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星系出雲の兵站 (第二部) -遠征- (全5巻) [読書・SF]

星系出雲の兵站-遠征- 1 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站-遠征- 1 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 2 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站-遠征-3 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站-遠征-3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 4 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 4 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: 文庫
星系出雲の兵站―遠征― 5 (ハヤカワ文庫JA)

星系出雲の兵站―遠征― 5 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 林 譲治
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

地球人が送り出した播種船の到着から始まった、
出雲星系を中心とする五星系文明。

そのひとつ、壱岐星系に突如現れた謎の異星人・ガイナス。
第一部では、準惑星・天涯に建設されたガイナスの橋頭堡を巡る
人類とガイナスとの戦いが描かれた。

戦いの中で人類は少しずつガイナス兵の正体を知っていく。
彼ら一人一人には自意識はなく、”集合意識” の下で行動していること、
ガイナス兵は何者かによって創り出された生命体で、
彼らの背後には、”造物主” にあたる
”原ガイナス人” とも言うべき存在がいること。

第二部は、200年前に五星系の外部へと向けて発進した探査船から
もたらされた、「敷島星系に文明あり」という情報から始まる。
敷島星系は壱岐星系から20光年の位置にあった。

天涯を奪回した人類は、壱岐星系外縁の小惑星に建設されていた
ガイナスの拠点を発見、周囲に要塞を築いて封じ込めると同時に
彼らとの意思の疎通を図って接触を開始していた。

一方、敷島星系に向かった調査艦隊は星系内の2カ所に文明を発見する。
地球型惑星・敷島には巨大なリング状構造物が存在し、
敷島の外縁を巡るガス惑星・桜花の衛星・美和には
”原ガイナス人” と思われる生命体が存在していた。

人類は ”原ガイナス人” を ”ゴート” と名づけ、
敷島星系の外縁に機動要塞を建設、そこを足がかりに
惑星・敷島と衛星・美和の調査を本格化させていく。

やがて惑星・敷島の調査から得られた種々のデータから、
敷島が過去に経験したとてつもなく激烈な歴史が明らかになる。

同じ頃、出雲星系では人類の播種船の一部と思われる遺物が発見され、
敷島星系からも太古の文明の残渣と思われる遺跡が次々と見つかり、
太古の時代に何が起こったのかが次第に明らかになっていく・・・

地上戦・艦隊戦と派手なドンパチが多かった第一部とは異なり、
異星文明のルーツの探索という、一見地味な展開から始まる。
しかしそれは、やがて有史以前の時代に起こった
人類社会とゴート社会の ”創世の秘密” という
壮大なドラマへとつながっていく。

第一部からあちこちに蒔かれてきた伏線が回収され、
最終巻に至って、それらが太古に起こった ”巨大イベント” へと
再構成されていく様は、よくできたミステリのようでもある。

 このあたり、J・P・ホーガンの名作『星を継ぐ者』を
 連想する人もいるんじゃないかな。

ガイナスによる壱岐星系侵攻の ”真の目的” もまた明らかになり、
最終巻の終盤ではスペースオペラらしい最終決戦も描かれる。

水神指令長官や火伏兵站監など、第一部の主要人物も引き続き登場するが
第二部では彼らは脇役に回り、代わって舞台中央に現れるのは
烏丸三樹夫(からすま・みきお)というキャラクター。

 この名前を見てピンと来た人は私のお仲間です(笑)。

彼はもともと士官大学校の教官で電子戦の専門家だったが、
拠点に封じ込めたガイナスとの意思疎通を担当する部隊の指揮官として
現場に担ぎ出されてきた。だから軍人というより学者の雰囲気が強い。

 第一部で登場した軍人たちの中にも、
 学生時代に彼の教えを受けたものは多く、
 彼のことを「烏丸先生」と呼ぶ者も少なくない。

しゃべり方こそ「~でおじゃる」と一風変わっているが(笑)
アタマの切れは抜群で、第二部をミステリとして捉えるなら
ホームズ役に相当する役回り。先任参謀の三条はワトソン役だ。
拠点のガイナスと会話を成立させ、彼らの思考の有り様を探っていく。

第一部・第二部を通じて、異星人との星間戦争ものとして、
ファースト・コンタクトものとして、そして
戦時の兵站をテーマに社会的な視点も見せてくれるという、
SFの面白さが存分に詰まった傑作だと思う。

作中には、本筋に関係ないところで
いろんな小ネタが散りばめられているんだけど
その中から2つだけ紹介して終わりにする。

烏丸三樹夫(このネーミングからしてすでにネタなんだけど)が
ガイナスとの意思疎通のために繰り出す ”道具” のひとつに
”ガイナス兵をかたどった巨大ロボット”(笑) がある。
別にギャグではなく、ちゃんとした真面目な意図があるのだけど
そのスペック(身長・体重)を知ってちょっとびっくり。
懐かしい思いをする人もいるかも知れない(笑)。

そして、敷島星系の衛星・美和を調査する天文学者の名が
ジャック ”真田” というんだけど、彼が ”ある台詞” を言う。
それは・・・もうおわかりですね(笑)。

これらはごく一部だけど、こんな小ネタを織り交ぜながらも、
描かれる本筋は極太の本格SF&スペースオペラ。
存分に楽しませてもらいました。


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