺人鬼の跳梁を止めることができず、ラスト数ページに至るまでほとんどいいところがない。物語の構成上仕方がないとは言え、これじゃ無能って言われても反論できないよねぇ。そのへんも評価が低い理由かな。
それでは内容紹介。
浅茅文代(あさじ・ふみよ)はトップの人気を誇る新進気鋭の服飾デザイナー。彼女にモデルとして使ってもらいたい者も多かったが、文代は自分が選んだ7人の女性しか使わない。彼女らは自分たちを ”虹の会” と称していた。
その文代のもとに、1個のリンゴが届けられる。狼の牙でかじられたような歯形をついたそのリンゴを見て、文代は失神してしまう。
そして文代のアトリエに届けられた木箱の中から、女性の死体が現れる。左の乳房を鋭い牙でかみちぎられ、その血だまりの中に浮いているのは一匹の蛾。死者は ”虹の会” のモデルの1人だった・・・
帽子・外套・マフラー・眼鏡まですべて灰色ずくめで、口の中に牙をもつ怪紳士を皮切りに、ライバルのデザイナーのもとを去って文代へ弟子入りした美少年、文代のファッションショーには必ず現れる老昆虫学者、さらには文代のパリ留学時代の同棲相手、現在のパトロン、そして彼女を恐喝する謎の男・”ムッシューQ” など、胡散臭い人物には事欠かない。
こういう強烈なキャラクターたちが入り乱れて物語をかき回すうちに、どんどん死者が積み重なっていくという、ある意味すごい話ではある。
さながら、和洋中全部のせの大盛り料理みたいで、消化不良になりながら読みました(笑)。
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